卓球で発生しやすい怪我・痛み

スポーツによる怪我・痛み
 卓球は、瞬発的な動きと繊細なラケット操作が求められるスポーツです。
一見、激しい運動に見えないかもしれませんが、高速でのフットワークや、繰り返し行われるスイング動作は、身体の様々な部位に負担をかけます。
特に、肩、肘、手首といった上肢の関節や、膝、足首といった下肢の関節、そして腰に、オーバーユース(使いすぎ)による慢性的な痛みが発生しやすい傾向があります。
また、急な動きや不整地での転倒による急性外傷も起こりえます。

ここでは、卓球で発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。

※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。

卓球で発生しやすい怪我・痛み

肩の怪我(高頻度)

フォアハンドやバックハンドでのスイング、サーブ動作など、ラケットを振る動きで肩に大きな負担がかかります。

  • 腱板炎(けんばんえん)/ 腱板損傷
    • 症状: スイング時や腕を上げる際に、肩の深部に痛みが生じる。夜間痛を伴うこともある。
    • 原因: ラケットを振る動作における肩の腱板(ローテーターカフ)への繰り返しによる過度な負荷(オーバーユース)。特に、肩のインナーマッスルの疲労や筋力不足、不適切なスイングフォーム(手打ちになるなど)、準備不足が主な原因となります。
    • 対処: 安静(練習の中止または軽減)が重要です。アイシング、炎症を抑える薬の使用、そして肩甲骨の安定化、インナーマッスルの強化、正しいスイングフォームの修正を中心としたリハビリテーションが重要です。重度の損傷では手術が検討されることもあります。
  • インピンジメント症候群
    • 症状: スイングで腕を上げた際に、肩の前面や側面に痛みが生じる。特定の角度で腕を動かすと痛みが強くなることが多い。
    • 原因: スイング動作で肩の腱や滑液包が骨に挟まり、炎症を起こす。肩甲骨の動きの悪さや、姿勢の悪さも影響します。
    • 対処: 安静、アイシング、姿勢改善、肩甲骨周囲のストレッチや筋力強化。

 

肘・手首の怪我(高頻度)

ラケットを握り、ボールを打つ際の衝撃や、手首を返す動作で肘や手首に負担がかかります。

  • 肘関節の腱炎(外側上顆炎/テニス肘、内側上顆炎/ゴルフ肘など)
    • 症状: 肘の外側または内側に痛みが生じ、特にラケットを握る、ボールを打つ、腕や手首を動かす際に痛みが強くなる。
    • 原因: ラケットを振る動作における肘や前腕の筋肉への繰り返しによる過度な負荷(オーバーユース)。不適切なスイングフォーム(手打ち、手首の使いすぎなど)や、筋力不足も影響します。
    • 対処: 安静が基本です。アイシング、ストレッチ(前腕の筋肉)、肘バンドの使用、フォームの見直しなどが有効です。痛みが引かない場合は整形外科を受診しましょう。
  • 手首の腱鞘炎 / 捻挫
    • 症状: 手首の痛み、腫れ、動かすと痛む。腱鞘炎の場合は特定の動作で痛みが強くなる。
    • 原因: ラケットを握り続けることによる前腕や手首の筋肉への繰り返し負荷、あるいはサーブやスマッシュでの手首の急激な返し動作
    • 対処: 安静、アイシング、テーピングやサポーターで保護。痛みが続く場合は医療機関を受診。

 

腰・背中の怪我

前傾姿勢でのフットワークや、体をひねるスイング動作で腰や背中に負担がかかります。

  • 腰痛(筋・筋膜性腰痛、腰椎捻挫など)
    • 症状: 腰の重だるさ、張り、特定の動作での痛み。
    • 原因: 前傾姿勢での高速なフットワーク、スイング時の体幹のひねり動作、長時間の姿勢維持、体幹の安定性不足、柔軟性不足、繰り返しのオーバーユース
    • 対処: 急性期は安静アイシング。痛みが落ち着いたら温熱ケアストレッチ、そして体幹の強化(腹筋、背筋、殿筋など)が特に重要です。痛みが続く場合は医療機関を受診しましょう。
  • 背中の痛み(胸椎、広背筋など)
    • 症状: 肩甲骨の間や背中の上部の痛み、肩甲骨周囲の凝り感。
    • 原因: スイング時に肩甲骨が適切に動かせない、あるいは特定の筋肉に過度に負担がかかる。姿勢の悪さも関連します。
    • 対処: ストレッチ、温熱ケア、姿勢改善、肩甲骨周囲の筋力強化。

 

膝・足首の怪我(高頻度)

