サーフィンは、自然の力である波と一体となり、その上を滑走するエキサイティングなウォータースポーツです。
しかし、予測不能な波の動き、ボードとの接触、海底への衝突など、様々な要因により怪我が発生しやすい特性も持っています。
特に、切り傷・擦り傷、打撲、捻挫、肩や膝の関節の怪我、そして耳や目のトラブルなどが多く見られます。
ここでは、サーフィンで発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。
※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。
サーフィンで発生しやすい怪我・痛み
切り傷・擦り傷・打撲(最も高頻度)
サーフィンの怪我の中で最も発生頻度が高いのが、ボードやフィン、海底による直接的な外傷です。
- ボードやフィンによる切り傷・擦り傷
- 症状: 皮膚の表面の損傷、出血。
- 原因: 波に巻かれた際にボードが体に当たる、フィンが体に当たる、ボードの先端やレール(側面)で体を擦る、リーシュコード(ボードと体をつなぐ紐)が擦れるなど。
- 対処: 清潔な水で洗い流し、消毒後に絆創膏などで保護。深い切り傷や出血が多い場合は医療機関を受診しましょう。
- 予防: リーシュコードの適切な装着、初心者はフィンガードを使用する、ウェットスーツの着用。
- 海底(岩礁、砂底、サンゴなど)による擦り傷・切り傷・打撲
- 症状: 皮膚の損傷、出血、痛み、腫れ。
- 原因: 波に巻かれて浅瀬の海底に体を打ち付けたり、擦ったりする。岩礁帯やサンゴ礁のポイントで多い。
- 対処: ボードやフィンによる傷と同様に処置。感染症のリスクがあるため、特にサンゴ礁での傷は医療機関での診察が推奨されます。
- 予防: 地形を把握し、浅すぎる場所を避ける。ブーツやウェットスーツの着用。
頭部・顔面の怪我
ボードや海底への衝突、波に強く叩きつけられるなどで発生する可能性があります。
- 頭部の打撲・脳震盪(のうしんとう)
- 症状: 頭痛、めまい、吐き気、意識混濁、記憶障害など。
- 原因: 波に巻かれた際にボードが頭部に当たる、海底に頭を打ち付ける、他のサーファーとの衝突。
- 対処: 直ちにサーフィンを中止し、医療機関を受診することが必須です。症状が軽いと思われても、必ず医師の診断を受けましょう。
- 予防: リーシュコードの適切な装着、他のサーファーとの距離を保つ、浅い場所でのドルフィンスルー時の注意。初心者はヘッドギアの着用も検討できます。
- 顔面・鼻骨の骨折・裂傷
- 症状: 顔面や鼻の痛み、腫れ、変形、出血。
- 原因: ボードが顔面に当たる、海底に顔面を打ち付ける。
- 対処: 応急処置後、医療機関(整形外科、口腔外科など)を受診。
- 予防: 頭部の怪我と同様。
肩の怪我
パドリングや波に乗る際の腕の動きで肩に繰り返し負担がかかります。
- 腱板炎(けんばんえん)/ 腱板損傷
- 症状: パドリング時や腕を上げたりする際に、肩の深部に痛みが生じる。夜間痛を伴うこともある。
- 原因: 長時間のパドリングによる肩の腱板(ローテーターカフ)への繰り返しによる過度な負荷(オーバーユース)。不適切なパドリングフォーム、筋力不足、柔軟性不足が主な原因となります。
- 対処: 安静が重要です。アイシング、炎症を抑える薬の使用、そして肩甲骨の安定化、インナーマッスルの強化、そして正しいパドリングフォームの修正を中心としたリハビリテーションが重要です。重度の損傷では手術が検討されることもあります。
- 肩関節脱臼(けんかんせつだっきゅう)
- 症状: 肩の激しい痛み、腕が動かせない、肩の変形。
- 原因: 波に巻かれて腕が不自然に引っ張られる、ボードに腕が挟まる、着地時に腕を強く突くなど。
- 対処: 速やかに医療機関を受診し、整復する必要があります。
膝の怪我
テイクオフやターン、波に巻かれた際に膝に大きな負担がかかります。
- 膝関節靭帯損傷・半月板損傷
- 症状: 膝の痛み、腫れ、不安定感、引っかかり感、ロッキング現象(膝が曲がったまま伸びない)。
- 原因: 波に巻かれて膝が不自然な方向に捻じれる、ボード上でバランスを崩して膝に急激な力が加わる、着地時の衝撃など。特に足がボードに固定された状態で体が捻じれることで発生しやすいです。
- 対処: 直ちに整形外科を受診し、損傷の程度を診断してもらいましょう。重度の場合は手術が検討されることもあります。
- 膝蓋腱炎(しつがいけんえん)/ ジャンパー膝
- 症状: 膝のお皿のすぐ下(膝蓋腱部)の痛み。特にテイクオフや、ターンで膝を曲げ伸ばしする際に痛みが強くなる。
- 原因: 波待ちでのボード上での不安定な姿勢、テイクオフ時の膝の繰り返し使用によるオーバーユース。
- 対処: 安静が基本です。アイシング、ストレッチ、大腿四頭筋の強化などが有効です。痛みが引かない場合は医療機関を受診しましょう。
足首・足部の怪我
ボード上でのバランス維持、フィンとの接触、海底への衝突などで発生します。
- 足関節捻挫(そくかんせつねんざ)
