サンボで発生しやすい怪我・痛み

スポーツによる怪我・痛み
 サンボは、柔道やレスリングの要素を取り入れたロシア発祥の格闘技で、投げ技、関節技、固め技、そして一部の競技形式では打撃技も含まれる非常に実践的で激しいコンタクトスポーツです。
相手を制圧することを目的とするため、選手間の直接的なコンタクトや、関節への極限的な負荷、地面への叩きつけなどが頻繁に発生し、重篤な怪我のリスクが高いスポーツです。
特に、関節の靭帯損傷や脱臼、骨折といった急性外傷が非常に多く見られます。

ここでは、サンボで発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。

※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。

サンボで発生しやすい怪我・痛み

肩の怪我(高頻度かつ重篤)

投げ技による衝撃や、関節技での過度な可動域への強制、そして相手との組み合いで肩に大きな負担がかかります。

  • 肩関節脱臼(けんかんせつだっきゅう)
    • 症状: 肩の激しい痛み、腕が動かせない、肩の変形(腕がだらりと下がり、肩にへこみが確認できる)。
    • 原因: 投げ技で受け身を失敗して肩から着地する、相手に腕を不自然な方向に引っ張られる、あるいは肩関節技で関節の可動域を超えて強制される。
    • 対処: 速やかに医療機関を受診し、整復する必要があります。一度脱臼すると再発しやすいため、適切なリハビリテーションや、場合によっては手術が検討されます。
  • 腱板損傷(けんばんそんしょう)/ 腱板炎
    • 症状: 腕を上げたり、特定の方向に動かしたりする際に、肩の深部に痛みが生じる。夜間痛を伴うこともある。
    • 原因: 投げ技や組み技における肩の腱板(ローテーターカフ)への繰り返しによる過度な負荷(オーバーユース)。あるいは、関節技や投げ技での瞬間的な強い力。筋力不足、柔軟性不足が主な原因となります。
    • 対処: 安静が重要です。アイシング、炎症を抑える薬の使用、そして肩甲骨の安定化、インナーマッスルの強化、正しい技術フォームの修正を中心としたリハビリテーションが重要です。重度の損傷では手術が検討されることもあります。

 

肘・手首の怪我(高頻度かつ重篤)

関節技のターゲットとなる部位であり、受け身の際の衝撃も大きいです。

  • 肘関節靭帯損傷・脱臼・骨折
    • 症状: 肘の激しい痛み、腫れ、変形、動かせない
    • 原因: 腕ひしぎ十字固めなどの肘関節技による過伸展(伸ばしすぎ)や外力。あるいは、投げ技で受け身を失敗して肘から着地する。
    • 対処: 緊急性の高い怪我であり、直ちにプレーを中止し、速やかに整形外科を受診しましょう。多くの場合、専門的な治療や手術が必要です。
  • 手首の靭帯損傷・骨折・脱臼
    • 症状: 手首の痛み、腫れ、変形。動かせない。
    • 原因: 手首を極限まで捻る関節技、あるいは投げ技で受け身を失敗して手をつく。
    • 対処: 痛みが続く場合や腫れがひどい、変形している場合は、骨折や脱臼の可能性が高いため、整形外科を受診しましょう。

 

膝の怪我(高頻度かつ重篤)

投げ技の軸足、関節技のターゲット、そしてグラウンドでの攻防など、膝には大きな負担がかかります。

  • 膝関節靭帯損傷・断裂(特に前十字靭帯、内側側副靭帯)・半月板損傷
    • 症状: 膝の激しい痛み、腫れ、不安定感(膝がガクガクする感覚)。断裂の場合、歩行困難になることも。
    • 原因: 足関節、膝関節、股関節をまとめて極限までねじるような関節技(アンクルホールドからの膝捻りなど)。あるいは、投げ技で着地を失敗する、相手との激しい組み合いで膝が不自然な方向に捻じれる。
    • 対処: 直ちにプレーを中断し、RICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)を行い、速やかに整形外科を受診しましょう。靭帯の損傷程度によって、保存療法または手術が必要となります。前十字靭帯断裂は手術が必要となることがほとんどです。

