交通事故後、痛みが後から現れることはある?

交通事故について

交通事故に遭った際、直後には何ともなかったのに、数時間後、あるいは数日経ってから痛みや不調が現れることは珍しくありません。

これは「遅発性疼痛」と呼ばれ、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こります。

交通事故後、痛みが後から現れることはある?

1.事故直後の興奮・アドレナリンの影響

交通事故という非日常的な体験は、人間の体に強いストレス反応を引き起こします。

  • アドレナリンの分泌: 事故直後、体は強いストレスを感じ、アドレナリン(エピネフリン)などのホルモンが大量に分泌されます。これらのホルモンには、一時的に痛みを抑制したり、身体能力を向上させたりする作用があります。これは、危機的状況から身を守るための体の防御反応です。
  • 痛みのマスキング: アドレナリンの作用により、本来であれば感じるはずの痛みが「マスキング」され、事故直後には痛みを感じにくい状態になります。
  • 興奮状態: 事故の衝撃や、その後の処理(警察への連絡、相手とのやり取りなど)によって精神的に興奮状態にあるため、体にかかっている負担に意識が向きにくいこともあります。
  • 時間の経過とホルモンの低下: 事故処理が終わり、体が落ち着いて興奮状態が収まると、アドレナリンなどの分泌が減少し、痛みを抑制する作用が薄れてきます。その結果、本来感じていたはずの痛みが表面化し始めます。

 

2.炎症反応の遅延

組織が損傷した場合、体内で炎症反応が起こりますが、これには時間差があります。

  • 炎症の進行: 交通事故の衝撃で、筋肉や靭帯、関節などに微細な損傷が生じることがあります。これらの損傷部位では、時間とともに炎症物質が放出され、組織が腫れたり、熱を持ったりする炎症反応が進行します。
    • 特に、筋肉や靭帯などの軟部組織は、骨のように折れることがなく、損傷が見えにくい場合が多いため、痛みが後から現れやすい傾向があります。
  • むくみや腫れ: 炎症が進むと、患部に水分が溜まりやすくなり、むくみや腫れが発生します。この腫れが神経を圧迫することで、痛みが誘発・増強されます。
  • 出血: 事故の衝撃で、体内の血管が損傷し、内出血を起こすことがあります。内出血もすぐに表面化するとは限らず、時間が経ってから青あざになったり、周囲の組織を圧迫して痛みを引き起こしたりします。

 

3.神経・筋肉への影響

直接的な損傷以外にも、事故の衝撃が神経や筋肉に影響を与えることがあります。

  • むちうち(頚椎捻挫): 交通事故で最も多い後から現れる症状の一つがむちうちです。追突などにより首が大きくしなり、頚椎(首の骨)やその周囲の靭帯、筋肉、神経に損傷が生じます。
    • 事故直後は自覚症状がなくても、数時間後から数日後にかけて、首の痛み、肩こり、頭痛、めまい、吐き気、手足のしびれなどの症状が現れることがあります。これは、事故の衝撃で神経が刺激されたり、筋肉が過度に緊張したり、炎症が進行したりするためです。
  • 筋肉の緊張とスパズム: 事故の衝撃や恐怖により、無意識に全身の筋肉が緊張します。この筋肉の過緊張(スパズム)が持続することで、血行不良や疲労物質の蓄積が起こり、後から広範囲にわたる痛みやだるさとして感じられることがあります。

 

4.見過ごされやすい微細な損傷

目に見えない、あるいは自覚しにくい損傷が後から顕在化することもあります。

  • 微細な骨折: 軽いヒビ(亀裂骨折)や、剥離骨折(骨の一部がはがれる骨折)など、事故直後のレントゲンでは分かりにくい微細な骨折が、時間が経ってから痛みや腫れとして現れることがあります。
  • 脳への影響: 頭部を打った場合、脳震盪(のうしんとう)や軽度の脳内出血は、事故直後には症状が出ないことがあります。数時間~数日後に、頭痛、吐き気、めまい、意識障害、記憶障害などの症状が現れることがあり、これは非常に危険な状態です。

 

5.精神的ストレスの影響

精神的なストレスも痛みの感じ方に影響を与えます。

  • ストレスと痛み: 交通事故の経験は、大きな精神的ストレスとなります。ストレスは、痛みの感じ方を増幅させたり、自律神経のバランスを乱したりすることで、体の不調や痛みを悪化させる可能性があります。

 

事故後の対応の重要性

このように、交通事故の痛みには様々な原因があり、後から現れることが多いため、事故に遭ったら症状がなくても、できるだけ早く医療機関を受診することが極めて重要です。特に、以下のような行動を心がけましょう。

  • 速やかな医療機関受診: 事故直後に痛みがなくても、必ず整形外科を受診し、医師の診察を受けましょう。頭を打った場合は脳神経外科を受診してください。
  • 詳細な問診と検査: 事故の状況、体への衝撃の向き、少しでも感じた違和感を医師に正確に伝えましょう。必要に応じてレントゲン、CT、MRIなどの画像検査を受けることが大切です。
  • 経過観察: 診断後も、医師の指示に従い、定期的に通院し、体の変化を報告しましょう。痛みや新たな症状が現れた場合は、すぐに医療機関に連絡することが重要です。

自己判断で「大丈夫」と決めつけず、専門家の目でしっかり診てもらうことが、早期回復と後遺症予防につながります。