交通事故による「膝の怪我・痛み」

交通事故について

交通事故では、膝は非常に衝撃を受けやすく、複雑な構造を持つがゆえに、様々な重篤な怪我を負う可能性のある部位です。

車内でのダッシュボードへの衝突、シートベルトによる圧迫、歩行中や自転車・バイク事故での直接的な衝撃、あるいは車体が膝に乗り上げるなど、多岐にわたる状況で膝に過度な負担がかかります。

膝の怪我は、歩行や日常生活に甚大な影響を及ぼし、長期的な機能障害につながることも多いため、早期の正確な診断と適切な治療が不可欠です。

交通事故による「膝の怪我・痛み」

交通事故における膝の怪我の種類

膝は、大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(膝のお皿)の3つの骨と、それらを強固につなぎ安定させる多数の靭帯、クッション材となる半月板、そして周囲の筋肉や腱が複雑に組み合わさってできています。交通事故の衝撃は、これらのいずれにも損傷を与える可能性があります。

 

1. 膝の靭帯損傷

膝の靭帯は、関節の安定性を保つために非常に重要です。交通事故では、膝に前後、左右、あるいはねじれの力が加わることで、靭帯が損傷したり断裂したりすることが多く見られます。

  • 症状:
    • 激しい痛み: 怪我の直後から強い痛みが生じます。
    • 腫れ: 関節内に内出血(関節血症)が起こり、膝が大きく腫れ上がることが多いです。
    • 不安定感: 靭帯が損傷すると、膝がグラグラする、力が抜けるような感じがするといった不安定感が現れます。
    • 可動域制限: 痛みや腫れのために膝を曲げ伸ばししにくくなります。
    • 「ガクッと外れる」感覚: 特に十字靭帯損傷で顕著に見られます。
  • 種類:
    • 前十字靭帯(ACL)損傷: 膝関節の安定に最も重要な靭帯の一つで、強い外力やねじれで損傷します。「ブチッ」という断裂音が聞こえることもあります。多くの場合、手術が必要となります。
    • 後十字靭帯(PCL)損傷: 膝を曲げた状態で脛骨が後方に強く押し込まれるような衝撃で損傷します(ダッシュボード損傷など)。
    • 内側側副靭帯(MCL)損傷: 膝の外側から内側への強い衝撃で損傷します(ラグビーなどで多いが、交通事故でも発生)。
    • 外側側副靭帯(LCL)損傷: 膝の内側から外側への強い衝撃で損傷します。
  • 特徴: 複数の靭帯が同時に損傷する複合靭帯損傷は、交通事故でよく見られ、より重篤な機能障害につながります。

 

2. 半月板損傷

半月板は、大腿骨と脛骨の間にあるC字型の軟骨で、膝への衝撃を吸収し、関節をスムーズに動かすクッションの役割を果たしています。交通事故では、膝に強いねじれや圧迫が加わることで損傷します。

  • 症状:
    • 痛み: 膝の特定の場所に痛みが生じ、特にひねったり体重をかけたりすると悪化します。
    • 引っかかり感、ロッキング: 膝を曲げ伸ばしする際に、何か引っかかるような感覚や、急に膝が動かせなくなる「ロッキング」現象が起こることがあります。
    • 水がたまる(関節水腫): 炎症によって膝に水がたまることがあります。
  • 特徴: 靭帯損傷と合併して起こることも多く、放置すると変形性膝関節症のリスクを高めます。

 

3. 骨折

膝を構成する骨(大腿骨下端、脛骨上端、膝蓋骨)が折れることがあります。交通事故での直接的な強い衝撃、あるいは間接的な力(例:シートベルトによる圧迫や、車外に体が投げ出された際の衝突)によって発生しやすいです。

