膝をぶつけた・ぶつかった|膝の打撲

各部位ごとに起こりやすい怪我について

膝の打撲は、転倒、衝突、または膝を直接何かにぶつけるなど、スポーツ活動中や日常生活で非常によく発生する怪我です。

骨が比較的皮膚の表面に近い位置にあるため、強い痛みや腫れを伴いやすいです。

また、膝関節は複雑な構造を持つため、単なる打撲に留まらない、より重篤な損傷を併発している可能性もあるため注意が必要です。

膝の打撲

どんな怪我なのか?

膝の打撲は、膝関節の周囲に直接的な外力や衝撃が加わることで、骨、筋肉、腱、靭帯、血管、神経、皮膚などの軟部組織が損傷する状態を指します。いわゆる「打ち身」と同じメカニズムで起こります。

  • 膝関節の構造: 膝関節は、大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(膝のお皿)の3つの骨から構成される、人体で最も大きな関節の一つです。これらの骨は、強固な靭帯や半月板によって連結され、安定性を保ちながらスムーズな動きを可能にしています。

 

負傷箇所一覧

膝の打撲では、衝撃を受けた部位の以下の組織が損傷します。

  • 皮膚と皮下組織:
    • 表皮・真皮: 衝撃で皮膚表面が擦りむけたり(擦過傷)、深い傷になったりすることがあります。
    • 皮下出血: 皮下の毛細血管が破れて出血し、青あざ(内出血)となります。腫れを伴うことも多いです。
  • 骨(大腿骨、脛骨、膝蓋骨):
    • 膝蓋骨(しつがいこつ)の打撲: 膝のお皿は前面に突出しているため、直接的な衝撃を受けやすく、骨膜の損傷や、ひび(亀裂骨折)、さらには骨折(膝蓋骨骨折)に至る可能性があります。膝蓋骨の裏側には軟骨があり、ここも損傷することがあります。
    • 大腿骨(だいたいこつ)の下端、脛骨(けいこつ)の上端の打撲: 膝の側面や前面への衝撃で、これらの骨に直接的な打撲や、まれに骨折が生じることがあります。
    • 骨端線損傷: 子供の場合、骨が成長する部分である骨端線(成長軟骨板)が損傷(骨折)することがあります。レントゲンでは見えにくいこともあり、打撲と間違われやすいですが、放置すると膝の成長に影響し、変形や成長障害につながる可能性があるため、注意が必要です。
  • 筋肉と腱:
    • 大腿四頭筋(だいたいしとうきん): 膝蓋骨の上にある太ももの前面の筋肉です。膝蓋骨を打ち付けた衝撃がこの筋肉に伝わり、筋挫傷(肉離れ)と類似の状態になったり、筋肉内の出血が起こったりすることがあります。
    • 膝蓋腱(しつがいけん): 膝蓋骨の下にある腱で、大腿四頭筋の力を脛骨に伝えます。打撲により損傷したり、炎症を起こしたりすることがあります。
    • ハムストリングス筋群や内転筋群: 膝の裏側や内側への打撲で、これらの筋肉や腱が損傷することもあります。
  • 関節包・滑膜:
    • 関節を包む膜である関節包や、その内側にある滑膜(かつまく)が炎症を起こすことがあります。これにより、関節液が過剰に分泌され、「膝に水が溜まる」(関節水腫)症状が現れます。これは、単なる打撲だけでなく、靭帯や半月板、軟骨などの関節内構造にも損傷がある可能性を示唆します。
  • 血管:
    • 筋肉内や皮下の血管が破れ、多量の出血を起こすことがあります。これにより、大きな血腫(けっしゅ)が形成されることがあります。関節内に血液が溜まる「関節血腫(かんせつけっしゅ)」も発生することがあります。
  • 神経:
    • 膝の周囲には、下肢の感覚や運動を司る神経が走行しています。打撲によりこれらの神経が圧迫されたり、損傷したりすると、しびれや感覚の鈍麻(麻痺)、筋力低下が現れることがあります。

 

どんな症状なのか?

膝の打撲の症状は、衝撃の強さや損傷部位、出血量によって様々です。

  • 痛み:
    • 衝撃を受けた直後から、打ち付けた部位に局所的な強い痛みが生じます。
    • 患部を直接押したり、触ったりすると強い圧痛があります。
    • 膝を動かすとき(特に曲げ伸ばし)や、体重をかけたときに痛みが増悪することが多いです。
  • 腫れ(はれ):
    • 損傷部位の周囲が腫れて膨らみ、熱を帯びることがあります。膝蓋骨周囲が特に腫れやすいです。関節内に水や血が溜まると、膝全体がパンパンに腫れ上がることもあります。
  • 内出血:
    • 皮下や筋肉内の血管が破れることで、皮膚が青紫色に変色します。膝蓋骨周囲や太もも、すねの方までアザが広がることもあります。時間とともに色が変化します(青→緑→黄)。
  • 可動域制限:
    • 痛みや腫れ、関節内の液体貯留のために、膝を完全に伸ばしたり、深く曲げたりすることが困難になります。
  • 歩行困難:
    • 痛みが強いため、体重をかけることができず、歩行が困難になったり、足を引きずるような歩き方になったりすることがあります。
  • しびれ・感覚鈍麻:
    • 神経が損傷したり圧迫されたりした場合は、打撲部位の周囲や、その神経が支配する領域にしびれや感覚の鈍さが現れることがあります。
  • 筋肉の硬結(しこり):
    • 出血した血液が筋肉内で固まったり、損傷した筋繊維が修復される過程で、患部に硬いしこりのようなものが触れることがあります。

 

どんな点に気をつけるべきなのか?

