ロードレースで発生しやすい怪我・痛み

スポーツによる怪我・痛み
ロードレースは、自転車を用いて舗装された道路を高速で走行する競技であり、長時間のライディング高強度なペダリングが特徴です。
そのため、特定の部位への繰り返し負荷によるオーバーユース障害が非常に多く見られます。
また、集団走行や高速走行に伴う落車(転倒)による急性外傷も、ロードレース特有の大きなリスクとなります。
特に、膝、腰、首、手首といった、自転車の乗車姿勢とペダリングに関わる部位に痛みが発生しやすい傾向があります。

ここでは、ロードレースで発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。

※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。

ロードレースで発生しやすい怪我・痛み

膝の怪我(最も高頻度)

ペダリング動作の繰り返しは、膝関節に大きな負担をかけます。

  • 膝蓋大腿関節痛症候群(しつがいだいたいかんせつしょうこうぐん)/ 膝蓋骨軟骨軟化症
    • 症状: 膝のお皿の裏側や周囲の痛み。特にペダリング時や、階段の昇り降りで痛みが強くなる。
    • 原因: クリート(シューズとペダルを固定する部品)の位置不良、サドルの高さや前後位置の不適切、ペダリングフォームの乱れ、大腿四頭筋の筋力不足やバランスの悪さなどにより、膝蓋骨に繰り返し過度なストレスがかかることで発生します。
    • 対処: 安静、アイシング、大腿四頭筋(特に内側広筋)の強化、ハムストリングスのストレッチ。自転車のフィッティング(ポジション調整)とクリート位置の見直しが最も重要です。痛みが続く場合は医療機関を受診しましょう。
  • 腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)/ ランナー膝
    • 症状: 膝の外側の痛み。特に長時間のライディング中に痛みが始まり、休むと軽減するが、再開するとまた痛むことが多い。
    • 原因: 股関節から膝の外側を通る腸脛靭帯が大腿骨(太ももの骨)と擦れることで炎症を起こします。クリート位置の不良、サドルの高さや前後位置の不適切、ペダリングフォームの乱れ、股関節や臀部の筋力不足、大腿筋膜張筋や腸脛靭帯の柔軟性不足などが関連します。
    • 対処: 安静、アイシング、ストレッチ(腸脛靭帯、臀部など)、股関節・臀部の筋力強化。自転車のフィッティングクリート位置の見直しも重要です。痛みが続く場合は医療機関を受診しましょう。
  • 膝蓋腱炎(しつがいけんえん)/ ジャンパー膝
    • 症状: 膝のお皿のすぐ下(膝蓋腱部)の痛み。特に高負荷のペダリング、坂道の上りで痛みが強くなる。
    • 原因: ペダリングの繰り返しによる膝蓋腱への過度な負担(オーバーユース)。サドルの高さが高すぎる、ギアが重すぎる、大腿四頭筋の筋力不足などが影響します。
    • 対処: 安静が基本です。アイシング、ストレッチ、大腿四頭筋の強化などが有効です。痛みが引かない場合は医療機関を受診しましょう。

 

腰・背中の怪我

前傾姿勢での長時間ライディング、そしてペダリング動作が腰や背中に負担をかけます。

  • 腰痛(筋・筋膜性腰痛、腰椎捻挫、椎間板ヘルニアなど)
    • 症状: 腰部の重だるさ、張り、特定の動作での痛み。ひどい場合は、足への放散痛やしびれを伴うこともある。
    • 原因: ロードバイクの前傾姿勢での長時間ライディングにおける腰への過度な負担。サドルの高さやハンドルまでの距離が適切でないことによる不良姿勢、体幹の筋力不足、ハムストリングスや股関節の柔軟性不足、無理な高ギアでのペダリングなどが複合的に影響します。
    • 対処: 急性期は安静アイシング。痛みが落ち着いたら温熱ケアストレッチ(特にハムストリングス、股関節屈筋群)、そして体幹の強化(腹筋、背筋、殿筋など)が特に重要です。自転車のフィッティングによるポジションの見直しが不可欠です。痛みが続く場合や神経症状を伴う場合は整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。
  • 背中の痛み(胸椎、広背筋など)
    • 症状: 肩甲骨の間や背中の上部の痛み、張り。
    • 原因: 長時間の前傾姿勢を維持するための背中や肩甲骨周囲の筋肉へのオーバーユース。ハンドル位置が遠すぎる、上体が固まっているなどが影響します。
    • 対処: ストレッチ、温熱ケア、体幹および背部筋肉の強化、フォームの改善。

