足の甲の打撲は、日常生活で物を落としたり、何かにぶつけたり、踏まれたりすることで起こる、比較的よくある怪我です。
捻挫とは異なり、直接的な外力によって組織が損傷するもので、適切な初期対応が回復を早めるために重要です。
足の甲の打撲について
どんな怪我なのか?
足の甲の打撲は、足の甲に直接的な外力や衝撃が加わることで、骨、筋肉、腱、血管、神経、皮膚などの軟部組織が損傷する状態を指します。いわゆる「打ち身」と同じメカニズムで発生します。
- 足の甲の構造:足の甲は、足首からつま先にかけての足の背側部分で、以下の骨や組織が密に配置されています。
- 足根骨(そくこんこつ): 距骨、踵骨、舟状骨、立方骨、楔状骨(3つ)といった7つの骨が集まり、足のアーチを形成します。
- 中足骨(ちゅうそくこつ): 足の甲を構成する5本の長い骨で、つま先につながります。
- 靭帯や腱: これらの骨を連結したり、筋肉の力を指先に伝えたりする、多くの靭帯や腱が足の甲の表面近くを通っています。
- 血管や神経: 表面近くに血管や神経が走行しているため、打撲によって損傷を受けやすい部位です。
負傷箇所一覧
足の甲の打撲では、直接的な衝撃を受けた部位の以下の組織が損傷します。
- 皮膚と皮下組織:
- 表皮・真皮: 衝撃で皮膚表面が擦りむけたり(擦過傷)、深い傷になったりすることがあります。
- 皮下出血: 皮下の毛細血管が破れて出血し、青あざ(内出血)となります。
- 筋肉と腱:
- 伸筋群: 足の甲には足首や足指を甲側に反らす(背屈させる)ための筋肉(前脛骨筋、長趾伸筋など)の腱が走行しています。打撲によりこれらの筋肉や腱が直接損傷を受けたり、炎症を起こしたりすることがあります。
- 骨:
- 足根骨や中足骨: 強い衝撃が加わると、足根骨や中足骨そのものに骨折やひび(亀裂骨折)が生じることがあります。これは打撲と区別がつきにくいため注意が必要です。
- 疲労骨折: 特定のスポーツ活動(ランニングやジャンプなど)による繰り返し負荷で生じる疲労骨折が、打撲と痛みの場所が似ていることがあります。
- 血管:
- 皮下血管: 衝撃で血管が破れ、皮下出血(内出血)や、ひどい場合は血腫(血液の塊)ができることがあります。
- 神経:
- 足の甲の表面近くには、足の感覚を司る神経(浅腓骨神経など)が走行しています。打撲によりこれらの神経が圧迫されたり、損傷したりすると、しびれや感覚の鈍麻(麻痺)が生じることがあります。
どんな症状なのか?
足の甲の打撲の症状は、衝撃の強さや損傷部位によって様々ですが、一般的には以下の症状が見られます。
- 痛み:
- 衝撃を受けた直後から痛みが始まります。
- 患部を直接押したり、触ったりすると強い圧痛があります。
- 歩行時や体重をかけるときにも、ズキズキとした痛みや、骨に響くような痛みを感じることがあります。
- 腫れ(はれ):
- 損傷部位の周囲が腫れて膨らみます。強い打撲では、足の甲全体が腫れて、足の甲の骨の隆起が分かりにくくなることもあります。熱を帯びることもあります。
- 内出血:
- 皮下の血管が破れることで、皮膚が青紫色に変色します。時間が経つにつれて色が変化し(青→緑→黄)、範囲が広がることもあります。
- 可動域制限:
- 痛みや腫れのため、足首や足の指を十分に動かせなくなることがあります。特に足首を甲側に反らす(背屈)動きや、足の指を反らす動きが制限されることが多いです。
- 歩行困難:
- 痛みが強いため、体重をかけることができず、歩行が困難になったり、足を引きずるような歩き方になったりすることがあります。
- しびれ・感覚鈍麻:
- 神経が損傷したり圧迫されたりした場合は、打撲部位の周囲や、その神経が支配する領域にしびれや感覚の鈍さが現れることがあります。
どんな点に気をつけるべきなのか?
足の甲の打撲は、ただの「打ち身」と軽視せず、以下の点に注意が必要です。
- 骨折の可能性を疑う:
- 足の甲には多くの小さな骨が複雑に存在しており、打撲だと思っていても、実は骨折(疲労骨折やひび)していることがあります。
- 特に、体重をかけられないほどの強い痛みがある場合、特定の場所を押すと激痛が走る場合、足の形が変形している場合は、骨折の可能性が高いです。
- 子供の場合、骨が成長する部分である骨端線が損傷(骨折)している可能性も考慮する必要があるため、特に注意が必要です。
- 神経損傷の可能性:
- しびれや感覚の異常がある場合は、神経が圧迫または損傷している可能性があります。放置すると後遺症につながることもあるため、注意が必要です。
- 血腫(けっしゅ)の形成:
- 打撲により皮下に大きな血腫が形成されることがあります。大きな血腫は、痛みが長引いたり、組織の回復を妨げたりすることがあります。
- 痛みの長期化:
- 適切な初期対応や治療が行われないと、痛みが長引いたり、歩行に支障が出たりすることがあります。
応急処置:RICE処置を正しく行う
足の甲の打撲をした際の基本的な応急処置は、スポーツ外傷の基本である「RICE(ライス)処置」です。怪我をした直後から可能な限り早く行うことで、炎症や腫れを最小限に抑え、回復を早めることができます。
- Rest(安静):
- 患部を動かさず、安静を保ちます。足の甲の場合、体重をかけないようにすることが最も重要です。可能な限り、患部に負担がかかる動きを避けましょう。
- Icing(冷却):
- ビニール袋に氷と少量の水を入れ、それをタオルなどでくるんで患部に当てて冷やします。直接氷を当てると凍傷になる可能性があるため注意が必要です。
- 15~20分程度冷やし、一度外して休憩し、腫れや痛みが続く場合は繰り返します。炎症と腫れを抑え、痛みを軽減する効果があります。
- Compression(圧迫):
- 弾性包帯やテーピングを用いて、患部を軽く圧迫します。これは、内出血や腫れが広がるのを防ぐ目的で行います。
- きつく締めすぎると血流障害を起こす可能性があるため、しびれや冷感がないか注意し、適度な強さで圧迫してください。足の甲全体を包み込むように巻くのが効果的です。
- Elevation(挙上):
- 患部を心臓より高い位置に上げます。座っているときや寝ているときに、足の下にクッションや枕などを置いて高くします。
- 重力によって血液が患部に集まるのを防ぎ、腫れを軽減する効果があります。
RICE処置はあくまで応急的な処置です。症状が出ている場合は、ご相談ください。