 

頭部・顔面・頸部の怪我(重篤な可能性あり)

打撃技や投げ技の着地、そして絞め技により、頭部や頸部に大きな衝撃が加わることがあります。

  • 脳震盪(のうしんとう)
    • 症状: 頭痛、めまい、吐き気、意識混濁、記憶障害、平衡感覚の異常など。
    • 原因: 打撃技が頭部に当たる(スポーツサンボ以外)、投げ技で頭部をマットに強く打ち付ける、あるいはグラウンドでの攻防中に頭部が床に衝突する。
    • 対処: 直ちにプレーを中止し、医療機関を受診することが必須です。症状が軽いと思われても、必ず医師の診断を受けましょう。繰り返しの脳震盪は、慢性的な脳障害につながる危険性があります。
    • 予防: 適切な打撃技術の習得、投げ技の際の安全な着地指導、ヘッドギアの着用。
  • 頸部痛(頸椎捻挫、むち打ち、椎間板ヘルニアなど)
    • 症状: 首の痛み、首が動かせない、肩や腕への放散痛、しびれ。
    • 原因: 投げ技で頭から落ちる、絞め技による頸部への圧迫、あるいは激しいコンタクトで首が不自然な方向にひねられる。
    • 対処: 安静、アイシング(急性期)、温熱ケア(慢性期)、ストレッチ。痛みが続く場合やしびれを伴う場合は整形外科を受診しましょう。
  • 顔面・鼻骨の骨折・裂傷
    • 症状: 顔面や鼻の痛み、腫れ、変形、出血。
    • 原因: 打撃技が顔面に当たる(スポーツサンボ以外)、あるいはグラウンドでの攻防中に顔面をぶつける。
    • 対処: 応急処置後、医療機関を受診。
    • 予防: マウスピースの着用、場合によってはフェイスガードの検討。

 

足首・足部の怪我

投げ技や関節技のターゲット、そしてマット上での移動やバランスで負担がかかります。

  • 足関節捻挫
    • 症状: 足首の痛み、腫れ、内出血。ひどい場合は体重をかけられない。
    • 原因: 投げ技で着地を失敗する、あるいは足関節技による不意なひねり。
    • 対処: RICE処置が基本です。医療機関を受診し、靭帯の損傷度合いを確認することが重要です。
  • アキレス腱炎
    • 症状: アキレス腱周辺の痛み、腫れ、運動時の違和感。
    • 原因: ダッシュ、ステップ、ジャンプ、急停止の繰り返しによるアキレス腱へのオーバーユース
    • 対処: 安静とアイシング。痛みが引かない場合は医療機関を受診。

 

脊柱・腰の怪我

投げ技の際の受け身の失敗、グラウンドでの攻防、そして組み合いで脊柱や腰に大きな負担がかかります。

  • 椎間板ヘルニア
    • 症状: 腰の痛みだけでなく、お尻から足にかけてのしびれや痛み(坐骨神経痛)、筋力低下。
    • 原因: 投げ技による背中や腰への強い衝撃、あるいはグラウンドでの無理な体勢、腰をひねる動作の繰り返し。
    • 対処: 安静、炎症を抑える薬の使用、物理療法。症状によっては手術が必要となることもあります

 

その他(直接的な衝撃による怪我)

