交通事故による「手首、指の怪我・痛み」

交通事故について
交通事故では、手首や指は非常に衝撃を受けやすく、様々な怪我や痛みを負う可能性のある部位です。
特に、衝突時にハンドルを握りしめていたり、体を支えようと手をついたりする際、あるいは車外に投げ出される衝撃などで、手首や指の骨、関節、筋肉、腱、神経、血管に過度な負担がかかります。
手首や指の怪我は、物を掴む、書く、パソコンを操作するといった日常生活の基本的な動作に深刻な影響を及ぼし、長期的な機能障害につながることもあるため、早期の正確な診断と適切な治療が不可欠です。

交通事故による「手首、指の怪我・痛み」

交通事故における手首、指の怪我の種類

手首と指は、多数の小さな骨(手根骨、中手骨、指骨)と、それらを複雑につなぐ靭帯、多くの筋肉と腱、そして細やかな感覚と運動を司る神経が集中している部位です。交通事故の衝撃は、これらのいずれにも損傷を与える可能性があります。

 

1. 骨折

手首や指の骨折は、交通事故による怪我で非常に頻繁に発生します。転倒して手をついたり、ハンドルやダッシュボードに手首や指を直接打ち付けたり、挟まれたりすることで発生します。

  • 症状:
    • 激しい痛み: 骨折部に強い痛みが持続し、少しでも動かすと激痛が走ります。
    • 著しい腫れと変形: 患部が大きく腫れ上がり、骨折の状態によっては肉眼で分かるほどの変形が見られることがあります。
    • 皮下出血: 広範囲にあざができることがあります。
    • 機能障害: 物が掴めない、指が曲げ伸ばしできない、手首を動かせないなどの症状が見られます。
    • 開放骨折: 骨が皮膚を突き破って外に露出するケースもあり、感染のリスクが高く、緊急手術が必要です。
  • 種類:
    • 橈骨遠位端骨折: 手首に近い橈骨の骨折で、転倒して手をついた際に最も発生しやすい骨折です(コーレス骨折、スミス骨折など)。
    • 手根骨骨折: 手首を構成する8つの小さな骨(舟状骨、月状骨など)の骨折。特に舟状骨骨折は診断が見逃されやすく、適切な治療をしないと偽関節(骨がうまくくっつかないこと)を起こしやすいです。
    • 中手骨骨折: 掌の骨の骨折。ボクサー骨折(第5中手骨頚部骨折)などが知られています。
    • 指骨骨折: 指の骨(基節骨、中節骨、末節骨)の骨折。
  • 特徴: 骨折の部位や種類によっては、神経や血管の損傷を伴うこともあり、早期の診断と治療が非常に重要です。手根骨骨折は、診断にCTやMRIが必要となる場合が多いです。

 

2. 関節脱臼

手首の関節(橈骨手根関節など)や指の関節(PIP関節、DIP関節など)が正常な位置からずれてしまう怪我です。手首や指に強い牽引力や圧縮力、ねじれの力が加わることで発生します。

  • 症状:
    • 強い痛み: 特に脱臼した瞬間に激痛が走ります。
    • 関節の変形: 関節が不自然な形に変形しているのが目視できます。
    • 関節が動かせない: 自力で関節を動かすことが困難になります。
  • 種類:
    • 月状骨周囲脱臼: 手根骨の一つである月状骨が正常な位置から外れる重篤な脱臼で、神経や血管の損傷を伴う可能性が高いです。
    • 指関節脱臼: 指の第一関節(PIP関節)や第二関節(DIP関節)で発生しやすいです。
  • 特徴: 自力での整復は危険であり、必ず医療機関で正しい処置を受ける必要があります。放置すると、関節の不安定性や可動域制限、神経損傷などが残ることがあります。

 

3. 靭帯損傷・腱損傷

手首や指の関節を安定させる靭帯や、筋肉と骨をつなぐ腱が、過度な外力によって損傷する怪我です。

  • 症状: 患部の痛み、腫れ、不安定感、特定の動きでの痛みや力の入りにくさなどが現れます。
  • 種類:
    • 三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷: 手首の小指側にある軟骨と靭帯の複合体の損傷。手首のねじりや手をついた際に発生しやすいです。慢性的な手首の痛みの原因となります。
    • 舟状骨月状骨靭帯損傷: 手根骨間の重要な靭帯で、断裂すると手首の不安定性や将来的な変形性関節症の原因となります。
    • 手指の側副靭帯損傷: 指の関節の安定を保つ靭帯の損傷(例:親指のMP関節靭帯損傷は「スキーヤー母指」とも呼ばれ、交通事故でも発生)。
    • 腱の断裂: 指を曲げたり伸ばしたりする腱が断裂するもの(例:槌指(マレット指)は、指の先端に強い衝撃が加わり、指を伸ばす腱が末節骨から剥がれる怪我)。
  • 特徴: レントゲンでは異常が見られないことが多いため、MRIや超音波検査などの詳細な画像検査が必要となる場合があります。腱が完全に断裂している場合は、手術が必要となることがあります。

