交通事故による「足のしびれ」

交通事故について

交通事故後、足にしびれが生じることは少なくありません。

しびれは、神経が損傷したり、圧迫されたりすることで起こる感覚異常であり、その原因は多岐にわたります。

足のしびれは、歩行や日常生活に大きな支障をきたすことがあり、放置すると慢性化したり、重篤な後遺症につながったりする可能性もあるため、早期の正確な診断と適切な治療が不可欠です。

交通事故による「足のしびれ」

交通事故における足のしびれの原因

足のしびれは、主に神経の損傷や圧迫によって引き起こされます。交通事故では、その衝撃により、脊椎から足にかけて走行する神経経路のどこかで問題が生じることが考えられます。

 

1. むち打ち症(頸部・腰部捻挫)に伴う神経症状

交通事故、特に追突事故で発生する「むち打ち症」は、首だけでなく腰にも影響を及ぼすことがあります。腰部への衝撃が、足へと繋がる神経に影響を与え、しびれを引き起こすことがあります。

  • 症状: 腰部の痛みやこわばりに加えて、お尻から太もも、ふくらはぎ、足の裏や指先にかけてのしびれや痛み、だるさが特徴です。症状は片側に現れることが多いです。
  • 特徴: レントゲンでは骨に異常が見られないことも多く、軟部組織の損傷や、それに伴う神経刺激が原因であると考えられます。

 

2. 椎間板ヘルニアの誘発・悪化

脊椎の骨の間にある椎間板が、交通事故の強い衝撃により飛び出し、脊髄や神経根を圧迫することで、足のしびれや痛みが生じることがあります。これは、事故によって新たに発生することもあれば、元々あったヘルニアが悪化することもあります。

  • 症状: 激しい腰痛や背中の痛みに加えて、お尻から足にかけて電気が走るような痛みやしびれ、感覚の麻痺(ジンジン感、ピリピリ感)が現れます。重症の場合、足に力が入らない(筋力低下)ことや、足首や足指が動かしにくくなることがあります。
  • 特徴: 神経の圧迫部位によってしびれる範囲が異なります。MRI検査が診断に不可欠です。

 

3. 脊椎(腰椎・仙骨)骨折に伴う神経損傷

交通事故による強い衝撃で、腰椎や仙骨が骨折し、その骨折片が脊髄や神経根を圧迫・損傷することで、足のしびれや麻痺が生じることがあります。

  • 症状: 耐え難いほどの腰や背中の痛みに加えて、両足の広範囲にわたるしびれや麻痺、感覚障害、さらには排泄障害(尿失禁、便失禁)などが現れることがあります。
  • 特徴: 緊急性が高く、生命や機能に関わる重篤な状態です。迅速な医療対応(手術など)が求められます。

 

4. 股関節・骨盤の怪我に伴う神経圧迫

股関節脱臼や骨盤骨折など、股関節や骨盤周辺の重篤な怪我は、その周辺を走行する坐骨神経大腿神経といった大きな神経を圧迫したり、損傷したりすることがあります。

  • 症状: 股関節や臀部の強い痛みに加えて、太ももの後ろ側から足にかけてのしびれ、痛み、麻痺(坐骨神経痛の症状)や、太ももの前側のしびれ(大腿神経痛の症状)が現れます。
  • 特徴: しびれとともに、足の特定の筋肉に力が入らないといった運動麻痺を伴うことがあります。

 

5. 末梢神経損傷(下肢)

足自体や下腿(すね)の直接的な打撲、骨折、あるいは血腫などにより、その部位を走行する末梢神経(例:腓骨神経、脛骨神経など)が損傷したり圧迫されたりして、しびれが生じることがあります。

  • 症状: 損傷部位から先の足の特定の部分(例:すねの前側や足の甲、足の裏など)にしびれ、感覚の麻痺、異常感覚(ピリピリ、ジンジン)が現れます。足首の動きや足指の動きに影響が出ることもあります(例:腓骨神経麻痺による下垂足)。
  • 特徴: 骨折に伴って神経損傷が起こることも多いです。

 

交通事故による足のしびれの特徴と注意点

交通事故による足のしびれは、その特性上、特に注意すべき点がいくつかあります。

  • 原因が多岐にわたる: しびれの原因は、脊椎の問題から末梢神経の損傷まで様々です。正確な診断には、専門的な検査が不可欠です。
  • 時間経過で症状悪化の可能性: 事故直後には症状がなくても、時間とともに炎症や腫れが進行し、神経への圧迫が増強されてしびれが悪化することがあります。
  • 見落とされやすい症状: 痛みと異なり、しびれは主観的な感覚であり、見過ごされたり、軽視されたりすることがあります。しかし、放置すると慢性化したり、不可逆的な神経損傷につながったりするリスクがあります。
  • 後遺症のリスク: 交通事故による神経損傷は、回復に時間がかかることが多く、適切な治療が行われないと、永続的なしびれ、感覚麻痺、筋力低下、歩行障害などの後遺症が残ることがあります。
  • 早期の専門医受診の重要性: 足にしびれを感じたら、自己判断せずに速やかに整形外科などの専門医を受診することが極めて重要です。レントゲンだけでなく、MRI、CT、神経伝導速度検査、筋電図といった詳細な検査を組み合わせることで、しびれの原因となっている神経の損傷部位や程度を正確に診断し、適切な治療計画を立てることができます。
  • 法的・補償問題: 交通事故による足のしびれは、治療費や休業補償、後遺障害の認定に大きく影響します。事故との因果関係を明確にし、正当な補償を得るためにも、早期の受診と、神経学的所見を伴う詳細な診断書の作成が不可欠です。客観的な検査結果は、後遺障害の認定において重要な証拠となります。

交通事故に遭われた後、足にわずかでもしびれや感覚の異常を感じたら、決して軽視せず、必ず医療機関を受診してください。特に、しびれが悪化する、足に力が入らない、排泄に問題があるといった場合は、緊急性の高い状態である可能性が高いです。早期の専門的な対応が、適切な回復と将来的な健康維持のために最も重要です。