瞬発的なフットワークや、急停止・急加速の繰り返しで膝や足首に大きな負担がかかります。

  • 膝関節痛(膝蓋大腿関節痛症候群、ジャンパー膝/膝蓋腱炎など)
    • 症状: 膝のお皿の裏側や周囲、あるいは膝のお皿のすぐ下(膝蓋腱部)の痛み。特にフットワークや屈伸時に痛みが強くなる。
    • 原因: 高速なフットワーク(急停止、急加速、切り返し)の繰り返しによる膝への過度な負荷(オーバーユース)。大腿四頭筋やハムストリングスの筋力不足や柔軟性不足、不適切なシューズ、床面の硬さなども影響します。
    • 対処: 安静、アイシング、大腿四頭筋やハムストリングスの強化、ストレッチ。サポーターやインソールの使用も有効です。痛みが続く場合は整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。
  • 足関節捻挫
    • 症状: 足首の痛み、腫れ、内出血。ひどい場合は体重をかけられない。
    • 原因: フットワーク中の不意な着地ミス、急停止や切り返しでの足首のひねり。体育館の床面が滑りやすい、あるいは滑りにくいシューズなども影響します。
    • 対処: RICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)が基本です。痛みが続く場合や腫れがひどい場合は医療機関を受診し、靭帯の損傷度合いを確認することが重要です。
  • アキレス腱炎
    • 症状: アキレス腱周辺の痛み、腫れ、運動時の違和感。
    • 原因: ダッシュ、ステップ、急停止の繰り返しによるアキレス腱へのオーバーユース
    • 対処: 安静とアイシング。痛みが引かない場合は医療機関を受診。

 

その他

  • 筋肉痛 / 肉離れ
    • 症状: 運動後の筋肉の痛み、張り(筋肉痛)。運動中に突然の激痛、へこみや腫れ(肉離れ)。
    • 原因: ウォーミングアップ不足、急激な運動量・強度の増加、筋肉の疲労、柔軟性の低下。特にフットワークで使うふくらはぎ、ハムストリングス、大腿四頭筋などに発生しやすいです。
    • 対処: 筋肉痛はストレッチ、温熱ケア、休息。肉離れはRICE処置を速やかに行い、医療機関を受診しましょう。
  • 目の疲れ・視力低下
    • 症状: 目の痛み、かすみ、頭痛。
    • 原因: 高速で動くボールを目で追うことによる目の酷使
    • 対処: 適度な休憩、目を休ませる、目の体操。

 

怪我の予防のために

卓球における怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。

  • 十分なウォーミングアップとクールダウン:
    • 練習や試合前には全身をしっかり温め、特に肩、肘、手首、腰、股関節、膝、足首など、卓球の動作に関わる全ての関節と筋肉を動かす動的ストレッチを重点的に行いましょう。全身の関節の可動域を広げ、筋肉を温めることで、急な動きによる怪我を防ぎます。
    • 練習後には使った筋肉の静的ストレッチを丁寧に行い、クールダウンすることで疲労回復を促し、柔軟性を維持できます。
  • 正しいフォームとフットワークの習得(最も重要):
    • 経験豊富な指導者から、効率的で体に負担の少ないスイングフォームと正しいフットワーク(足の運び方)を学ぶことが何よりも重要です。
    • 特に、手打ちではなく体幹を使ったスイング、そして重心移動を伴うスムーズなフットワークを習得することで、特定の部位への負担を減らせます。
  • 筋力トレーニングと柔軟性の向上:
    • 卓球に必要な体幹(コア)の安定性下半身(大腿四頭筋、ハムストリングス、殿筋、ふくらはぎ)の筋力と瞬発力、そして肩、肘、手首、前腕の筋力をバランスよく鍛えることが、パフォーマンス向上と怪我の予防に繋がります。
    • 全身の柔軟性、特に股関節、膝、足首、脊柱、肩、肘、手首の柔軟性を高めることで、無理のない可動域で動作を行え、オーバーユース障害のリスクを減らせます。
  • 段階的な練習量・強度の増加と休息:
    • 急激な練習時間やラリー、フットワーク練習の増加は避け、無理のない範囲で徐々に運動量を増やしていきましょう。オーバーユースが怪我の主な原因となるため、適切な休息日を設け、疲労が蓄積している場合は無理せず休養を取りましょう。
  • 適切なシューズ選び:
    • 卓球専用のシューズは、軽量性、クッション性、グリップ力、そして横方向への動きに対するサポート力に優れています。足にしっかりフィットし、滑りにくいものを選びましょう。
  • 体調管理と栄養・休息:
    • バランスの取れた食事で、筋肉や関節の回復に必要な栄養をしっかり摂りましょう。
    • 十分な睡眠を確保し、疲労回復と体の修復を促しましょう。
    • こまめな水分補給も忘れずに行いましょう。
  • 症状の早期発見と対処:
    • 痛みや違和感がある場合は無理せず練習を中断し、必要であれば整形外科などの医療機関を速やかに受診しましょう。「少しの痛みだから」と我慢して続けることは、軽度な症状を重症化させる最大の要因ですし、長期的なパフォーマンス低下につながる可能性もあります。