打撃技、投げ技、関節技、絞め技が複合的に組み合わされるため、全身に様々な怪我が発生します。

  • 打撲・擦り傷・裂傷
    • 症状: 皮膚の損傷、出血、痛み、腫れ。
    • 原因: 打撃技、投げ技によるマットへの接触、相手との接触。
    • 対処: アイシング、清潔な処置。深い傷や出血が多い場合は医療機関を受診。
  • 筋肉痛 / 肉離れ
    • 症状: 運動後の筋肉の痛み、張り(筋肉痛)。運動中に突然の激痛、へこみや腫れ(肉離れ)。
    • 原因: ウォーミングアップ不足、急激な動き、筋肉の疲労、柔軟性の低下。特に投げ技や組み技で全身の筋肉を大きく使うため、広背筋、ハムストリングス、大腿四頭筋などに発生しやすいです。
    • 対処: 筋肉痛はストレッチ、温熱ケア、休息。肉離れはRICE処置を速やかに行い、医療機関を受診しましょう。
  • 耳介血腫(じかいけっしゅ)/ 餃子耳
    • 症状: 耳介の腫れ、痛み、変形。
    • 原因: 耳への繰り返し摩擦や打撃、圧迫(グラウンドでの攻防、組み合い、絞め技など)。柔道やレスリングでも見られる怪我です。
    • 対処: 早期の段階であれば穿刺・吸引、圧迫包帯。重症化すると外科的処置が必要となることもあります。
    • 予防: ヘッドギア(耳保護具)の着用

 

怪我の予防のために

サンボにおける怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。

  • 十分なウォーミングアップとクールダウン:
    • 練習や試合前には全身をしっかり温め、特に肩、肘、手首、頸部、腰、股関節、膝、足首など、サンボの動作に関わる全ての関節と筋肉を動かす動的ストレッチを重点的に行いましょう。
    • 受け身の練習なども含め、競技に合わせた準備運動を丁寧に行いましょう。
    • 練習後には使った筋肉の静的ストレッチを丁寧に行い、クールダウンすることで疲労回復を促し、柔軟性を維持できます。
  • 正しい技術と受け身の習得(最も重要):
    • 経験豊富な指導者から、効率的で体に負担の少ない投げ技、関節技、絞め技、打撃技の技術を学ぶことが何よりも重要です。
    • 特に、安全な受け身(前方受け身、後方受け身、側方受け身)を徹底的に習得し、体が自然に反応するように反復練習することが、投げ技による重篤な怪我の予防に不可欠です。
    • 関節技や絞め技においては、相手の降参(タップ)を確認したら即座に技を解除するという倫理と安全意識を徹底しましょう。
  • 筋力トレーニングと柔軟性の向上:
    • サンボに必要な全身の筋力、特に体幹(コア)の安定性下半身の筋力と瞬発力、そして肩、背中、腕(握力含む)の筋力をバランスよく鍛えることが、パフォーマンス向上と怪我の予防に繋がります。
    • 全身の柔軟性、特に肩、股関節、膝、足首、脊柱、頸部の柔軟性を高めることで、無理のない可動域で動作を行え、怪我のリスクを減らせます。
  • 段階的な練習量・強度の増加と休息:
    • 急激な練習量やコンタクト練習の増加は避け、無理のない範囲で徐々に運動量を増やしていきましょう。オーバーユースが怪我の主な原因となるため、適切な休息日を設け、疲労が蓄積している場合は無理せず休養を取りましょう。
  • 適切な保護具の着用:
    • 競技ルールで定められている保護具(例えば、サンボ着、シューズ)に加え、練習中はヘッドギア(耳保護のため)やマウスピース、膝や肘のサポーターを積極的に着用しましょう。
  • 体調管理と栄養・休息:
    • バランスの取れた食事で、筋肉や関節の回復に必要な栄養をしっかり摂りましょう。
    • 十分な睡眠を確保し、疲労回復と体の修復を促しましょう。
    • こまめな水分補給も忘れずに行いましょう。
  • 症状の早期発見と対処:
    • 痛みや違和感がある場合は無理せず練習を中断し、必要であれば整形外科などの医療機関を速やかに受診しましょう。「少しの痛みだから」と我慢して続けることは、軽度な症状を重症化させる最大の要因ですし、長期的なパフォーマンス低下や選手生命に関わる重篤な怪我につながる可能性もあります。