水球で発生しやすい怪我・痛み

スポーツによる怪我・痛み

水球は、プール内で泳ぎながらボールを扱い、ゴールを目指す、非常に激しいコンタクトスポーツです。

シュートやパス、相手とのボールの奪い合い、攻防中の身体接触など、陸上競技とは異なる水の抵抗や浮力を利用した独特の動きが多いため、水球特有の怪我や痛みが発生しやすい傾向があります。

特に、肩や頸部といった上肢と体幹の連携部位、そして顔面、手指、膝といった直接的なコンタクトによる外傷が多く見られます。

また、水中の特性から、適切なケアを怠ると慢性化しやすいオーバーユース(使いすぎ)障害も発生しやすいです。

ここでは、水球で発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。

※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。

水球で発生しやすい怪我・痛み

肩の怪我(最も高頻度)

シュートやパス、ボールの奪い合い、そしてスイム(水泳)など、肩関節を酷使するため、最も怪我が発生しやすい部位です。

  • スイマーズショルダー(肩関節周囲炎、腱板炎、インピンジメント症候群など)
    • 症状: 泳ぐ際やシュート・パス動作で肩の深部に痛みが生じる。腕を上げたり、回したりする際に痛みが強くなる。夜間痛を伴うこともある。
    • 原因: シュートやパス、スイムといった肩関節の繰り返し動作による過度な負荷(オーバーユース)。特に、肩のインナーマッスルの疲労や筋力不足、不適切なフォーム、準備不足が主な原因となります。
    • 対処: 安静(練習の中止または軽減)が重要です。アイシング、炎症を抑える薬の使用、そして肩甲骨の安定化、インナーマッスルの強化、正しいフォームの修正を中心としたリハビリテーションが重要です。重度の損傷では手術が検討されることもあります。
  • 肩関節脱臼
    • 症状: 肩の激しい痛み、腕が動かせない、肩の変形
    • 原因: 相手との激しい接触や引き合い、あるいはシュートやパスの際に不自然な体勢で無理な力が加わる
    • 対処: 直ちにプレーを中断し、速やかに医療機関を受診し、整復する必要があります。

 

顔面・頭部の怪我

ボールや相手の肘・手などとの接触により発生します。

  • 鼻骨骨折・鼻出血
    • 症状: 鼻の痛み、腫れ、出血、変形。
    • 原因: ボールが直接当たる、相手の肘や手が当たるなど、顔面への直接的な打撃
    • 対処: 出血がある場合は止血し、速やかに医療機関を受診。変形を伴う場合は専門医の処置が必要です。
    • 予防: ノーズガード(鼻保護具)の着用
  • 目の周囲の打撲・眼窩(がんか)骨折
    • 症状: 目の周囲の痛み、腫れ、内出血。視力障害や複視(物が二重に見える)を伴うこともある。
    • 原因: ボールや相手の手が目に当たる、あるいはプールサイドやゴールポストにぶつかる。
    • 対処: 応急処置後、速やかに医療機関(特に眼科)を受診。
  • 頭部の打撲・脳震盪(のうしんとう)
    • 症状: 頭痛、めまい、吐き気、意識混濁、記憶障害など。
    • 原因: 相手との激しい接触、プールサイドやゴールポストへの衝突。
    • 対処: 直ちにプレーを中止し、医療機関を受診することが必須です。症状が軽いと思われても、必ず医師の診断を受けましょう。

 

手指・手首の怪我

ボールのキャッチ、シュート、相手の手のブロックなどで負荷がかかります。

  • 指の捻挫・突き指・骨折
    • 症状: 指の痛み、腫れ、変形。動かせない。
    • 原因: ボールをキャッチする際の衝撃、相手の手との絡み合い、ゴールキーパーがシュートを受ける際の衝撃。
    • 対処: 応急処置後、医療機関を受診。特に変形している場合は骨折の可能性が高いため、早急に受診しましょう。
  • 手首の捻挫・腱鞘炎
    • 症状: 手首の痛み、腫れ、動かすと痛む。
    • 原因: シュートやパスの際の手首の繰り返し動作、ボールをブロックする際の衝撃。
    • 対処: RICE処置、安静。痛みが続く場合は医療機関を受診。

 

頸部・体幹の怪我

水中での姿勢維持、相手との攻防、急な方向転換で負担がかかります。

  • 頸部痛(頸椎捻挫、むち打ちなど)
    • 症状: 首の痛み、首が動かせない、頭痛、肩や腕への放散痛。
    • 原因: ボールや相手とのコンタクトによる急激な首の動き、あるいは相手に沈められる際の首への負荷。
    • 対処: 安静、アイシング(急性期)、温熱ケア(慢性期)、ストレッチ。痛みが続く場合やしびれを伴う場合は医療機関を受診しましょう。
  • 腰痛(筋・筋膜性腰痛、腰椎捻挫など)
    • 症状: 腰の重だるさ、張り、特定の動作での痛み。
    • 原因: 水中での不安定な姿勢維持、パスやシュートの際の体幹のひねり動作、相手との攻防での無理な体勢、体幹の筋力不足、柔軟性不足、繰り返しのオーバーユース
    • 対処: 急性期は安静アイシング。痛みが落ち着いたら温熱ケアストレッチ、そして体幹の強化(腹筋、背筋、殿筋など)が特に重要です。痛みが続く場合は医療機関を受診しましょう。