 

首・肩の怪我

前傾姿勢で路面を確認するために首を反らす動作や、ハンドルを握る姿勢が首や肩に負担をかけます。

  • 頸部痛(頸椎捻挫、筋・筋膜性頸部痛など)
    • 症状: 首の痛み、首が動かしにくい、肩や腕への放散痛、しびれ。
    • 原因: ロードバイクの前傾姿勢で頭を上げて路面を見るために、首が過度に伸展した状態が長時間続くことによる首の筋肉への負担。ハンドルの高さやステム長が適切でないことも影響します。
    • 対処: 安静、アイシング(急性期)、温熱ケア(慢性期)、ストレッチ。自転車のフィッティングによるポジションの見直しが重要です。痛みが続く場合やしびれを伴う場合は医療機関を受診しましょう。
  • 肩の痛み(僧帽筋、肩甲挙筋など)
    • 症状: 首の付け根から肩にかけての凝りや痛み。
    • 原因: 長時間ハンドルを握ることで、肩や首の筋肉が緊張し続けることによるオーバーユース。ハンドルの位置、ステム長、ブラケットの握り方なども影響します。
    • 対処: ストレッチ、マッサージ、ポジション調整。

 

手首・手のひらの怪我

ハンドルを握る際に体重がかかることで、手首や手のひらに負担がかかります。

  • 手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)/ 尺骨神経麻痺(ハンター症候群)
    • 症状: 手のひらや指のしびれ、痛み。特に親指から薬指(手根管症候群)や小指側(尺骨神経麻痺)に症状が出やすい。握力低下を伴うこともある。
    • 原因: 長時間ハンドルを握ることで、手首や手のひらの神経が圧迫され続けることによる炎症や損傷。グローブをしていない、バーテープが薄い、フォームが硬いなどが影響します。
    • 対処: 安静(ライディングの中止または軽減)、手首のサポーターやスプリントの使用。自転車のフィッティングによるポジションの見直し(体重が手にかかりすぎないようにする)、厚手のグローブやジェル入りバーテープの使用。症状が続く場合は医療機関を受診しましょう。
  • 手首の腱鞘炎
    • 症状: 手首の痛み、腫れ、動かすと痛む。
    • 原因: 長時間ハンドルを握る際の繰り返し負荷。
    • 対処: 安静、アイシング、テーピングやサポーターで保護。

 

その他(落車による急性外傷)

ロードレースでは、集団走行中の接触や高速走行による単独転倒など、落車による怪我のリスクが常に伴います。

  • 擦り傷・打撲・裂傷
    • 症状: 皮膚の損傷、出血、痛み、腫れ。
    • 原因: 落車による路面や自転車との接触。
    • 対処: 清潔な処置。打撲はアイシング。深い傷や出血が多い場合は医療機関を受診。
    • 予防: 適切なウェアの着用(パッド入りレーサーパンツなど)。
  • 骨折(鎖骨、手首、肋骨、肩甲骨など)
    • 症状: 激しい痛み、腫れ、変形、動かせない。
    • 原因: 落車による直接的な衝撃。特に、転倒時に手をつくことで手首や鎖骨を骨折するケースが多い。
    • 対処: 緊急性の高い怪我であり、直ちにプレーを中止し、速やかに整形外科を受診しましょう。
  • 頭部・顔面・頸部の怪我(脳震盪、頸椎捻挫、歯の損傷など)
    • 症状: 頭痛、めまい、吐き気、意識混濁(脳震盪)。首の痛み(頸椎捻挫)。歯の痛み、欠け(歯の損傷)。
    • 原因: 落車時に頭部を路面に打ち付ける、あるいは顔面を強打する。
    • 対処: 直ちにプレーを中止し、医療機関を受診することが必須です。症状が軽いと思われても、必ず医師の診断を受けましょう。
    • 予防: ヘルメットの着用(必須!)。マウスピースの着用。
  • 肉離れ(ふくらはぎ、ハムストリングスなど)
    • 症状: 運動中に突然の激痛、へこみや腫れ。
    • 原因: ウォーミングアップ不足、急激なスプリントや加速、筋肉の疲労や柔軟性不足。
    • 対処: RICE処置を速やかに行い、医療機関を受診しましょう。

