交通事故による「アキレス腱の怪我・痛み」

交通事故について

交通事故は、予期せぬ大きな衝撃が体に加わるため、アキレス腱のような強靭な腱組織にも重篤な損傷を引き起こす可能性があります。

アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)と踵の骨(踵骨)をつなぐ、人体で最も太く強靭な腱であり、歩く、走る、跳ぶといった基本的な動作に不可欠な役割を担っています。

交通事故では、急ブレーキによる足の踏み込み、衝突時の足への直接的な衝撃、バイク事故での巻き込みなど、様々な状況でアキレス腱に過度な負担がかかり、深刻な怪我につながることがあります。

交通事故による「アキレス腱の怪我・痛み」

交通事故におけるアキレス腱の怪我の種類

交通事故によってアキレス腱に生じる怪我は、その衝撃の種類や程度によって異なります。

 

1. アキレス腱断裂

交通事故によるアキレス腱の怪我の中で、最も重篤かつ頻度の高いものの一つです。急激な強い張力や、予期せぬ方向からの外力によって腱が限界を超えて引き伸ばされたり、直接的な衝撃を受けたりすることで発生します。

  • 症状:
    • 突然の激しい痛み: 「バシッ」「ブチッ」といった断裂音とともに、ふくらはぎや踵のあたりに突然激しい痛みが走ります。
    • 歩行困難: つま先立ちができなくなり、まともに歩くことが非常に困難になります。
    • 陥凹(かんおう): アキレス腱の断裂部に、指で触れるとへこみ(陥凹)が確認できることがあります。
    • 力が入らない: 足首を底屈(つま先を下に向ける動き)させようとしても、ふくらはぎに力が入らず、力が伝わらない感覚があります。
  • 特徴: スポーツ中の断裂とは異なり、交通事故では予想外の状況で発生するため、初期症状を見逃しがちになることがあります。断裂は完全断裂の場合が多く、通常は手術的治療が必要となります。

 

2. アキレス腱炎(腱鞘炎、腱周囲炎)

アキレス腱炎は、腱そのものやその周囲の組織に炎症が起きる状態です。交通事故では、直接的な衝撃による損傷の他、事故時の急激な足首の動作や、事故後に足首に不自然な負担がかかり続けることで発生することがあります。

  • 症状:
    • 運動時の痛み: 特に歩き始めや、階段の上り下り、つま先立ちなどでアキレス腱周囲に痛みが生じます。
    • 圧痛: アキレス腱を指で押すと痛みがあります。
    • 腫れや熱感: 炎症が強い場合、患部に腫れや熱感が認められます。
    • 朝の痛みやこわばり: 朝起きた際や、長時間安静にした後に足首を動かし始めると、アキレス腱がこわばって痛みを感じることがあります。
  • 特徴: 断裂に比べて症状は軽度ですが、放置すると慢性化したり、アキレス腱周囲に石灰沈着が起こったり、最終的に腱の変性を招き断裂のリスクを高めることがあります。

 

3. アキレス腱付着部炎

アキレス腱が踵の骨に付着する部分に炎症が起きる状態です。交通事故では、踵への直接的な衝撃や、足首の急激な背屈(つま先を上に向ける動き)によって、この付着部に強い張力が加わることで発生することがあります。

  • 症状:
    • 踵の痛み: 特にアキレス腱が踵に付着する部分に痛みが生じます。
    • 圧痛: 付着部を押すと強い痛みがあります。
    • 運動時の痛み: 歩行時や、特に上り坂、階段などで痛みが強まることがあります。
  • 特徴: アキレス腱炎と似た症状を示しますが、痛みの部位がより限定的です。

 

4. 打撲・挫傷(アキレス腱周辺)

アキレス腱そのものやその周囲に、直接的な衝撃(ぶつける、挟まれるなど)が加わることで生じる怪我です。

  • 症状:
    • 痛み、腫れ、内出血(あざ)が主な症状です。
    • 腱の連続性は保たれているため、足首の機能は比較的維持されますが、痛みのため動かしにくくなります。
  • 特徴: 他の重篤な怪我との鑑別が必要です。単なる打撲と思っても、後からアキレス腱炎や部分断裂が判明することもあるため注意が必要です。

 

交通事故によるアキレス腱の痛みの特徴と注意点

交通事故によるアキレス腱の怪我や痛みは、一般的なスポーツによるものとは異なる特性を持つことがあります。

  • 診断の見落とし: 交通事故直後は、脳震盪や他の部位の怪我(例:むちうち、骨折など)に意識が集中し、アキレス腱の損傷に気づかない、または軽視してしまうことがあります。特に、アキレス腱の部分断裂や初期の炎症などは、見逃されやすい傾向があります。
  • 重篤化のリスク: アキレス腱断裂の場合、早期に適切な治療を行わないと、腱が修復されず、慢性的な機能障害(つま先立ちができない、歩行のぎこちなさなど)が残る可能性が高まります。
  • 複合損傷の可能性: 交通事故の衝撃は複雑であり、アキレス腱の損傷と同時に足首の骨折や靭帯損傷が合併して起こることも珍しくありません。これにより、診断や治療がより複雑になることがあります。
  • 早期の専門医受診の重要性: 「ブチッ」という音や、突然の激痛、歩行困難などの症状がある場合は、アキレス腱断裂の可能性が非常に高いため、自己判断せずに直ちに整形外科などの専門医を受診することが極めて重要です。レントゲン、MRI、超音波検査などを組み合わせて、損傷の部位や程度を正確に診断する必要があります。
  • 法的・補償問題: 交通事故による怪我の場合、治療費、休業補償、後遺障害の認定など、保険会社とのやり取りが必要になります。事故との因果関係を明確にし、今後の補償問題に適切に対応するためにも、早期の受診と詳細な診断書の作成が不可欠です。

交通事故に遭われた場合、アキレス腱周辺に痛みや違和感、あるいは歩行に支障がある場合は、決して軽視せず、必ず医療機関を受診してください。早期の専門的な対応が、適切な回復と将来的な健康維持のために最も重要です。