- 症状: 足首の痛み、腫れ、内出血。ひどい場合は体重をかけられない。
- 原因: テイクオフ時やライディング中にバランスを崩す、ボードから落ちて着地する際に足首をひねる、海底に足を着いた際にひねる。
- 対処: RICE処置が基本です。痛みが続く場合は医療機関を受診し、靭帯の損傷度合いを確認することが重要です。
- フィンカット(足の指や甲の切り傷)
- 症状: 足の指や甲に鋭い切り傷。
- 原因: 波に巻かれた際にボードのフィンが足に当たる。
- 対処: ボードやフィンによる切り傷と同様に処置。
- 予防: リーフブーツの着用。
- 疲労骨折(中足骨など)
- 症状: 足の甲や指の付け根などの運動時痛。進行すると安静時にも痛むようになる。
- 原因: テイクオフやターン、ライディング中の足への繰り返し負荷。オーバーユース。
- 対処: 直ちに運動を中止し、医療機関を受診しましょう。
耳・目のトラブル
海水や紫外線、波の衝撃が直接影響する部位です。
- サーファーズイヤー(外耳道外骨腫)
- 症状: 外耳道が狭くなり、耳の閉塞感、耳鳴り、難聴、頻繁な外耳炎。
- 原因: 冷たい海水に繰り返しさらされることで、外耳道の骨が異常に成長し、狭くなる。長年のサーフィン歴がある人に多く見られます。
- 対処: 初期であれば温めるなどで症状が軽減することもありますが、進行した場合は手術が必要になります。耳鼻咽喉科を受診しましょう。
- 予防: 耳栓の着用(必須!)。
- 結膜炎・角膜炎
- 症状: 目の充血、痛み、かゆみ、異物感、視力低下。
- 原因: 海水の雑菌や砂、紫外線による刺激。
- 対処: 眼科を受診。
- 予防: サングラス(水中対応のもの)やコンタクトレンズ用保護メガネの着用。
その他
- 日焼け・熱中症
- 症状: 皮膚の発赤、痛み、水ぶくれ(日焼け)。倦怠感、頭痛、めまい、吐き気、けいれん、意識障害(熱中症)。
- 原因: 長時間の紫外線暴露、炎天下での活動。
- 対処: 日焼けは保湿と冷却。熱中症は涼しい場所での安静、水分・塩分補給。重度の場合には医療機関を受診。
- 予防: 日焼け止めクリームの塗布、ラッシュガードやウェットスーツの着用、こまめな水分補給、休憩。
怪我の予防のために
サーフィンにおける怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。
- 正しい知識と技術の習得:
- 初心者講習を受け、基本的なボードの扱い方、パドリング、テイクオフ、転倒時の安全確保(ボードから離れる、頭を守る)などの正しい技術を身につけましょう。
- 波の特性、潮汐、カレント(離岸流)などの海に関する知識を学び、安全な判断ができるようにしましょう。
- 十分なウォーミングアップとクールダウン:
- 入水前には全身をしっかり温め、特に肩、体幹、股関節、膝、足首など、サーフィンの動作に関わる全ての関節と筋肉を動かす動的ストレッチを重点的に行いましょう。
- サーフィン後には使った筋肉の静的ストレッチを行い、クールダウンすることで疲労回復を促し、柔軟性を維持できます。
- 筋力トレーニングと柔軟性の向上:
- 体幹(コア)、肩、背中、下半身の筋力をバランスよく鍛えることで、安定したライディングと怪我の予防に繋がります。特にパドリングに必要な持久力と筋力、テイクオフに必要な瞬発力、そしてボード上でのバランスを保つための体幹力が重要です。
- 全身の柔軟性、特に肩、股関節、膝、足首の柔軟性を高めることで、無理のない体勢で波に対応でき、怪我のリスクを減らせます。
- 適切な用具の選択と管理:
- 自身のレベルや体格、波のコンディションに合った適切なボード(浮力、長さなど)を選びましょう。初心者は浮力の大きいソフトボードから始めるのが安全です。
- リーシュコードは常に適切な長さで、劣化していないか確認しましょう。
- ウェットスーツやラッシュガードは、体温調節と同時に擦り傷や日焼けの予防にもなります。
- 耳栓、サングラス、リーフブーツなども必要に応じて活用しましょう。
- 海況の確認と無理をしない判断:
- 常にその日の波の状況、潮汐、風向き、海底の地形などを事前に確認しましょう。
- 自分のレベル以上の波や、混雑したポイントでは無理をしないことが大切です。少しでも不安を感じたら、入水を控えましょう。
- 他のサーファーへの配慮:
- 他のサーファーとの距離を保ち、衝突を避けるようにしましょう。特に、ブレイクする波のピーク付近では周囲をよく確認しましょう。
- 体調管理と栄養・休息:
- バランスの取れた食事で、筋肉や関節の回復に必要な栄養をしっかり摂りましょう。
- 十分な睡眠を確保し、疲労回復と体の修復を促しましょう。
- こまめな水分補給も忘れずに行いましょう。
- 症状の早期発見と対処:
- 痛みや違和感がある場合は無理せずサーフィンを中断し、必要であれば医療機関を速やかに受診しましょう。「少しの痛みだから」と我慢して続けることは、軽度な症状を重症化させる最大の要因ですし、長期的なパフォーマンス低下につながる可能性もあります。