ボルダリング・ロッククライミングは全身を使うスポーツですが、特に指や腕、肩などの上半身に負担がかかりやすく、特有の怪我が発生しやすい傾向にあります。
また、落下による衝撃で足や腰を痛めることもあります。
ここでは、ボルダリング・ロッククライミングで発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。
※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。
ボルダリング・ロッククライミングで発生しやすい外傷・怪我
ボルダリングでの怪我は、主に「オーバーユース(使いすぎ)」によるものと、「急性外傷(転倒や落下などによる突発的な損傷)」に分けられます。
1. 指・手首の怪我(最も多い)
ボルダリングでは、ホールドを掴む際に指や手首に非常に大きな負荷がかかるため、最も怪我が多い部位です。
- パキり(指の腱鞘・靭帯損傷・断裂)
- 特徴: クライマーの間で使われる俗称で、指の腱(指を曲げる筋肉の腱)を包む「腱鞘(けんしょう)」や、指の関節を安定させる「靭帯」が損傷したり、部分的に断裂したりする怪我です。限界を超えた負荷をかけた際、「パキッ」「パチンッ」という音や感覚と共に激痛が走ることがあります(音がしない場合もあります)。
- 原因: 小さなホールドを強く握り込んだり、デッドポイント(一度体を浮かせてから次のホールドを取る動き)などで瞬間的に指に大きな負荷がかかったりすることで発生します。
- 対処: 痛みが引くまで長期間の安静が必須です。放置すると慢性化したり、指が変形したりする可能性もあります。
- 腱鞘炎(ド・ケルバン病など)
- 特徴: 腱鞘の炎症で、指の付け根や手首に痛みが生じます。特に、指を曲げ伸ばしする際に痛みを感じたり、引っかかったりする「ばね指」に進行することもあります。
- 原因: ホールドを繰り返し握り込むことによる指や手首の腱への継続的な負荷が原因です。
- 対処: 安静、アイシング、炎症を抑える薬の使用などが一般的です。
- TFCC損傷(三角繊維軟骨複合体損傷)
- 特徴: 手首の小指側にある靭帯と軟骨の複合体が損傷する怪我です。手首をひねったり、小指側に曲げたりすると痛みが強くなります。
- 原因: ホールドを掴む際に手首を不自然にひねったり、体重をかけたりすることで発生します。
- 対処: 安静、固定(サポーターなど)、炎症を抑える治療が行われます。
- 虫様筋損傷
- 特徴: 手のひらの中にある小さな筋肉(虫様筋)が損傷する怪我で、クライミング特有の怪我の一つです。薬指や小指に痛みが集中することが多く、特に指を「股裂き」のように開くような特定のホールドの持ち方で発生しやすいです。
- 原因: 不自然な指の形での過負荷。
- 対処: 安静が重要です。隣の指とのテーピングも有効です。
2. 肘の怪我
指から腕、肩へとつながる筋肉への負荷が肘に集中し、炎症を起こすことがあります。
- 上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)
- 特徴: 肘の内側に痛みが生じます。指や手首を曲げる筋肉が肘の内側で付着する部分に炎症が起こります。
- 原因: ホールドを掴む際に指や手首を繰り返し強く握り込む動作、または強いデッドポイントなどで肘に負担がかかることで発生します。
- 対処: 安静、アイシング、ストレッチ、テーピング、サポーターなど。
- 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
- 特徴: 肘の外側に痛みが生じます。手首や指を伸ばす筋肉が肘の外側で付着する部分に炎症が起こります。
- 原因: 肘関節への繰り返し負荷や、特定のムーブで腕を外側にひねる動きなどが原因となることがあります。
- 対処: ゴルフ肘と同様に安静やストレッチなどが行われます。
3. 肩の怪我
大きなホールドを掴んだり、体を大きく動かしたりする際に、肩関節に強い負担がかかります。
- 腱板損傷(けんばんそんしょう)
- 特徴: 肩を上げたり、特定の方向へ動かしたりすると痛みが生じます。肩のインナーマッスル(腱板)が損傷する怪我で、部分断裂や完全断裂に至ることもあります。
- 原因: 肩関節の酷使によるオーバーユース、無理な姿勢でのホールド保持、落下の際の衝撃などが原因となります。
- 対処: 安静、リハビリテーション、場合によっては手術も検討されます。
- インピンジメント症候群
- 特徴: 肩を上げた際に、肩の腱や滑液包が骨に挟まれて痛みが生じます。
- 原因: 繰り返しの肩の上げ下ろしや、肩甲骨の動きの悪さなどが影響します。
- 対処: 姿勢改善、肩甲骨周りのストレッチや筋力強化。
4. 腰の怪我
クライミング中の姿勢や、着地時の衝撃で腰を痛めることがあります。
- 腰痛(筋・筋膜性腰痛、腰椎捻挫など)
- 特徴: 腰の重だるさ、張り、特定の動作での痛みなど。いわゆる「ぎっくり腰」のような急性の痛みが出ることもあります。
- 原因: 反り腰でのクライミング、着地時の衝撃吸収不足、体幹の不安定さ、片側への偏った動作などが挙げられます。
- 対処: 安静、アイシング(急性期)、温熱ケア(慢性期)、ストレッチ、体幹トレーニング。
5. 足・足首・膝の怪我
主にマットへの着地時の衝撃や、足の置き方によって発生します。
- 足首の捻挫・骨折
- 特徴: 着地時に足首をひねることで起こります。軽度な捻挫から、靭帯損傷、重度になると脱臼骨折に至ることもあります。
- 原因: 不安定な着地、高い位置からの落下、マットへの不慣れなどが原因です。
- 対処: RICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)、固定、医療機関での診断と治療。重度の場合は手術が必要です。
- 膝の靭帯損傷・半月板損傷
- 特徴: 着地時の衝撃や、キョン(ドロップニー)などの膝をひねる動きによって、膝の靭帯や半月板を損傷することがあります。
- 原因: 不適切な着地方法、無理な体勢での膝への負荷。
- 対処: 冷却、固定、医療機関での診断と治療。
怪我の予防のために
ボルダリングでの怪我は、適切な予防策で大きく減らすことができます。
- 十分なウォーミングアップとクールダウン: 登る前には全身の筋肉を温め、終わった後はストレッチでクールダウンしましょう。
- 適切な体の使い方: 無理な姿勢や偏った動作を避け、全身をバランスよく使う意識を持ちましょう。体幹を意識することも重要です。
- 着地時の工夫: 高い位置から安易に飛び降りず、できるだけ低い位置までクライムダウンして着地しましょう。着地時は膝を柔らかく使って衝撃を吸収し、背中から倒れる受け身を取るなど、正しい着地方法を身につけることが大切です。
- 休息と栄養: オーバーユースを防ぐため、練習のしすぎに注意し、十分な休息とバランスの取れた食事で体を回復させましょう。
- 症状の早期発見と対処: 違和感や軽い痛みを感じたら、無理せず休むこと。放置せずに早めに医療機関や専門家に相談することが、重症化を防ぐ鍵です。