足首から下の足部は、人体で最も複雑な構造の一つであり、体重支持、衝撃吸収、バランス維持、そして多様な運動を可能にするために、骨、関節、筋肉、靭帯、関節包、支帯、神経、血管が緻密に連携しています。
足首から下の足部を構成する要素
骨 (Bones) – 26個
足部は、片足だけで26個もの骨から成り立っています。
- 足根骨 (Tarsal Bones) – 7個: 足首と足の甲の後方を形成する骨で、足部の土台となります。
- 距骨(きょこつ): 脛骨と腓骨(下腿の骨)から体重を受け、足首の動きの要となる骨。
- 踵骨(しょうこつ): いわゆる「かかと」の骨で、足の中で最も大きく、地面に最初に接して体重を支えます。アキレス腱が付着。
- 舟状骨(しゅうじょうこつ): 足の内側縦アーチの一部を形成する舟形の骨。
- 立方骨(りっぽうこつ): 足の外側に位置する立方体に近い形の骨。
- 楔状骨(けつじょうこつ) – 3個: 内側、中間、外側の3つがあり、足の甲を形成します。
- 中足骨 (Metatarsal Bones) – 5個: 足の甲を形成する細長い骨で、親指側から順に第1~第5中足骨と呼ばれます。各指の付け根に繋がります。
- 趾骨 (Phalanges) – 14個: 足の指の骨です。
- 基節骨(きせつこつ) – 5個: 各指の最も根元に近い骨。
- 中節骨(ちゅうせつこつ) – 4個: 親指(母趾)以外の4本の指にあります。
- 末節骨(まっせつこつ) – 5個: 各指の最も先端にある骨。
関節 (Joints)
足部には多数の関節があり、複雑な動きと衝撃吸収を可能にしています。
- 足関節 (Ankle Joint):
- 距腿関節(きょたいかんせつ): 脛骨、腓骨、距骨で構成され、足首の背屈(つま先を上げる)と底屈(つま先を下げる)運動を行います。
- 距骨下関節(きょこつかかんせつ): 距骨と踵骨で構成され、足の回内(内側に倒す)と回外(外側に倒す)運動を行います。
- 足根間関節 (Intertarsal Joints): 足根骨同士の間の関節で、足の複雑な動き(内がえし、外がえしなど)に関与します。横足根関節(ショパール関節)や縦足根関節(リスフラン関節)などが含まれます。
- 中足趾節関節 (Metatarsophalangeal Joints, MTP関節): 中足骨と趾骨の間の関節で、指の付け根にあたります。指の曲げ伸ばしや外転・内転運動を行います。
- 趾節間関節 (Interphalangeal Joints, IP関節): 指の骨同士の間の関節で、指の曲げ伸ばしを行います。
- 近位趾節間関節 (Proximal Interphalangeal Joints, PIP関節): 各指の第一関節。
- 遠位趾節間関節 (Distal Interphalangeal Joints, DIP関節): 各指の第二関節(親指にはありません)。
筋肉と腱 (Muscles and Tendons)
足首から下には、足の動きを司る多くの筋肉と腱が存在します。これらは、下腿から足部まで伸びる長い腱と、足部に存在する短い筋肉に分けられます。
下腿から足部に伸びる筋肉(腱)
- 前方区画: 足首を背屈させたり、足指を伸ばしたりする筋肉。
- 前脛骨筋(ぜんけいこつきん): 足首を背屈(つま先を上げる)させ、内側にひねります。
- 長趾伸筋(ちょうししんきん): 4本の小指を伸ばし、足首を背屈させます。
- 長母趾伸筋(ちょうぼししんきん): 親指を伸ばし、足首を背屈させます。
- 外側区画: 足首を外側にひねる(外がえし)動きに関与する筋肉。
- 長腓骨筋(ちょうひこつきん): 足首を底屈(つま先を下げる)させ、外がえし(足の裏を外に向ける)します。
- 短腓骨筋(たんひこつきん): 足首を底屈させ、外がえしします。
- 後方区画: 足首を底屈させたり、足指を曲げたりする筋肉で、いわゆる「ふくらはぎ」を形成します。
- 腓腹筋(ひふくきん): 膝関節の屈曲と足首の底屈に強く作用するアウターマッスルです。
- ヒラメ筋(ひらめきん): 腓腹筋の深層にあり、足首の底屈に主に作用します。腓腹筋とヒラメ筋の腱が合わさってアキレス腱(けん)となり踵骨に付着します。
- 後脛骨筋(こうけいこつきん): 足首を底屈させ、足の内がえしに作用します。足のアーチを支える重要な筋肉です。
- 長趾屈筋(ちょうしくっきん): 4本の小指を曲げ、足首を底屈させます。
- 長母趾屈筋(ちょうぼしくっきん): 親指を曲げ、足首を底屈させます。
足部の内部にある筋肉(足底筋群)
- 短趾伸筋(たんししんきん): 足指(親指を除く)を伸ばします。