 

4. 神経損傷(末梢神経損傷)

手首や指の感覚や運動を司る重要な神経(正中神経、尺骨神経、橈骨神経など)が走行しています。交通事故による骨折や脱臼による圧迫・牽引、あるいは直接的な衝撃、切創によって、これらの神経が損傷する可能性があります。

  • 症状: 手首から指先にかけてのしびれ、感覚の麻痺(感覚がない、鈍い)、異常感覚(ピリピリ感、焼けるような痛み)、重度の場合は指や手の動かしにくさなどが現れます。
  • 種類:
    • 手根管症候群: 手首の手のひら側にある手根管内で正中神経が圧迫されるもの。事故時の強い衝撃や腫れで発症・悪化することがあります。親指から薬指の半分までがしびれます。
    • ギヨン管症候群: 手首の小指側にあるギヨン管内で尺骨神経が圧迫されるもの。
  • 特徴: 神経損傷は回復に時間がかかることが多く、後遺症として残る可能性もあります。早めの診断と治療が重要です。

 

5. 血管損傷

交通事故の強い衝撃で、手首や指周辺の動脈や静脈が損傷し、内出血(血腫)や血流障害を起こすことがあります。

  • 症状: 激しい痛み、急速な腫れ、皮膚の蒼白化や冷感、しびれ、脈拍の消失など。
  • 特徴: 指や手の壊死につながる可能性もあるため、速やかな手術的処置が必要です。

 

6. 打撲(挫傷)

手首や指に直接的な衝撃が加わることで起こる怪我です。

  • 症状: 患部の痛み、腫れ、内出血(あざ)が見られます。
  • 特徴: 骨折や神経・血管損傷がない場合でも、強い痛みが生じ、指や手首の動かしにくさが続くことがあります。特に、手首は細かい動きが多いため、関節の動きの制限(拘縮)を予防するために、早期のリハビリテーションが重要です。

 

交通事故による手首、指の痛みの特徴と注意点

交通事故による手首や指の怪我や痛みは、その特性上、特に注意すべき点がいくつかあります。

  • 機能障害の重篤性: 手首や指は、日常生活で非常に緻密な動作を行うため、わずかな機能障害でも生活の質に甚大な影響を及ぼします。物を掴む、書く、パソコンを打つといった、当たり前の動作ができなくなることで、仕事や学業、精神面にも大きな支障をきたすことがあります。
  • 複雑な構造と診断の難しさ: 手首や指は非常に多くの小さな骨や複雑な靭帯、腱で構成されているため、損傷の種類や程度を正確に診断することが難しい場合があります。レントゲンだけでは分かりにくい損傷も多いため、CTやMRI、超音波検査などの詳細な画像検査が必要不可欠となることが多いです。
  • 初期症状の見落とし: 事故直後は、興奮状態にあるため、痛みやしびれに気づきにくいことがあります。また、小さな損傷は「ただの打撲」と自己判断されがちですが、放置すると症状が悪化したり、回復が遅れたりする原因になります。特に、舟状骨骨折や一部の靭帯損傷などは、見過ごされやすい傾向があります。
  • 慢性化・後遺症のリスク: 手首や指の怪我は、適切に診断・治療されないと、慢性的な痛み、関節の可動域制限、筋力低下、しびれや麻痺、変形性関節症などの後遺症が残りやすい部位です。特に、指は細かく、日常生活で頻繁に使うため、拘縮が起こりやすい傾向があります。
  • 早期の専門医受診の重要性: 交通事故による手首や指の痛みや怪我は、自己判断せずに速やかに整形外科(特に手外科専門医)などの専門医を受診することが極めて重要です。専門的な知識と経験を持つ医師による正確な診断と、適切な治療計画が、回復を早め、後遺症を防ぐための鍵となります。
  • 法的・補償問題: 交通事故による怪我の場合、治療費、休業補償、後遺障害の認定など、保険会社とのやり取りが必要になります。事故との因果関係を明確にし、今後の補償問題に適切に対応するためにも、早期の受診と詳細な診断書の作成が不可欠です。手首や指の機能障害は、後遺障害の認定において重要な評価項目となります。

交通事故に遭われた場合、手首や指にわずかでも痛みや違和感がある場合は、決して軽視せず、必ず医療機関を受診してください。特に、強い痛み、腫れ、変形、関節が動かせない、しびれや麻痺があるといった場合は、緊急性の高い状態である可能性もありますので、すぐに受診しましょう。早期の専門的な対応が、適切な回復と将来的な機能維持のために最も重要です。