交通事故では、すね(下腿の前面)も大きな衝撃を受けやすい部位の一つです。
車内での衝突、歩行中や自転車・バイクでの事故による直接的な衝撃、あるいはシートベルトによる圧迫など、様々な状況で、すねの骨(脛骨)や周囲の筋肉、神経、血管に過度な負担がかかり、深刻な怪我につながることがあります。
すねの怪我は、歩行や日常生活に大きな影響を及ぼすため、早期の正確な診断と適切な治療が不可欠です。
交通事故による「すねの怪我・痛み」
交通事故におけるすねの怪我の種類
すねの大部分は、皮膚のすぐ下に脛骨という太い骨が位置しており、外部からの衝撃を直接受けやすい構造になっています。
1. 脛骨(けいこつ)骨折
すねの骨折は、交通事故によるすねの怪我の中で最も頻繁かつ重篤なものの一つです。直接的な衝撃(例:バンパーがすねに直撃)、ねじれの力(例:車内に足が挟まれた状態でのねじれ)、あるいは高所からの落下衝撃(稀に交通事故で発生)などによって発生します。
- 症状:
- 激しい痛み: 骨折部に強い痛みが持続し、体重をかけるとさらに悪化します。
- 著しい腫れと変形: 患部が大きく腫れ上がり、骨折の状態によっては肉眼で分かるほどの変形が見られることがあります。
- 皮下出血: 広範囲にあざができることがあります。
- 歩行不能: ほとんどの場合、自力での歩行は不可能です。
- 開放骨折: 骨が皮膚を突き破って外に露出するケースもあり、感染のリスクが高く、緊急手術が必要です。
- 種類:
- 脛骨幹部骨折: すねの中央部分の骨折で、スポーツ外傷よりも交通事故で発生しやすい傾向があります。
- 脛骨高原骨折: 膝関節に近い脛骨上端の骨折で、膝の機能に大きな影響を及ぼします。
- 脛骨遠位端骨折(足首に近い部分の骨折): 足首の怪我と合併することもあります。
- 特徴: 脛骨は血流が比較的少ない部位があるため、治癒に時間がかかったり、癒合不全(骨がうまくくっつかないこと)のリスクがあったりすることがあります。
2. 打撲(挫傷)
すねに直接的な衝撃が加わることで起こる怪我です。交通事故では、ダッシュボードへの衝突、シートベルトによる圧迫、あるいは歩行者や自転車が車に跳ね飛ばされる際に地面に叩きつけられるなどで発生します。
- 症状: 患部の痛み、腫れ、内出血(あざ)が見られます。
- 特徴: 骨折がない場合でも、内出血や腫れがひどいと歩行が困難になることがあります。特に注意すべきは、コンパートメント症候群への進行です。これは、すねの筋肉を覆う筋膜の中で内出血や腫れがひどくなり、神経や血管を圧迫する重篤な状態です。放置すると筋肉や神経の壊死につながる可能性があるため、激しい痛みやしびれ、足指の麻痺などがあれば、緊急の処置が必要です。
3. 疲労骨折
一度の大きな衝撃ではなく、交通事故による体のバランスの変化や、事故後のリハビリ、日常生活での不自然な負担が繰り返しすねに加わることで発生することがあります。
- 症状: 運動時や体重をかけた際の徐々に増していく痛みが特徴です。安静にすると痛みが和らぎますが、再び活動すると痛みが出ます。
- 特徴: 事故直後ではなく、数週間から数ヶ月後に発症することがあります。通常のレントゲンでは見えにくい場合があり、MRIなどの詳細な画像検査が必要になることがあります。
4. 神経損傷
すねには、足の感覚や運動を司る重要な神経(腓骨神経、脛骨神経など)が走行しています。交通事故による骨折や筋肉の損傷、あるいは直接的な圧迫によって、これらの神経が損傷する可能性があります。
- 症状: 患部のしびれ、感覚の麻痺(感覚がない、鈍い)、異常感覚(ピリピリ感、焼けるような痛み)、重度の場合は足首や足指の動かしにくさ(例:下垂足:足首が持ち上がらず、つま先が垂れ下がってしまう状態)などが現れます。
- 特徴: 神経損傷は回復に時間がかかることが多く、後遺症として残る可能性もあります。
5. 血管損傷
交通事故の強い衝撃で、すねの主要な動脈や静脈が損傷し、重度の内出血(血腫)や血流障害を起こすことがあります。
- 症状: 激しい痛み、腫れ、皮膚の蒼白化や冷感、しびれなど。
- 特徴: コンパートメント症候群の主要な原因となることがあり、緊急手術が必要となる生命や機能に関わる状態に発展する可能性もあります。
交通事故によるすねの痛みの特徴と注意点
交通事故によるすねの怪我や痛みは、その特性上、特に注意すべき点がいくつかあります。
- 重篤化しやすい部位: すねは骨が皮下に近く、直接的な衝撃を受けやすいため、骨折や重度の打撲、血管・神経損傷といった重篤な怪我につながりやすいです。
- コンパートメント症候群のリスク: すねは筋膜で区切られたいくつかの区画(コンパートメント)があり、打撲や骨折による内出血で圧力が異常に高まると、コンパートメント症候群を引き起こす危険性があります。これは緊急性の高い疾患で、早期の診断と処置(筋膜切開術など)が行われないと、筋肉や神経の壊死、永続的な機能障害につながります。
- 複合損傷の可能性: 交通事故の衝撃は複雑であるため、すねの骨折と筋肉損傷、神経・血管損傷などが複合的に発生する複合損傷の可能性が高いです。
- 初期症状の見落とし: 事故直後は、他の部位の痛みや精神的なショックのため、すねの怪我にすぐに気づかなかったり、軽視してしまったりすることがあります。しかし、特にコンパートメント症候群の兆候(激しい痛み、しびれ、足指の麻痺など)を見逃さないことが極めて重要です。
- 早期の専門医受診の重要性: 交通事故によるすねの痛みや怪我は、自己判断せずに速やかに整形外科などの専門医を受診することが極めて重要です。レントゲンだけでなく、CT、MRI、血管造影、神経伝導検査などを組み合わせて、損傷の部位や程度を正確に診断し、適切な治療計画を立てる必要があります。特に、神経症状や激しい腫れがある場合は、迅速な対応が必要です。
- 法的・補償問題: 交通事故による怪我の場合、治療費、休業補償、後遺障害の認定など、保険会社とのやり取りが必要になります。事故との因果関係を明確にし、今後の補償問題に適切に対応するためにも、早期の受診と詳細な診断書の作成が不可欠です。
交通事故に遭われた場合、すねにわずかでも痛みや違和感がある場合は、決して軽視せず、必ず医療機関を受診してください。特に、痛みが強い、腫れがひどい、しびれや麻痺があるといった場合は、緊急性の高い状態である可能性もありますので、すぐに受診しましょう。早期の専門的な対応が、適切な回復と将来的な健康維持のために最も重要です。