 

怪我の予防のために

ロードレースにおける怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。

  • 自転車の適切なフィッティング(ポジション調整)(最も重要):
    • サドルの高さ、前後位置、クリートの位置、ハンドルの高さとリーチ(距離)など、身体に合った適切なポジションに自転車を調整することが、オーバーユース障害の予防に何よりも重要です。専門家によるバイクフィッティングを受けることを強く推奨します。
    • これにより、無理のない快適な姿勢でペダリングができ、特定の部位への過度な負担が軽減されます。
  • 正しいペダリングフォームの習得:
    • ペダルをただ踏み込むだけでなく、足全体で円を描くように回す(引き足も使う)ペダリングを意識しましょう。
    • 膝が左右にブレないように、膝と足が一直線になるように意識することが重要です。
  • 十分なウォーミングアップとクールダウン:
    • サイクリング前には、軽いペダリングや、特に股関節、膝、足首、腰、首、肩など、ライディング動作に関わる全ての関節と筋肉を動かす動的ストレッチを重点的に行い、体を温めましょう。
    • ライディング後には使った筋肉の静的ストレッチ(特にハムストリングス、大腿四頭筋、殿筋、ふくらはぎ、腰、首)を丁寧に行い、クールダウンすることで疲労回復を促し、柔軟性を維持できます。
  • 筋力トレーニングと柔軟性の向上:
    • ロードレースに必要な下半身(大腿四頭筋、ハムストリングス、殿筋、ふくらはぎ)の筋力と持久力、そして体幹(コア)の安定性を高める運動を取り入れましょう。体幹が安定することで、ペダリング効率が上がり、腰への負担も軽減されます。
    • 全身の柔軟性、特にハムストリングス、股関節屈筋群、殿筋、腰、首、肩の柔軟性を高めることで、前傾姿勢での快適性と疲労軽減に繋がります。
  • 段階的な練習量・強度の増加と休息:
    • 急激な走行距離や強度の増加は避け、無理のない範囲で徐々に運動量を増やしていきましょう。オーバーユースが怪我の主な原因となるため、適切な休息日を設け、疲労が蓄積している場合は無理せず休養を取りましょう。
  • 適切な保護具の着用(必須!):
    • ヘルメットの着用は必須です。万が一の落車時に頭部を保護し、命を守る上で極めて重要です。
    • パッド入りのレーサーパンツは、股ずれを防ぎ、サドルからの衝撃を和らげます。
    • サイクリンググローブは、手のひらの衝撃吸収と、落車時の擦り傷保護に役立ちます。
  • 体調管理と栄養・休息:
    • 長時間のライディングが多いスポーツなので、バランスの取れた食事で、筋肉や関節の回復に必要な栄養をしっかり摂りましょう。
    • 十分な睡眠を確保し、疲労回復と体の修復を促しましょう。
    • こまめな水分補給とエネルギー補給を忘れずに行いましょう。
  • 安全な走行意識と交通ルールの遵守:
    • 交通ルールを遵守し、他の交通参加者や周囲の状況に常に注意を払いましょう。
    • 集団走行時は、前のライダーとの車間距離を適切に保ち、急なブレーキングや方向転換を避けるなど、安全な集団走行技術を習得しましょう。
  • 症状の早期発見と対処:
    • 痛みや違和感がある場合は無理せずライディングを中断し、必要であれば整形外科などの医療機関を速やかに受診しましょう。「少しの痛みだから」と我慢して続けることは、軽度な症状を重症化させる最大の要因ですし、長期的なパフォーマンス低下や競技生命に関わる重篤な怪我につながる可能性もあります。