膝の打撲は、単なる「打ち身」と自己判断せず、以下の点に注意が必要です。

  • 骨折の可能性を強く疑う:
    • 膝蓋骨や大腿骨・脛骨の骨折、ひびを併発している可能性があります。
    • 特に以下の症状がある場合は、骨折を強く疑い、必ず医療機関を受診してください。
      • 体重をかけられないほどの強い痛みがある
      • 特定の場所(骨)を押すと激痛が走る
      • 膝の形が明らかに変形している
      • 腫れが異常に大きい、または日に日に悪化する
      • 内出血が広範囲に及ぶ
    • 子供の場合:成長軟骨である骨端線が損傷(骨折)している可能性も高く、見逃すと成長に影響が出るため、特に注意が必要です。
  • 関節内損傷(靭帯・半月板・軟骨)の可能性:
    • 膝の打撲では、衝撃が関節内に伝わり、靭帯(特に前十字靭帯や側副靭帯)、半月板、関節軟骨などが損傷することがあります。
    • 「膝に水が溜まる」(関節水腫)「膝に血が溜まる」(関節血腫)といった症状がある場合は、関節内の損傷を示唆しており、より重篤な怪我である可能性が高いです。
    • 不安定感がある(膝がグラグラする、ガクッと外れる感じがする)ロッキング症状(膝が引っかかって動かせなくなる)があるクリック音(膝を動かすと音が鳴る)がする場合は、靭帯や半月板の損傷を強く疑う必要があります。
  • 骨化性筋炎(こつかせいきんえん)の危険性:
    • 太ももの打撲と同様に、膝周りの筋肉(特に大腿四頭筋)の強い打撲では、筋肉内に出血した血液が吸収されずに骨化してしまう「骨化性筋炎」を発症するリスクがあります。
    • 初回の適切な処置(特に徹底した安静と冷却・圧迫)を怠ったり、痛む時期に無理なマッサージやストレッチを行ったりすると発症リスクが高まります。
    • 症状としては、痛みが長引く、腫れが引かない、患部が非常に硬くなる、関節の動きが徐々に悪くなるなどがあります。進行すると手術が必要になることもあります。
    • 受傷直後の安易なマッサージは絶対に避けましょう。
  • 神経損傷の可能性:
    • しびれや感覚の異常がある場合は、神経が圧迫または損傷している可能性があります。放置すると後遺症につながることもあるため、注意が必要です。

 

応急処置:RICE処置を正しく行う

膝を打撲した際の基本的な応急処置は、スポーツ外傷の基本である「RICE(ライス)処置」です。怪我をした直後から可能な限り早く行うことで、炎症や腫れ、内出血を最小限に抑え、骨化性筋炎やその他の合併症のリスクを軽減することができます。

  • Rest(安静):
    • 患部を動かさず、安静を保ちます。最も重要です。痛みが強い場合は、体重をかけないようにし、松葉杖などを使って歩行を避けるべきです。無理に動かすと、損傷を悪化させたり、内出血を広げたり、骨化性筋炎のリスクを高めたりする可能性があります。
  • Icing(冷却):
    • ビニール袋に氷と少量の水を入れ、それをタオルなどでくるんで患部に当てて冷やします。直接氷を当てると凍傷になる可能性があるため注意が必要です。
    • 15~20分程度冷やし、一度外して休憩し、腫れや痛みが続く場合は繰り返します。受傷後48〜72時間は継続して冷却することが推奨されます。炎症を抑え、腫れや内出血の広がりを軽減する効果があります。
  • Compression(圧迫):
    • 弾性包帯やサポーターを用いて、患部を軽く圧迫します。これは、内出血や腫れが広がるのを防ぐ目的で行います。
    • きつく締めすぎると血流障害を起こす可能性があるため、しびれや冷感がないか、足の指の色が悪くないかなど、血行状態に常に注意してください。適度な強さで圧迫し、異常があればすぐに緩めましょう。膝全体を包み込むように巻くのが効果的です。
  • Elevation(挙上):
    • 患部を心臓より高い位置に上げます。座っているときや寝ているときに、足の下にクッションや枕などを置いて高くします。
    • 重力によって血液が患部に集まるのを防ぎ、腫れを軽減する効果があります。

RICE処置はあくまで応急的な処置です。症状が出ている場合は、ご相談ください。