交通事故の際、シートベルトは命を守るための重要な安全装置ですが、その一方で、衝突時の強い力が身体に加わることで、シートベルトが当たる部分に特有の損傷を引き起こすことがあります。
これを「シートベルト損傷」と呼びます。
過去の患者さんでも、シートベルトの跡がくっきりとカラダに付いて、右肩から胸、背中、腰、左股関節に強い痛みを訴えていた方がいらっしゃいます。
ここでは、交通事故によるシートベルト損傷についてまとめていきます。
交通事故のシートベルト損傷|シートベルトが体にダメージを与える怪我
シートベルト損傷とは?
シートベルト損傷は、交通事故の衝撃により、シートベルトが締め付けられる部分(主に胸部、腹部、肩)に強い圧力がかかることで発生する、様々な程度の外傷の総称です。
シートベルトが適切に着用されていればいるほど、体が車内に固定され、衝突時の衝撃が一点に集中しやすくなるため、損傷が生じることがあります。
シートベルト損傷の主な種類と症状
シートベルトが身体を締め付ける力によって、以下のような損傷が発生する可能性があります。
- 皮膚・軟部組織の損傷:
- シートベルト痕(シートベルトマーク): 最も軽度な損傷で、シートベルトの形に沿って皮膚が赤くなったり、内出血を起こしたりします。線状のあざとして現れることが多いです。
- 打撲: 強い衝撃により、シートベルトが当たった部分の筋肉や皮下組織が損傷し、痛みや腫れ、広範囲の内出血が見られます。
- 擦過傷・裂傷: シートベルトによる摩擦や、内装材などとの接触によって、皮膚が擦りむけたり、深く裂けたりすることもあります。
- 骨格系の損傷:
- 胸骨骨折・肋骨骨折: 胸部シートベルトによる強い圧迫で、胸の真ん中にある胸骨や、あばら骨である肋骨が折れることがあります。激しい痛み、呼吸時の痛み、咳やくしゃみでの痛みが特徴です。
- 鎖骨骨折: 肩のシートベルトが強く当たることで、鎖骨が折れることがあります。肩や腕を動かす際の痛み、腫れ、変形が見られます。
- 脊椎(せきつい)圧迫骨折: 特に腰部シートベルトの圧迫や、衝突時の上半身の急激な前屈によって、背骨(胸椎や腰椎)が圧迫され、つぶれるように骨折することがあります。背中や腰の強い痛み、動きの制限が生じます。
- 内臓の損傷(シートベルト症候群):
シートベルト損傷の中で、最も重篤で注意が必要なのが内臓の損傷です。外見上は軽傷に見えても、体内で深刻な損傷が起きている可能性があるため、「シートベルト症候群」とも呼ばれます。- 腹部内臓損傷: 腰部シートベルトが腹部に食い込むことで、腸管(小腸や大腸)、肝臓、脾臓、腎臓、膵臓などの内臓が損傷することがあります。
- 症状としては、腹部の強い痛み、吐き気、嘔吐、腹部の張り、発熱、血便、血尿などが挙げられます。損傷部位によっては、初期には自覚症状が少ないこともあり、時間差で症状が現れることもあるため、注意が必要です。
- 胸部内臓損傷: 胸部シートベルトによる圧迫で、肺(気胸、血胸)、心臓、大動脈などが損傷することがあります。
- 症状としては、呼吸困難、胸の痛み、血痰、意識障害など、非常に重篤な状態に陥る可能性があります。
- 腹部内臓損傷: 腰部シートベルトが腹部に食い込むことで、腸管(小腸や大腸)、肝臓、脾臓、腎臓、膵臓などの内臓が損傷することがあります。
シートベルト損傷の診断と治療
シートベルト損傷は、見た目の怪我の程度と、体内で起きている損傷の重症度が一致しないことがあります。
そのため、必ず専門の医療機関を受診し、正確な診断を受けることが不可欠です。
- 診断:
- 診察と問診: 医師が症状を詳しく聞き、身体の状態を確認します。シートベルトの着用状況や、事故時の体の動きなども重要な情報となります。
- 画像検査:
- レントゲン検査: 骨折(胸骨、肋骨、鎖骨、脊椎など)の有無を確認するために行われます。
- CT検査: 内臓損傷の有無や程度を詳しく調べるために非常に有効です。腹部や胸部の内臓の状態を詳細に把握できます。
- 超音波(エコー)検査: 腹部内臓の損傷や内出血の有無を確認するために行われることがあります。
- MRI検査: 脊椎の損傷や神経の圧迫、靭帯損傷などをより詳しく評価するために用いられることがあります。
- 治療:損傷の種類と重症度によって治療法は大きく異なります。
- 皮膚・軟部組織の損傷: 冷却、圧迫、安静、薬物療法(痛み止め、湿布など)が中心となります。必要に応じて傷の手当てを行います。
- 骨折:
- 安静と固定: ギプス、コルセット、バンドなどを用いて、骨折部位を固定し、安静を保ちます。
- 痛み止めの処方: 痛みをコントロールするための薬が処方されます。
- 手術: 骨折の程度や種類によっては、手術が必要となる場合もあります。
- 内臓損傷:
- 入院管理: 内臓損傷が疑われる場合や確認された場合は、緊急入院して厳重な経過観察が必要です。
- 保存療法: 損傷の程度が軽度であれば、安静、点滴、絶食などで自然治癒を待ちます。
- 手術: 出血が止まらない、臓器の損傷が重度である、穿孔(穴が開くこと)があるなどの場合は、緊急手術が必要となります。
重要な注意点
- 事故後の早期受診: 交通事故後、シートベルトが当たった部分に痛みや違和感がある場合は、必ずすぐに病院(整形外科、または救急科)を受診してください。 外見上は目立った傷がなくても、内臓に損傷がある可能性も考慮し、医師にシートベルトが当たったことを明確に伝えましょう。
- 症状の経時変化: 内臓損傷の場合、事故直後には症状が出ず、数時間~数日経ってから症状が現れることがあります。体調の変化に注意し、異変を感じたらすぐに再受診してください。
- 医師の指示に従う: 診断された病名に基づき、医師の指示に従って治療を継続することが最も重要です。自己判断で治療を中断したりせず、医師と密に連携を取りましょう。
シートベルト損傷は、その性質上、見逃されると重篤な結果を招く可能性があります。
交通事故に遭った際には、シートベルト着用部位の身体の変化には特に注意を払う必要があります。