「ぎっくり腰」は俗称であり、医学的な正式名称はいくつかあります。
そして、その痛みが起こるメカニズムも一つではなく、複合的な要因が絡み合っていることが多いです。
ぎっくり腰の正式名称と医学的メカニズムに付いて解説していきます。少し難しいかもしれませんが、まとめておきますね。
ぎっくり腰の正式名称と医学的メカニズム
1. ぎっくり腰の正式名称
ぎっくり腰は、突然発症する急性腰痛の総称であり、特定の病気を指すものではありません。そのため、医療機関では、原因や状態に応じて様々な診断名がつけられます。代表的な医学的名称は以下の通りです。
- 急性腰痛症(Acute Low Back Pain):
これがぎっくり腰の最も一般的な医学的名称です。「急性」とは発症からの期間が短いこと(一般的に4週間以内)、「腰痛症」は腰の痛みを指します。原因が特定できない場合や、一般的なぎっくり腰のほとんどがこの診断名になります。 - 腰椎捻挫(Lumbar Sprain):
腰の骨(腰椎)と腰椎をつなぐ靭帯や関節包が、急激な外力によって損傷(捻挫)を起こした場合に診断されます。関節の可動域を超えた動きや、不自然なひねりなどが原因で起こりやすいです。 - 筋・筋膜性腰痛(Myofascial Low Back Pain):
腰部やその周辺の筋肉や筋膜が過度に引き伸ばされたり、損傷したりすることで起こる腰痛です。重いものを持ち上げたり、急な体勢の変化などが原因で、筋肉に急激な負荷がかかった場合に生じやすいです。 - 椎間関節症(Facet Joint Syndrome):
腰椎の椎体と椎体の間にある椎間関節に炎症や負荷がかかることで生じる痛みです。椎間関節は体を反らしたり、ひねったりする動作に関わるため、これらの動作で痛みが強くなる特徴があります。
この他にも、椎間板ヘルニアの初期症状や、仙腸関節の機能不全など、様々な原因でぎっくり腰のような症状が出ることがあります。
2. ぎっくり腰の医学的メカニズム
ぎっくり腰は、単一の原因で起こることは少なく、複数の要因が複雑に絡み合って発症することがほとんどです。主なメカニズムは以下の通りです。
(1) 急激な外力による組織の損傷
これが最も一般的なメカニズムです。
- 要因: 重い物を持ち上げる、急に体をひねる、かがむ、くしゃみをする、咳をするなど、日常の些細な動作でも起こり得ます。
- メカニズム: これらの急激な動作によって、腰部の筋肉、筋膜、靭帯、椎間関節の関節包などが、許容範囲を超えて引き伸ばされたり、部分的に断裂したりします。この損傷によって炎症が起こり、痛みを感じる神経が刺激されることで激痛が生じます。
(2) 慢性的な疲労や蓄積されたダメージ
ぎっくり腰は、突然起こるように見えても、その背景には慢性的な問題が潜んでいることが多いです。
- 要因: 長時間のデスクワーク、中腰での作業、猫背などの不良姿勢、運動不足による筋力低下、睡眠不足、精神的ストレス、過度な疲労などが挙げられます。
- メカニズム:
- 筋肉の緊張と血行不良: 不良姿勢やストレスは、腰部や背部の筋肉を常に緊張させ、血行不良を引き起こします。これにより、筋肉に疲労物質が蓄積し、柔軟性が失われて硬くなります。
- 組織の脆弱化: 疲労が蓄積し、栄養や酸素が十分に行き渡らない状態が続くと、筋肉や靭帯などの組織がもろくなり、本来持っている強度や弾力性が低下します。
- 椎間板への負荷: 不良姿勢や動作の繰り返しは、椎間板(クッションの役割をする軟骨)に偏った圧力をかけ続けます。これにより、椎間板が変性したり、膨隆したりして、些細なきっかけで周囲の神経を刺激しやすくなります。
- 結果: これらの蓄積されたダメージがある状態で、前述のような急激な外力が加わると、普段なら何でもないような動きでも、容易に組織が損傷し、ぎっくり腰として発症してしまうのです。コップに水が満たされ、最後の一滴で溢れるように、蓄積された疲労やダメージが限界に達した瞬間に発症すると考えられます。
(3) 神経の炎症と疼痛メカニズム
組織が損傷し、炎症が起こると、様々な化学物質(ブラジキニン、プロスタグランジンなど)が放出されます。
これらの炎症性物質は、痛みを感知する侵害受容器(痛覚センサー)を刺激し、その情報が神経を通って脳に伝わることで「痛み」として認識されます。
また、痛みを避けるために無意識に筋肉が収縮(防御性収縮)することで、さらに筋肉の緊張が高まり、血行不良を悪化させ、痛みを増強させる悪循環に陥ることもあります。
(4) 仙腸関節の機能不全
骨盤の仙骨と腸骨をつなぐ仙腸関節は、わずかな動きしかありませんが、体重を支え、歩行時の衝撃を吸収する重要な役割を担っています。
- メカニズム: この仙腸関節にわずかなズレやロック(機能不全)が生じると、腰部全体のバランスが崩れ、周囲の筋肉や靭帯に過度な負担がかかることがあります。これもぎっくり腰の一因となることがあります。
このように、ぎっくり腰は単なる「筋肉痛」ではなく、腰部の様々な組織の損傷や炎症、そしてそれらが起こりやすい背景としての体の状態が複雑に絡み合って発症する、一種の「悲鳴」であると言えます。
そのため、痛みが引いた後も、再発を防ぐためには、日頃からの姿勢や生活習慣の見直し、適度な運動による体のケアが非常に重要になります。