  • 症状:
    • 激しい痛み: 骨折部に強い痛みが持続し、体重をかけるとさらに悪化します。
    • 著しい腫れと変形: 患部が大きく腫れ上がり、肉眼で分かるほどの変形が見られることもあります。
    • 皮下出血: 広範囲にあざができることがあります。
    • 歩行不能: ほとんどの場合、自力での歩行は不可能です。
  • 種類:
    • 脛骨高原骨折: 膝関節に近い脛骨の上端の骨折で、関節面が損傷するため、将来的に変形性膝関節症に移行するリスクが高いです。
    • 膝蓋骨骨折: 膝のお皿の骨折で、膝の曲げ伸ばしに重要な役割を担うため、機能に大きな影響が出ます。
    • 大腿骨顆部骨折: 大腿骨の膝に近い部分の骨折。
  • 特徴: 関節内骨折の場合、関節の適合性が失われ、後の変形性関節症のリスクが高まります。

 

4. 膝蓋骨脱臼(亜脱臼)

膝蓋骨が正常な位置から外れてしまう(あるいは外れそうになる)状態です。膝に強いねじれの力が加わったり、直接的な衝撃を受けたりすることで起こります。

  • 症状:
    • 強い痛み: 特に膝蓋骨が外れた瞬間に激痛が走ります。
    • 膝の変形: 膝のお皿が横にずれているのが目視できます。
    • 膝が動かせない: 自分で膝を伸ばすことが困難になります。
  • 特徴: 一度脱臼すると、再発しやすい傾向があります。

 

5. その他の軟部組織損傷

筋肉(大腿四頭筋、ハムストリングスなど)、腱(膝蓋腱、大腿四頭筋腱など)、滑液包などの損傷も、膝の痛みの原因となります。

  • 症状: 痛み、腫れ、動きの制限など。
  • 特徴: 腱の断裂などは手術が必要となることがあります。

 

交通事故による膝の痛みの特徴と注意点

交通事故による膝の怪我や痛みは、一般的なスポーツによる怪我とは異なる側面を持つことがあります。

  • 高エネルギー外傷: 交通事故は、日常では経験しないような非常に大きなエネルギーが体に加わるため、膝の損傷も重篤になりやすい傾向があります。複数の靭帯や骨が同時に損傷する複合損傷の可能性が高いです。
  • 初期症状の見落とし: 事故直後は、他の部位の痛みや精神的なショックのため、膝の怪我にすぐに気づかなかったり、軽視してしまったりすることがあります。しかし、放置すると症状が悪化したり、慢性的な痛みが残ったりする原因になります。特に、膝が腫れていても痛みがあまりない場合でも、重篤な靭帯損傷や骨折が隠れていることがあるため注意が必要です。
  • 後遺症のリスク: 膝の怪我は、適切に治療されないと、慢性的な痛み、膝の不安定性、可動域制限、筋力低下などの後遺症が残りやすい部位です。特に、関節内の損傷(靭帯断裂、半月板損傷、関節内骨折)は、将来的に変形性膝関節症へと移行するリスクが高く、長期にわたる影響が懸念されます。
  • 専門医による診断の重要性: 交通事故による膝の痛みや怪我は、自己判断せずに速やかに整形外科などの専門医を受診することが極めて重要です。レントゲンだけでなく、靭帯や半月板、軟骨の損傷を詳細に評価できるMRI検査は必須となることが多いです。必要に応じてCTスキャンも行われ、損傷の部位や程度を正確に診断し、適切な治療計画を立てる必要があります。
  • 法的・補償問題: 交通事故による怪我の場合、治療費、休業補償、後遺障害の認定など、保険会社とのやり取りが必要になります。事故との因果関係を明確にし、今後の補償問題に適切に対応するためにも、早期の受診と詳細な診断書の作成が不可欠です。後遺障害診断書は、将来的な生活への影響を評価する上で非常に重要です。

交通事故に遭われた場合、膝にわずかでも痛みや違和感がある場合は、決して軽視せず、必ず医療機関を受診してください。特に、強い痛み、腫れ、不安定感、膝のロッキング、動かせないといった症状がある場合は、緊急性の高い状態である可能性もありますので、すぐに受診しましょう。早期の専門的な対応が、適切な回復と将来的な健康維持のために最も重要です。