ぎっくり腰と坐骨神経痛は、どちらも腰からお尻、足にかけての痛みを生じることがあります。
その原因、症状の性質、メカニズムが異なります。
それぞれの特徴と判別ポイントを解説します。
ぎっくり腰と坐骨神経痛の違い:症状の判別ポイント
ぎっくり腰と坐骨神経痛は混同されやすいですが、それぞれ異なる病態です。
症状の出方や痛みの性質に注目することで、ある程度の判別が可能です。
1. ぎっくり腰(急性腰痛症など)
- 定義:
突然、腰部に激しい痛みが走る急性的な腰痛の総称です。特定の診断名ではなく、原因が多岐にわたるため、一般的には「急性腰痛症」と診断されることが多いです。 - 主な原因:
腰部の筋肉、筋膜、靭帯、関節包、椎間関節などの急激な損傷や炎症が原因となります。重いものを持ち上げたり、急な体勢の変化、くしゃみなど、些細な動作で発症することがあります。慢性的な疲労や不良姿勢が背景にあることも多いです。 - 症状の判別ポイント:
- 痛みの部位: 主に腰部が中心で、特定の一点、または広範囲にわたって激しい痛みを感じます。
- 痛みの性質: 「電気が走るような」「ナイフで刺されたような」「ズキンとする」いった鋭い激痛が特徴的です。体を動かすと痛みが強くなり、安静にしていると比較的楽になることが多いです。
- 放散痛の有無: 足への放散痛は基本的にはありません。あったとしても、お尻や太ももの上部までにとどまることがほとんどで、しびれを伴うことは稀です。
- 発症の仕方: 急激に発症し、その場で動けなくなることも珍しくありません。「魔女の一撃」と例えられるように、突然の出来事として認識されます。
- 症状の経過: 通常、数日から1週間程度で激しい痛みのピークを過ぎ、徐々に改善していくことが多いです。
2. 坐骨神経痛(Sciatica)
- 定義:
坐骨神経(人体で最も太い神経)が圧迫されたり、刺激を受けたりすることで生じる、腰からお尻、足にかけての痛みやしびれの総称です。病名ではなく、あくまで症状の一つです。 - 主な原因:
- 腰椎椎間板ヘルニア: 最も多い原因。椎間板が飛び出し、坐骨神経の根元を圧迫します。
- 腰部脊柱管狭窄症: 加齢などにより、脊髄が通る脊柱管が狭くなり、坐骨神経を圧迫します。
- 梨状筋症候群: お尻の奥にある梨状筋という筋肉が坐骨神経を圧迫します。
- その他: 脊椎分離症・すべり症、腫瘍、感染症など。
- 症状の判別ポイント:
- 痛みの部位: 腰だけでなく、お尻、太ももの裏、ふくらはぎ、足の先まで、坐骨神経の走行に沿って広がる痛みやしびれが特徴です。左右どちらか一方の足に出ることが多いです。
- 痛みの性質: 「ジンジンする」「ピリピリする」「チクチクする」「焼けるような」「締め付けられるような」といったしびれを伴う痛みが多いです。感覚異常(感覚が鈍い)や筋力低下を伴うこともあります。
- 放散痛の有無: 足先まで及ぶ明確な放散痛やしびれがあるのが最大の特徴です。足首を動かしにくい、つま先に力が入らないなどの運動麻痺が見られることもあります。
- 発症の仕方: 徐々に症状が現れることが多いですが、急激に悪化することもあります。特に動作との関連が強く、前かがみ、腰を反る、座る、歩くなどで悪化することがあります。
- 症状の経過: 原因によって様々ですが、慢性化しやすい傾向があり、数週間から数カ月、あるいはそれ以上症状が続くこともあります。間欠性跛行(かんけつせいはこう:歩くと足が痛くなり休むと改善する)が見られることもあります。
症状判別のまとめ
ぎっくり腰 | 坐骨神経痛 | |
主な痛みの部位 | 腰部が中心 | 腰からお尻、足にかけて(坐骨神経の走行に沿う) |
放散痛 | 基本なし(あってもお尻・太もも上部まで) | 足先まで及ぶしびれや痛み |
痛みの性質 | 鋭い激痛(刺すような、電気が走るような) | しびれを伴う痛み(ジンジン、ピリピリ、焼けるような) |
発症 | 突然(特定の動作をきっかけに) | 徐々に(または慢性化していることが多い) |
感覚異常 | ほとんどなし | あり(感覚が鈍い、力が入らないなど) |
主な原因 | 筋肉、靭帯、関節の急性的な損傷・炎症 | 神経の圧迫や刺激(ヘルニア、狭窄症など) |
注意点:
- ぎっくり腰の激痛によって、痛みをかばうために筋肉が過剰に緊張し、一時的に足にしびれのような症状が出ることも稀にあります。
- 最も重要なのは、専門医の診断を受けることです。 特に、足にしびれや麻痺がある場合、排尿・排便障害を伴う場合は、重篤な病気が隠れている可能性もあるため、速やかに医療機関を受診しましょう。