柔道は、相手を投げたり、抑え込んだり、関節技や絞め技をかけたりする全身運動であり、投げられる側は受け身を取って衝撃を吸収します。
しかし、激しい練習や試合の中では、様々な外傷や怪我が発生しやすいスポーツです。
特に、関節や骨への直接的な衝撃、そしてオーバーユースによる怪我が多い傾向にあります。
ここでは、柔道で発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。
※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。
柔道で発生しやすい外傷・怪我
1. 肩関節の怪我(特に多い)
投げられた際の受け身の失敗や、肩への直接的な衝撃が原因となります。
- 肩関節脱臼(けんかんせつだっきゅう)
- 症状: 肩の激しい痛み、腕が動かせない、肩の変形。
- 原因: 受け身が不十分で肩から強く落ちた場合。相手に投げられた際に、腕が不自然な方向に引っ張られる。
- 対処: 速やかに医療機関を受診し、整復する必要があります。一度脱臼すると再発しやすいため、適切なリハビリテーションや、場合によっては手術が検討されます。
- 肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)
- 症状: 鎖骨の外側端(肩の先端部分)の痛み、腫れ、突出(段差ができる)。
- 原因: 肩から地面に直接落ちる衝撃。
- 対処: 痛みが強い場合は医療機関を受診。程度に応じて安静、固定(三角巾など)、または手術。
- 鎖骨骨折(さこつこっせつ)
- 症状: 鎖骨部分の激しい痛み、腫れ、変形、腕を動かせない。
- 原因: 肩や腕から強く落ちた際に、その衝撃が鎖骨に集中する。
- 対処: 骨折の可能性が高いため、直ちに整形外科を受診する。固定や手術が必要となる。
2. 膝関節の怪我(特に多い)
投げ技をかける際や、かけられた際に膝にひねりや衝撃が加わることが原因となります。
- 膝靭帯損傷(内側側副靭帯、前十字靭帯など)
- 症状: 膝の痛み、腫れ、不安定感(「膝がガクガクする」感覚)。前十字靭帯損傷では「ブチッ」という断裂音を伴うこともある。
- 原因: 投げ技の軸足が不自然にひねられる、相手の体重が膝にかかる、組み合いの中での膝への衝突。
- 対処: 整形外科を速やかに受診し、MRIなどの精密検査を受けましょう。損傷の程度により、保存療法(装具固定、リハビリ)または手術が検討されます。特に前十字靭帯損傷は手術が必要となることが多いです。
- 半月板損傷(はんげつばんそんしょう)
- 症状: 膝の痛み、引っかかり感、ロッキング現象(膝が曲がったまま伸びない)。
- 原因: 膝のねじれや衝撃。
- 対処: 医療機関を受診し、損傷の程度を診断してもらいます。保存療法で改善しない場合は手術が検討されます。
3. 肘関節の怪我(関節技によるものも含む)
関節技や受け身の際に肘に過度な力が加わることが原因となります。
- 肘関節脱臼
- 症状: 肘の激しい痛み、変形、動かせない。
- 原因: 受け身を失敗して肘を突く。関節技(腕挫十字固など)で無理に極められる。
- 対処: 速やかに医療機関を受診し、整復する必要があります。神経や血管の損傷を伴うこともあるため、緊急性が高いです。
- 肘関節捻挫
- 症状: 肘の痛み、腫れ、動かすと痛む。
- 原因: 受け身や関節技で、肘に不自然な力がかかる。
- 対処: RICE処置。痛みが引かない場合は医療機関を受診。
4. 手・指・手首の怪我
組み手や受け身、または技をかける際に発生します。
- 突き指・指の脱臼/骨折
- 症状: 指の痛み、腫れ、変形。曲げ伸ばしが困難。
- 原因: 相手の道着を掴む際に指が不自然にひねられる、受け身の際に指を畳に突く。
- 対処: 軽度であればアイシングとテーピング。腫れが引かない、変形している、動かせない場合は、整形外科を受診しましょう。
- 手首の捻挫
- 症状: 手首の痛み、腫れ、動かすと痛む。
- 原因: 受け身や組み手で手首が不自然にひねられる。
- 対処: RICE処置。
5. 足首・足の怪我
移動動作や踏み込み、着地、または足技の際に発生します。
