交通事故による「お尻・臀部の怪我・痛み」

交通事故について

 

交通事故では、お尻や臀部(でんぶ)も大きな衝撃を受けやすい部位であり、様々な怪我や痛みを負う可能性があります。

特に、側面衝突、後方からの追突、あるいはシートベルトによる圧迫、車内での体が投げ出されるような衝撃などが原因で、お尻や骨盤周辺に過度な負担がかかります。

お尻・臀部の怪我は、座る、立つ、歩くといった日常生活の基本的な動作に影響を及ぼし、長期的な痛みに繋がることも多いため、早期の正確な診断と適切な治療が不可欠です。

交通事故による「お尻・臀部の怪我・痛み」

交通事故におけるお尻・臀部の怪我の種類

お尻・臀部は、骨盤、仙骨、尾骨といった骨の集合体であり、その周囲を強力な臀筋群(大臀筋、中臀筋、小臀筋など)や、坐骨神経などの重要な神経、血管が走行しています。交通事故の衝撃は、これらのいずれにも損傷を与える可能性があります。

 

1. 骨盤骨折

骨盤骨折は、交通事故による高エネルギー外傷の典型であり、非常に重篤な怪我です。特に、側面衝突や歩行者・自転車・バイクの事故で、骨盤に直接的な強い衝撃が加わった際に発生します。

  • 症状:
    • 激しい痛み: 骨盤周囲に耐え難いほどの痛みが持続し、少しでも動かすと激痛が走ります。
    • 著しい腫れと内出血: 患部が大きく腫れ上がり、広範囲にあざができることがあります。
    • 歩行困難: 体重をかけることができず、自力での歩行はほぼ不可能です。
    • 下肢の長さの変化や変形: 重度の骨折では、下肢の長さが変わったり、骨盤の変形が見られることがあります。
  • 特徴: 骨盤の内部には膀胱、尿道、直腸、血管、神経などが位置しているため、骨折によりこれらの内臓や神経、血管が損傷する合併症のリスクが高いです。特に、出血量が非常に多くなることがあり、生命に関わる緊急事態となることもあります。迅速な医療対応が求められ、多くの場合、手術が必要となります。

 

2. 仙骨骨折・尾骨骨折

仙骨は骨盤の中央に位置し、脊椎と骨盤をつなぐ骨です。尾骨は仙骨の下にある、いわゆる「しっぽの骨」です。交通事故で直接座面に強く打ち付けられたり、後方からの強い衝撃を受けたりすることで骨折することがあります。

  • 症状:
    • 仙骨骨折: 仙骨周辺の痛み、特に座ったり寝返りを打ったりする際に痛みが強まります。神経損傷を伴うと、下肢のしびれや排泄障害(尿失禁、便失禁)が生じることもあります。
    • 尾骨骨折: 座る、立ち上がる、排便時などに強い痛みを感じます。
  • 特徴: 仙骨骨折は重篤な場合が多く、神経損傷の有無を確認する必要があります。尾骨骨折は保存療法が主ですが、痛みが慢性化しやすい傾向があります。

 

3. 臀部の打撲(筋挫傷・血腫)

お尻の筋肉(臀筋群)に直接的な衝撃が加わることで起こる怪我です。シートベルトによる圧迫、車内での衝突、あるいは転倒や地面への叩きつけなどで発生します。

  • 症状: 患部の痛み、腫れ、内出血(あざ)が見られます。押すと強い痛みがあります。
  • 特徴: 骨折がない場合でも、内出血や腫れがひどいと座ったり歩いたりするのが困難になることがあります。筋肉内に大きな血腫ができると、痛みが長引いたり、しこりとして残ったりすることもあります。

 

4. 坐骨神経痛

交通事故による骨盤骨折、臀部の筋肉の損傷(筋挫傷や血腫)、または椎間板ヘルニアの誘発などにより、坐骨神経が圧迫されたり、刺激されたりすることで生じることがあります。

