「座り過ぎ」は、現代社会においてぎっくり腰のリスクを顕著に高める要因として認識されています。
オフィスワークや長時間の運転など、座っている時間が長い生活習慣は、知らず知らずのうちに腰に大きな負担をかけ、ある日突然ぎっくり腰を発症する引き金となることがあります。
当院の患者さんでも、座った姿勢から立ち上がった瞬間にグキッとなってしまい、来院されるケースが多くあります。
ここでは、座り過ぎとぎっくり腰の関係性についてまとめてきます。
座り過ぎは「ぎっくり腰」を引き起こす大きな原因の一つ
座り過ぎがぎっくり腰を誘発するメカニズム
- 腰への持続的な負荷(椎間板への圧力増加):
- スウェーデンの整形外科医ナッケムソンの有名な論文によれば、立っているときの椎間板(背骨のクッションの役割を果たす軟骨)にかかる負荷を100%とすると、座っている姿勢では約140%に増加するとされています。さらに、前かがみの姿勢で座ると、負荷は約185%にも跳ね上がります。
- 長時間この高い圧力が椎間板にかかり続けると、椎間板が変形したり、突出したりして、神経を刺激し、ぎっくり腰の強い痛みを引き起こす原因となります。
- 筋肉の疲労と硬直:
- 長時間座っていると、腰や股関節周辺の筋肉(特に殿筋、ハムストリングス、腰部深層筋など)が持続的に緊張した状態になり、疲労が蓄積します。
- 筋肉が疲労すると、柔軟性が失われ、硬直した状態になります。この硬直した筋肉は、ちょっとした体勢の変化や急な動きに対しても対応できなくなり、ぎっくり腰のリスクを高めます。
- 血行不良:
- 同じ姿勢で長時間座り続けると、腰周辺の血流が悪くなります。血液は筋肉に酸素や栄養を運び、老廃物を排出する役割がありますが、血行不良によりこれらが滞ると、筋肉はさらに疲労しやすくなります。
- 姿勢の悪化と骨盤の歪み:
- 長時間座っていると、無意識のうちに姿勢が悪くなりがちです。特に「猫背」や「反り腰」、「仙骨座り(骨盤が後ろに倒れる座り方)」、足を組む癖などは、骨盤や背骨に歪みを生じさせ、腰への負担を偏らせます。
- これらの不適切な姿勢が習慣化すると、腰椎の一部に過度なストレスが集中し、ぎっくり腰を引き起こす下地を作ってしまいます。
- 運動不足による筋力低下:
- 座り過ぎの生活は、必然的に運動不足につながります。体幹を支える腹筋や背筋、お尻の筋肉などが弱くなると、腰への負担を支えきれなくなり、ぎっくり腰のリスクが高まります。
- 急な動作:
- 長時間座って硬くなった筋肉や関節は、急な動作(立ち上がる、物を拾うために前かがみになる、体をひねるなど)に弱い状態です。このような状況で不意に力を入れた瞬間に、ぎっくり腰を発症することが多く見られます。
座り過ぎによるぎっくり腰の予防策
座り過ぎがぎっくり腰の大きなリスク要因であることを踏まえ、以下のような予防策を実践することが重要です。
- 定期的な休憩と姿勢変更:
- 30分〜1時間に1回は立ち上がる: 短時間でも良いので、座り姿勢から立ち上がり、軽く体を動かしたり、ストレッチをしたりしましょう。
- 作業環境の工夫: 可能であれば、昇降デスク(スタンディングデスク)を導入し、座る時間と立つ時間を交互に設けるのも有効です。
- 正しい座り方を意識する:
- 深く腰掛ける: 椅子には深く腰掛け、背もたれを有効活用しましょう。
- 骨盤を立てる: 仙骨座りにならないよう、骨盤が垂直になるように意識して座ります。座布団やクッションでお尻の下をサポートするのも有効です。
- 膝と股関節の角度: 膝と股関節がそれぞれ90度程度になるように調整し、足裏全体が床にしっかりつくように椅子の高さを調節します。
- 目線: パソコンのディスプレイは目線の高さに合わせ、前かがみにならないようにしましょう。
- 適度な運動とストレッチ:
- 体幹強化: 腹筋、背筋、殿筋など、体幹を支える筋肉を鍛える運動を取り入れましょう。
- 柔軟性向上: ハムストリングス(太ももの裏の筋肉)や股関節周辺の筋肉のストレッチを習慣にし、筋肉の柔軟性を保ちましょう。特に、座り姿勢で硬くなりやすい箇所です。
- ウォーキング: 全身の血行を促進し、筋肉をほぐすために、毎日少しでも良いので歩く習慣をつけましょう。
- 自分に合った椅子の選択:
- 座面の固さ、背もたれのサポート、アームレストの有無など、自分の身体に合った椅子を選ぶことも重要です。座面が柔らかすぎる椅子は、姿勢が安定せず腰に負担がかかることがあります。
座り過ぎは、腰への「借金」をため込むようなものです。
日々の積み重ねが、ある日突然のぎっくり腰として現れることを理解し、積極的に予防策に取り組むことが大切です。