手の突き指は、日常生活やスポーツでよく起こる指の怪我です。
指先に強い衝撃が加わることで発生し、軽いものから骨折や脱臼を伴う重症なものまで様々です。
単なる「指を突いただけ」と軽視されがちですが、適切な処置をしないと、指の変形や機能障害といった後遺症が残る可能性もあるため、注意が必要です。
手の突き指について
どんな怪我なのか?:突き指の種類と損傷部位
突き指は、衝撃の方向や強さによって、指の様々な組織が損傷します。指には、指先から順に「DIP関節(第一関節)」「PIP関節(第二関節)」「MP関節(付け根の関節)」があります。
解剖学的に詳しい負傷箇所一覧
- 靭帯損傷(捻挫):
- 最も一般的な突き指の形態で、指の関節を安定させている靭帯が過度に引き伸ばされたり、部分的に断裂したりします。
- 側副靭帯: 関節の両側にある靭帯で、指が横に曲がるのを防ぎます。横方向の力が加わると損傷しやすいです。
- 掌側板(しょうそくばん): 関節の掌側にある強固な線維軟骨板で、関節の過伸展(反りすぎ)を防ぎます。指を反らす力が加わると損傷しやすいです。
- 関節包損傷:
- 関節全体を包む袋状の膜である関節包が損傷することです。靭帯損傷と同時に起こることが多いです。
- 腱(けん)の損傷:
- 指を曲げたり伸ばしたりする腱が切れたり、損傷したりするケースです。
- 伸筋腱(しんきんけん): 指を伸ばす腱。特に第一関節で損傷すると「マレットフィンガー(槌指)」となります。これは、指を伸ばす腱が指先に付着する部分で断裂したり、その付着部の骨を剥がしたりすることで、第一関節が完全に伸びなくなる状態です。
- 屈筋腱(くっきんけん): 指を曲げる腱。突き指では比較的稀ですが、指を無理に引き剥がされたりする際に損傷することがあります。
- ボタン穴変形: 指の第二関節(PIP関節)を伸ばす伸筋腱の中央部分が損傷し、放置すると第二関節が曲がりっぱなしになり、代わりに第一関節が過度に伸びてしまう変形を指します。
- 指を曲げたり伸ばしたりする腱が切れたり、損傷したりするケースです。
- 骨折:
- 突き指の衝撃で、指の骨そのものが折れることがあります。
- 剥離骨折: 靭帯や腱が骨に付着している場所で、強い牽引力によって骨の一部が引き剥がされる骨折です。特に、関節の縁に起こりやすいです。
- 関節内骨折: 関節面まで骨折線が及ぶ骨折で、関節の滑らかな動きに影響を与える可能性があります。
- 骨端線損傷: 子供に特有の怪我です。骨が成長する軟骨部分である骨端線が損傷(骨折)することがあります。レントゲンには写りにくく、捻挫と間違われやすいですが、放置すると指の成長に影響して変形や成長障害につながる可能性があるため、特に注意が必要です。
- 突き指の衝撃で、指の骨そのものが折れることがあります。
- 脱臼:
- 指の関節が、正常な位置から完全に外れてしまう状態です。強い痛みと明らかに指の形が変形します。
どんな症状なのか?
突き指の症状は、損傷の程度によって様々です。
- 痛み: 衝撃を受けた直後から強い痛みが始まり、指を動かしたり、触ったりすると増悪します。
- 腫れ: 関節の周りが腫れて膨らみ、熱を帯びることがあります。
- 内出血: 血管が損傷すると、指の皮膚の下に血がたまり、青紫色に変色することがあります。
- 可動域制限: 痛みや腫れのため、指を曲げ伸ばしするのが難しくなります。
- 変形: 骨折や脱臼、重度の腱損傷の場合、指の形が明らかに不自然に歪んだり、ねじれたりすることがあります。
- 機能障害: 指に力が入らない、特定の動きができない、握る・掴む動作がしにくいなどの症状が出ることがあります。
どんな点に気をつけるべきなのか?
突き指は軽視されがちですが、見逃してはいけないサインや、やってはいけないことがあります。
- 「引っ張れば治る」は間違い!: 突き指をしたら、指を引っ張ってはいけません。引っ張ることで、損傷している靭帯や腱、骨端線(子供の場合)をさらに引き伸ばしたり、完全に断裂させたりする危険があり、症状を悪化させる可能性が非常に高いです。
- 自己判断は危険: 見た目が軽いからといって自己判断せず、少しでも異常を感じたら医療機関を受診することが重要です。特に子供の場合、骨端線損傷の可能性を常に考慮する必要があります。
- 症状を隠さない: 子供が怪我をした際に、叱られるのが怖い、好きな活動を休むのが嫌だなどの理由で痛みを隠すことがあります。保護者や指導者は、子供の動きや表情、行動の変化に注意し、異変があればすぐに気づけるようにしましょう。
応急処置:RICE処置を正しく行う
突き指をした際の基本的な応急処置は、スポーツ外傷の基本である「RICE(ライス)処置」です。
- Rest(安静):指の動きを止め、それ以上悪化させないように安静にします。
- Icing(冷却):ビニール袋に氷と少量の水を入れ、患部を冷やします。直接氷を当てず、タオルなどでくるんで行いましょう。炎症を抑え、腫れや痛みを軽減します。
- Compression(圧迫):弾性包帯やテーピングで、腫れを抑えるように軽く圧迫します。きつく締めすぎると血流障害を起こすので注意が必要です。
- Elevation(挙上):患部を心臓より高い位置に上げ、血液が集中するのを防ぎ、腫れを軽減します。
受診の目安
RICE処置を行った後、以下の症状が見られる場合は、医療機関等を受診してください。
- 強い痛みや腫れが続く、または悪化する
- 指の形が明らかに変形している(曲がっている、ずれているなど)
- 指を全く動かせない、または動かすと激痛が走る
- 関節がグラグラして不安定な感じがする
- 指に力が入らない、特定の動きができない
- しびれがある
- 子供の突き指で、痛みは強くなくても、腫れが引かなかったり、指をかばう様子が見られたりする場合
痛みが治った後のポイント
突き指が治った後、以下のようなポイントがあります。
- 段階的な運動再開: 痛みがないことを確認しながら、徐々に指を動かす練習から始め、無理のない範囲でスポーツ活動に復帰していきます。
- テーピングやサポーターの活用: スポーツ再開時には、患部の保護と安定のためにテーピングやサポーターを使用することも有効です。
- 指の強化と柔軟性: 指や手のひらの小さな筋肉を鍛えたり、柔軟性を保つストレッチを行ったりすることで、指の安定性を高め、怪我の再発を防ぎます。
- 正しい体の使い方: スポーツ中に指に不必要な負担がかからないよう、正しい体の使い方や受け身などを身につけることも大切です。
RICE処置はあくまで応急的な処置です。症状が出ている場合は、ご相談ください。