- 足関節捻挫(そくかんせつねんざ)
- 症状: 足首の痛み、腫れ、内出血。ひどい場合は体重をかけられない。
- 原因: 足技(大外刈りなど)で軸足が不安定になる、移動動作中に足首をひねる、着地時にバランスを崩す。
- 対処: RICE処置が基本です。医療機関を受診し、靭帯の損傷度合いを確認することが重要です。
- アキレス腱断裂
- 症状: 運動中に「後ろから蹴られたような」突然の激痛、歩行困難。
- 原因: 急な踏み込みや方向転換時にアキレス腱に強い負荷がかかる。30代以降に多く見られる。
- 対処: 緊急性の高い怪我であり、速やかに整形外科を受診する必要があります。多くの場合、手術が必要です。
6. 頭部・頸部の怪我(最も注意が必要)
- 脳震盪(のうしんとう)
- 症状: 一時的な意識喪失、意識混濁、めまい、吐き気、頭痛、記憶障害(受傷時の記憶がない)など。
- 原因: 投げられた際に後頭部を強く打つ。受け身の失敗。絞め技などで意識を失う(「落ちる」)。
- 対処: 直ちに競技を中止し、医療機関を受診することが必須です。症状が軽いと思われても、必ず医師の診断を受けましょう。繰り返しの脳震盪は、慢性的な脳障害につながる危険性があります。
- 頸椎捻挫(けいついねんざ)/むち打ち症
- 症状: 首の痛み、首が動かしにくい、肩や腕への放散痛、しびれ。
- 原因: 投げられた際に首が強くしなったり、頭から落ちたりする。
- 対処: 首を安静にする。痛みが続く場合や、しびれを伴う場合は整形外科を受診。
- 急性硬膜下血腫など
- 症状: 激しい頭痛、吐き気、嘔吐、意識レベルの低下、麻痺など。
- 原因: 頭部への強い衝撃により、脳内で出血が起こる。脳震盪の症状を軽視し、すぐに練習を再開した場合(セカンドインパクトシンドローム)に、より重篤な状態に陥ることがある。
- 対処: 極めて緊急性が高い状態であり、意識障害などが見られた場合は救急車を呼び、直ちに脳神経外科のある病院を受診する。
7. 体幹・腰の怪我
投げ技や寝技での無理な姿勢、繰り返しによる負担が原因となります。
- 腰痛(筋・筋膜性腰痛、腰椎捻挫、椎間板ヘルニア、腰椎分離症・すべり症など)
- 症状: 腰の重だるさ、張り、特定の動作での痛み。時に足への放散痛やしびれを伴う。
- 原因: 投げ技をかける際の腰のひねりや反り、寝技での不自然な体勢、受け身での衝撃の蓄積、体幹の不安定さ。
- 対処: 急性期は安静とアイシング。痛みが落ち着いたら温熱ケア、ストレッチ、体幹強化。痛みが続く場合や神経症状を伴う場合は整形外科を受診。
怪我の予防のために
柔道における怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。
- 徹底した受け身の習得と反復練習: 柔道の「受け身」は、怪我をしないための最も重要な技術です。様々な方向からの投げ技に対応できるよう、正確な受け身を繰り返し練習しましょう。
- 十分なウォーミングアップとクールダウン: 全身の筋肉を十分に温め、関節の可動域を広げることで、怪我のリスクを軽減できます。練習後もクールダウンでケアしましょう。
- 正しい技のフォームの習得: 無理な姿勢や偏った力の使い方をせず、効率的で安全な技のフォームを身につけることが重要です。
- 筋力トレーニングと体幹強化: 全身のバランスと安定性を高めることで、投げ技の衝撃を吸収し、関節への負担を減らせます。
- 適切な防具の着用:
- マウスピース: 歯や顎の保護、脳震盪の軽減効果も期待できます。
- 膝や肘のサポーター: 関節の保護や安定性向上。
- ファウルカップ: 急所保護。
- 休息と栄養: 過度な練習は疲労を蓄積させ、怪我のリスクを高めます。十分な休息とバランスの取れた食事で体を回復させましょう。
- 症状の早期発見と対処: 痛みや違和感がある場合は無理せず練習を中断し、早めに医療機関を受診しましょう。特に頭部への衝撃があった場合は、自覚症状がなくても注意深く様子を見守ることが非常に重要です。
柔道は心技体を鍛える素晴らしい武道ですが、安全に長く続けるためには、怪我のリスクを理解し、予防に努めることが何よりも大切です。