10歳前後のお子さんで、足を引きずるような感じで歩いて、膝や股関節の痛みを訴えている場合、整形外科を受診するようにしてください。
「単純性股関節炎(たんじゅんせんこかんせつえん)」と呼ばれる、足の病気があり、接骨院に膝や股関節の怪我と間違えて来院されるケースがあります。
跛行(はこう)といって、足を引きずるのが特徴的な病気です。
当院にも、過去に何例もこの患者さんが間違えていらっしゃっていますが、すべて、下記の説明をして、整形外科の受診を勧めています。今のところ原因不明と言われていますが「ウイルス感染」と関係しているケースが多いようです。
子どもに多い単純性股関節炎について、一般的な情報をまとめておきます。
子供の股関節・膝の怪我と間違われやすい「単純性股関節炎」
単純性股関節炎は、子どもの股関節に一時的な炎症が起こり、痛みや歩き方の異常(跛行:はこう)を引き起こす病気です。一般的に、特別な治療をしなくても数日〜数週間で自然に治ることがほとんどで、後遺症を残すことは稀です。
発症する年齢は2歳から10歳くらいの男の子に多く見られますが、他の年齢や女の子にも起こります。
原因
はっきりとした原因はまだわかっていませんが、ウイルス感染やアレルギー反応が関与しているのではないかと考えられています。
- 先行感染(風邪など): 発症の数日前〜数週間前に風邪などのウイルス感染があった後に発症することが多いです。
- アレルギー反応: 関節を包む関節包の内側にある滑膜に炎症が起こるため、ウイルスに対するアレルギー反応ではないかとも言われています。
- 外傷: 軽微な外傷がきっかけとなることもありますが、はっきりとした因果関係は不明です。
症状
主な症状は以下の通りです。
- 股関節の痛み: 脚の付け根や太ももの内側、膝のあたりに痛みを感じることがあります。子どもによっては痛みをうまく伝えられず、「足が痛い」と訴えることもあります。
- 跛行(はこう:足を引きずる): 痛みのために、足を引きずって歩いたり、地面に足をつくのを嫌がったりします。
- 股関節の動きの制限: 股関節を曲げたり広げたりすると痛みが強くなるため、動きが制限されます。特に、股関節を内側にひねる動作(内旋)で痛みが出やすいです。
- 発熱: 微熱を伴うことがありますが、高熱が出ることは稀です。
- 元気がない: 痛みのために機嫌が悪くなったり、活動性が低下したりすることもあります。
症状は突然現れることが多く、朝起きた時に足が痛くて歩けない、ということもあります。
診断
単純性股関節炎の診断は、診察と画像検査を組み合わせて行われます。
- 問診と診察: 痛みの様子、いつから症状が出たか、発熱の有無、直前の風邪などの感染症の有無などを詳しく聞きます。股関節の動きを確認し、痛みの場所や程度を調べます。
- X線検査(レントゲン): 骨に異常がないかを確認します。単純性股関節炎では骨には異常が見られませんが、他の病気(ペルテス病や大腿骨頭すべり症など)を除外するために行われます。
- 超音波検査(エコー): 股関節の中に水が溜まっているかを確認します。単純性股関節炎では、関節液の貯留が見られることが多いです。
- 血液検査: 炎症の程度を調べるために行うことがありますが、特異的な異常が見られないこともあります。他の炎症性疾患を除外するために行われることもあります。
治療
単純性股関節炎の基本的な治療は、安静と対症療法です。
- 安静: 最も重要な治療法です。痛みが強い間は、できるだけ股関節に負担をかけないように、安静に過ごすことが大切です。無理に歩かせず、必要であれば保育園や幼稚園、学校を休ませることも検討します。
- 痛み止め(非ステロイド性消炎鎮痛薬など): 痛みが強い場合は、医師の指示のもとで痛み止めを使用することがあります。
- 経過観察: 数日〜数週間で自然に症状が改善することがほとんどです。症状が改善すれば、徐々に通常の生活に戻していくことができます。
鑑別すべき他の病気
単純性股関節炎と症状が似ている病気もあり、これらはより専門的な治療が必要になる場合があります。
- 化膿性股関節炎: 細菌感染によって股関節に膿が溜まる病気で、高熱や強い痛み、血液検査での炎症反応の著しい上昇が見られます。緊急の処置が必要となるため、単純性股関節炎との鑑別が非常に重要です。
- ペルテス病: 大腿骨の先端(大腿骨頭)への血流が悪くなり、骨が壊死してしまう病気です。成長期の子どもに発症し、重症化すると股関節に変形を残すことがあります。
- 大腿骨頭すべり症: 大腿骨頭の骨端線(成長軟骨)で骨がずれてしまう病気です。思春期の子どもに多く見られます。
- 若年性特発性関節炎: 自己免疫疾患の一種で、関節の慢性的な炎症を引き起こします。
まとめと受診の目安
お子さんが股関節の痛みを訴えたり、足を引きずって歩いたりしている場合は、必ず整形外科を受診してください。特に、高熱を伴う場合や、痛みが非常に強い場合、または症状が長引く場合は、単純性股関節炎以外の病気の可能性も考えられるため、すぐに受診することが大切です。