  • 症状: お尻から太ももの裏、ふくらはぎ、足にかけての電気が走るような痛み、しびれ、感覚の麻痺などが現れます。
  • 特徴: 事故直後から症状が出ることもあれば、後から徐々に現れることもあります。神経症状は回復に時間がかかることが多く、後遺症として残る可能性もあります。

 

5. 股関節周囲の痛み(関連痛)

臀部の痛みは、実際には股関節の怪我(例:股関節脱臼、寛骨臼骨折、股関節唇損傷など)が原因で生じている関連痛である可能性もあります。股関節は臀部の深部に位置するため、股関節の痛みが臀部に放散して感じられることがあります。

  • 症状: 股関節を動かす際に痛みが生じたり、股関節の動きが制限されたりします。
  • 特徴: 臀部の痛みの原因が股関節にある場合、股関節の治療が必要となります。

 

交通事故によるお尻・臀部の痛みの特徴と注意点

交通事故によるお尻・臀部の怪我や痛みは、その特性上、特に注意すべき点がいくつかあります。

  • 高エネルギー外傷の指標: 骨盤骨折など臀部の重篤な怪我は、非常に大きな外力が加わったことを示唆しており、他の部位(脊椎、腹部内臓、頭部など)にも見落とされがちな重篤な損傷が隠れている可能性があります。全身の評価が重要です。
  • 内臓・神経損傷の合併: 骨盤の周囲には重要な内臓や神経が密集しているため、骨折や強い打撲により、これらが損傷するリスクがあります。特に、膀胱や尿道の損傷、坐骨神経や仙骨神経叢の損傷は、深刻な機能障害(排泄障害、下肢麻痺など)につながることがあります。
  • 出血量の多さ: 骨盤骨折は、大量の出血を伴うことが多く、出血性ショックを引き起こし、生命に関わる緊急事態となることがあります。
  • 診断の難しさ: 臀部の痛みは、骨折、筋肉の損傷、神経の圧迫、股関節の関連痛など、様々な原因が考えられるため、正確な診断が難しい場合があります。特に、レントゲンでは分かりにくい神経損傷や微細な骨折、軟部組織の損傷を見つけるためには、CTやMRIといった詳細な画像検査が不可欠となることが多いです。
  • 慢性化・後遺症のリスク: お尻・臀部の怪我は、適切に治療されないと、慢性的な痛み、股関節や腰部の可動域制限、歩行障害、排泄障害などの後遺症が残りやすい部位です。特に神経損傷が伴う場合は、しびれや麻痺が長期化する可能性があります。
  • 早期の専門医受診の重要性: 交通事故によるお尻・臀部の痛みや怪我は、自己判断せずに速やかに整形外科などの専門医を受診することが極めて重要です。特に、強い痛み、広範囲の腫れ、歩行困難、しびれや麻痺、排泄障害があるといった場合は、緊急性の高い状態である可能性もありますので、すぐに受診しましょう。
  • 法的・補償問題: 交通事故による怪我の場合、治療費、休業補償、後遺障害の認定など、保険会社とのやり取りが必要になります。事故との因果関係を明確にし、今後の補償問題に適切に対応するためにも、早期の受診と詳細な診断書の作成が不可欠です。後遺障害診断書は、将来的な生活への影響を評価する上で非常に重要ですし、臀部の痛みは「非器質的損傷」とみなされがちで、適切な診断と経過観察がなければ、正当な補償が得られにくいケースもあります。

交通事故に遭われた場合、お尻・臀部周辺にわずかでも痛みや違和感がある場合は、決して軽視せず、必ず医療機関を受診してください。特に、激しい痛み、広範囲の腫れ、歩行困難、しびれや麻痺があるといった場合は、緊急性の高い状態である可能性もありますので、すぐに受診しましょう。早期の専門的な対応が、適切な回復と将来的な健康維持のために最も重要です。