- 短母趾伸筋(たんぼししんきん): 親指を伸ばします。
- 母趾外転筋(ぼしがいてんきん): 親指を外側に開きます。
- 短母趾屈筋(たんぼしくっきん): 親指を曲げます。
- 母趾内転筋(ぼしないてんきん): 親指を内側に閉じます。
- 短趾屈筋(たんしくっきん): 足指(親指を除く)を曲げます。
- 小趾外転筋(しょうしがいてんきん): 小指を外側に開きます。
- 虫様筋(ちゅうようきん)、底側骨間筋(ていそくこっかんきん)、背側骨間筋(はいそくこっかんきん): 足指の細やかな動きに関与します。
靭帯 (Ligaments)
足首や足の各関節の安定性を保つために、多くの強靭な靭帯が存在します。
- 足関節周囲の靭帯:
- 外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい): 前距腓靭帯、後距腓靭帯、踵腓靭帯などがあり、足首の外側の安定性を保ちます。足首の捻挫で最も損傷しやすいです。
- 内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい、三角靭帯): 足首の内側にあり、外側からの力に対して足首の安定性を保ちます。
- 脛腓靭帯(けいひじんたい): 脛骨と腓骨を下端で結合し、足首の安定性に寄与します。
- 足底靭帯(そくていじんたい): 足のアーチ構造を支える重要な靭帯です。
- 足底腱膜(そくていけんまく): 踵から足指の付け根まで広がる強靭な腱膜で、足の縦アーチを支える主要な構造です。
- 長足底靭帯(ちょうそくていじんたい): 踵骨から立方骨、中足骨まで伸びる長い靭帯。
- 短足底靭帯(たんそくていじんたい): 踵骨から立方骨に伸びる短い靭帯。
- 分岐靭帯(ぶんきじんたい): 踵骨から舟状骨と立方骨に伸びるY字型の靭帯。
- 足根間靭帯、中足骨間靭帯、趾骨間靭帯: 各骨同士を結びつけ、関節の安定性を保ちます。
関節包 (Joint Capsule)
各関節を包み込み、関節液を保持し、関節の安定性と滑らかな動きを助けます。足首や足の各関節(距腿関節、距骨下関節、足根間関節、中足趾節関節、趾節間関節など)にはそれぞれ関節包が存在します。
支帯 (Retinacula)
腱が骨から浮き上がらないように押さえつけ、滑走を助ける帯状の組織です。足首や足には複数の支帯があります。
- 伸筋支帯(しんきんしたい): 足首の前方で、足首を背屈させる筋肉の腱を押さえます。
- 屈筋支帯(くっきんしたい): 足首の内側で、足首を底屈させる筋肉や足底へ向かう神経・血管の腱を押さえます。足根管症候群の原因となることがあります。
- 腓骨筋支帯(ひこつきんしたい): 足首の外側で、腓骨筋の腱を押さえます。
神経 (Nerves)
足部には、感覚(触覚、痛覚、温覚など)と運動(筋肉の動き)を司る重要な末梢神経が走行しています。
- 脛骨神経(けいこつしんけい):
- 内側足底神経(ないそくそくていしんけい): 足底内側の感覚と、母趾外転筋などの運動を支配します。
- 外側足底神経(がいそくそくていしんけい): 足底外側の感覚と、小趾外転筋などの運動を支配します。
- 腓骨神経(ひこつしんけい):
- 浅腓骨神経(せんひこつしんけい): 足背の感覚と腓骨筋群の運動を支配します。
- 深腓骨神経(しんひこつしんけい): 足首の背屈筋(前脛骨筋など)や足指の伸筋の運動、足の第1・第2指間の感覚を支配します。
- 伏在神経(ふくざいしんけい): 下腿の内側から足の内側縁の感覚を支配します。
- 腓腹神経(ひふくしんけい): 下腿の外側から足の外側縁、小指側の感覚を支配します。
血管 (Blood Vessels)
足部には、酸素と栄養を供給し、老廃物を回収するための動脈と静脈が網の目のように張り巡らされています。
動脈 (Arteries)
- 前脛骨動脈(ぜんけいこつどうみゃく): 足首の前方を通り、足背に供給します。
- 足背動脈(そくはいどうみゃく): 足の甲で拍動を触れることができます。
- 後脛骨動脈(こうけいこつどうみゃく): 足首の内くるぶしの後方を通り、足底に供給します。
- 内側足底動脈(ないそくそくていどうみゃく)
- 外側足底動脈(がいそくそくていどうみゃく)
静脈 (Veins)
- 大伏在静脈(だいふくざいじょうみゃく): 足の内側から上行する表在静脈。
- 小伏在静脈(しょうふくざいじょうみゃく): 足の外側から上行する表在静脈。
- 深部静脈: 動脈に伴走し、筋肉の動きによって血液を心臓に戻す役割を担います。
これらの要素が協調して働くことで、足部は複雑な動きと体重支持を可能にし、私たちの日常生活を支えています。