ボクシングは、パンチを繰り出し、受け、防御するという動作を繰り返すため、頭部、手、肩、そして全身に様々な外傷や怪我が発生しやすいスポーツです。
特に、衝撃による骨折や打撲、そして頭部へのダメージが特徴的です。
ここでは、ボクシングで発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。
※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。
ボクシングで発生しやすい外傷・怪我
1. 頭部・顔面の怪我(最も重要)
ボクシングにおいて最も深刻な怪我につながりやすい部位であり、特に注意が必要です。
- 脳震盪(のうしんとう)
- 症状: 一時的な意識喪失、意識混濁、めまい、吐き気、頭痛、記憶障害(受傷時の記憶がない)、集中力の低下など。
- 原因: 頭部への強い衝撃により、脳が頭蓋骨内で揺さぶられることで発生します。
- 対処: 直ちに競技を中止し、医療機関を受診することが必須です。症状が軽いと思われても、必ず医師の診断を受けましょう。繰り返しの脳震盪は、慢性的な脳障害(パンチドランカー症候群など)につながる危険性があります。
- 裂傷(れっしょう)
- 症状: 皮膚が切れて出血する傷。特に眉毛の上、目の周り、頬骨、唇などが切れやすい。
- 原因: パンチの衝撃や、相手のヘッドギア、グローブの縫い目、額の硬い部分などとの接触。
- 対処: 止血し、清潔な状態に保つ。傷の深さによっては縫合が必要なため、医療機関を受診する。
- 眼窩底骨折(がんかていこっせつ)
- 症状: 目を動かすと痛む、物が二重に見える(複視)、目の奥のへこみ、眼球が陥没する、鼻血など。
- 原因: 目を強打され、目の下の薄い骨(眼窩底)が骨折することで発生。
- 対処: 眼科や口腔外科、形成外科を受診。視力に影響が出る可能性もあるため、緊急性が高い。
- 鼻骨骨折(びこつこっせつ)
- 症状: 鼻の痛み、腫れ、鼻血、鼻の変形、鼻づまり。
- 原因: 鼻への直接的なパンチ。
- 対処: 耳鼻咽喉科を受診。整復が必要な場合がある。
- 耳介血腫(じかいけっしゅ)/カリフラワー耳
- 症状: 耳の軟骨と皮膚の間に血が溜まり、耳が腫れて変形する。
- 原因: 繰り返しの打撃による摩擦や衝撃。
- 対処: 早期に血腫を吸引し、圧迫固定する。放置すると「カリフラワー耳」と呼ばれる永続的な変形につながる。
- 顎関節損傷・下顎骨骨折
- 症状: 口が開けにくい、顎の痛み、噛み合わせの異常、顎の変形、出血。
- 原因: 顎への強いパンチ。
- 対処: 口腔外科を受診。
2. 手・手首の怪我
パンチを繰り出す際に最も負担がかかる部位です。
- ボクサー骨折(中手骨骨折)
- 症状: 拳(手の甲)の激しい痛み、腫れ、変形。特に第4・5指の付け根(小指・薬指の根元)に多いが、強いパンチの選手は第2・3指にも発生する。拳を握ると痛みが増す。
- 原因: パンチが当たる瞬間に拳が適切に握られていない、または硬い部位(相手の肘、頭蓋骨など)にパンチを打ち込んだ際の衝撃。サンドバッグやミット打ちでのフォームの悪さも原因となる。
- 対処: 骨折の可能性が高いため、直ちに整形外科を受診する。 固定や手術が必要となる。
- 手首の捻挫
- 症状: 手首の痛み、腫れ、動かすと痛む。
- 原因: パンチの衝撃が手首に伝わり、関節が不自然にひねられる。グローブの付け方やバンテージの巻き方が不適切だと起こりやすい。
- 対処: RICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)。痛みが引かない場合は医療機関を受診。
- 突き指・指の骨折
- 症状: 指の痛み、腫れ、変形、動かせない。
- 原因: グローブ越しに相手の体に指が引っかかったり、不自然な形で当たったりする。
- 対処: 突き指はRICE処置。骨折の可能性があれば整形外科を受診。
3. 肩・肘の怪我
パンチ動作の繰り返しや、強い衝撃によって発生します。
- 肩関節脱臼(けんかんせつだっきゅう)
- 症状: 肩関節の激しい痛み、腕が動かせない、肩の変形。
- 原因: パンチを打ち抜いた際に腕が伸び切り、肩関節に強い牽引力が加わる。過度なローリング動作。
- 対処: 速やかに医療機関を受診し、整復する。 繰り返す場合は手術が検討される。
- 腱板損傷
- 症状: 肩を上げたり、特定の方向に動かしたりすると痛む。夜間痛。
- 原因: パンチ動作の繰り返しによるオーバーユースや、急な肩への負荷。
- 対処: 安静、アイシング、リハビリテーション。重度の場合は手術。
- 肘関節の痛み(上腕骨内側/外側上顆炎など)
- 症状: 肘の内側または外側の痛み。パンチを打つ動作や、特定の腕の動きで痛む。
- 原因: パンチの繰り返しによる肘関節への負荷や、不適切なフォーム。
- 対処: 安静、アイシング、ストレッチ、テーピング、医療機関での治療。
4. 体幹・下半身の怪我
- 肋骨骨折/打撲
- 症状: 肋骨周囲の痛み、呼吸時の痛み、咳やくしゃみでの痛み。
- 原因: ボディへのパンチ。
- 対処: 安静。呼吸が苦しい、痛みが強い場合は医療機関を受診。
- 腰痛(筋・筋膜性腰痛、腰椎捻挫など)
- 症状: 腰の重だるさ、特定の動作での痛み。
- 原因: パンチを打つ際の腰のひねり、体幹の不安定さ、体全体の連動性不足。
- 対処: 安静、ストレッチ、体幹強化。痛みが強い場合は医療機関を受診。
- 膝・足首の捻挫
- 症状: 痛み、腫れ。
- 原因: ステップワーク中のバランスの崩れ、相手との接触。
- 対処: RICE処置。
怪我の予防のために
ボクシングにおける怪我は、適切な予防策と意識によってリスクを軽減することができます。
- 適切なウォーミングアップとクールダウン: 全身の筋肉を温め、柔軟性を高め、練習後もクールダウンでケアする。
- 正しいフォームの習得: パンチの打ち方、防御、ステップワークなど、基本的なフォームを正確に身につけることで、不必要な負荷を減らす。
- 筋力トレーニングと体幹強化: パンチ力だけでなく、体幹を鍛えることで全身の安定性が増し、怪我のリスクを低減する。
- 適切な防具の着用:
- バンテージ: 手首と拳をしっかり固定し、衝撃を分散・吸収する。
- グローブ: 練習内容(サンドバッグ、ミット、スパーリング)に応じた適切な重さ・厚さのグローブを使用する。
- ヘッドギア: スパーリング時には着用し、頭部への衝撃を和らげる(脳震盪を完全に防ぐものではない)。
- マウスピース: 歯や顎の保護、脳震盪の軽減効果も期待できる。
- ファウルカップ: 急所保護。
- 休息と栄養: オーバーユースを防ぎ、疲労を回復させるために、十分な休息とバランスの取れた食事を心がける。
- 症状の早期発見と対処: 痛みや違和感を感じたら無理せず練習を中断し、早めに医療機関を受診する。特に頭部への衝撃があった場合は、自覚症状がなくても注意深く様子を見守ることが重要です。
ボクシングは魅力的なスポーツですが、安全に長く続けるためには、怪我のリスクを理解し、予防に努めることが何よりも大切です。