 

膝・下肢の怪我

水中でのキック動作や、相手との接触で発生します。

  • 膝関節捻挫・半月板損傷
    • 症状: 膝の痛み、腫れ、不安定感、引っかかり感。
    • 原因: エッグビーターキック(水中で体を支える独特のキック)による膝への繰り返し負荷、相手との接触や引き合いによる膝のねじれ。
    • 対処: 直ちにプレーを中断し、RICE処置を行い、速やかに整形外科を受診しましょう。
  • 股関節痛(股関節周囲炎など)
    • 症状: 股関節の痛み。特にエッグビーターキックや水中での急な方向転換時に痛みが強くなる。
    • 原因: エッグビーターキックによる股関節への繰り返し負荷や、股関節の過度な外転・外旋。
    • 対処: 安静、アイシング、股関節周囲のストレッチと筋力強化。

 

その他(全身の怪我)

  • 打撲・擦り傷・裂傷
    • 症状: 皮膚の損傷、出血、痛み、腫れ。
    • 原因: 相手との身体接触、プールサイドやゴールポスト、プールの底との接触。
    • 対処: アイシング、清潔な処置。深い傷や出血が多い場合は医療機関を受診。
  • 筋肉痛 / 肉離れ
    • 症状: 運動後の筋肉の痛み、張り(筋肉痛)。運動中に突然の激痛、へこみや腫れ(肉離れ)。
    • 原因: ウォーミングアップ不足、急激な運動量・強度の増加、筋肉の疲労、柔軟性の低下。特に肩、背中、脚の筋肉に発生しやすいです。
    • 対処: 筋肉痛はストレッチ、温熱ケア、休息。肉離れはRICE処置を速やかに行い、医療機関を受診しましょう。
  • 耳の怪我(外耳炎、中耳炎、鼓膜損傷など)
    • 症状: 耳の痛み、耳鳴り、聞こえにくい、めまい。
    • 原因: プールの水が耳に入ることによる感染、水圧の変化、あるいは相手の肘などが耳に当たる。
    • 対処: 耳鼻咽喉科を受診。
    • 予防: 耳栓の着用

 

怪我の予防のために

水球における怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。

  • 十分なウォーミングアップとクールダウン(最も重要):
    • 練習や試合前には全身をしっかり温め、特に肩、頸部、腰、股関節、膝、足首など、水球の多様な動きに関わる全ての関節と筋肉を動かす動的ストレッチを重点的に行いましょう。水中に入る前に、陸上で十分な準備運動を行うことが重要です。
    • 練習後には使った筋肉の静的ストレッチを丁寧に行い、クールダウンすることで疲労回復を促し、柔軟性を維持できます。
  • 正しいフォームとテクニックの習得:
    • 経験豊富な指導者から、効率的で体に負担の少ないシュート、パス、スイム、エッグビーターキック、そして相手との攻防における身体の使い方など、正しいテクニックを学ぶことが何よりも重要です。不適切なフォームや無理な動きは、特定の部位への過度な負担となり、怪我の原因となります。
    • 特に、肩に負担をかけないシュートフォームや、体幹を使った安定した水中姿勢を習得することが不可欠です。
  • 筋力トレーニングと柔軟性の向上:
    • 水球に必要な全身の筋力、特に体幹(コア)の安定性肩、背中、腕を支える上肢の筋力、そしてエッグビーターキックを支える下半身(特に股関節周囲筋)の筋力と持久力をバランスよく鍛えることが、パフォーマンス向上と怪我の予防に繋がります。
    • 全身の柔軟性、特に肩、頸部、股関節、膝、脊柱の柔軟性を高めることで、無理のない可動域で動作を行え、怪我のリスクを減らせます。
  • 段階的な練習量・強度の増加と休息:
    • 急激な練習量や強度の増加は避け、無理のない範囲で徐々に運動量を増やしていきましょう。オーバーユースが怪我の主な原因となるため、適切な休息日を設け、疲労が蓄積している場合は無理せず休養を取りましょう。
  • 適切な保護具の着用:
    • ルールで着用が認められているノーズガード(鼻保護具)や耳栓は積極的に使用し、顔面や耳の怪我のリスクを低減させましょう。
    • 視力矯正が必要な場合は、コンタクトレンズではなく度付きのゴーグルを使用するなど、目への配慮も重要です。
  • 体調管理と栄養・休息:
    • バランスの取れた食事で、筋肉や関節の回復に必要な栄養をしっかり摂りましょう。
    • 十分な睡眠を確保し、疲労回復と体の修復を促しましょう。
    • こまめな水分補給も忘れずに行いましょう(水中でも脱水症状は起こります)。
  • ルール遵守とフェアプレー精神:
    • 危険なプレイや反則行為は、自身だけでなく相手の怪我にも繋がります。ルールを理解し、フェアプレー精神に則ってプレイすることが最も重要です。
  • 症状の早期発見と対処:
    • 痛みや違和感がある場合は無理せず練習を中断し、必要であれば整形外科などの医療機関を速やかに受診しましょう。「少しの痛みだから」と我慢して続けることは、軽度な症状を重症化させる最大の要因ですし、長期的なパフォーマンス低下や競技を続けること自体が困難になる可能性もあります。