ラグビーは、ボールを持って走り、タックルやスクラム、モール、ラックなど、全身を使った激しいコンタクト(身体接触)が特徴のスポーツです。
選手同士が高速で衝突したり、地面に倒れたりする場面が多いため、重篤な急性外傷のリスクが非常に高い競技です。
特に、頭部・頸部、肩、膝、足首に、骨折、脱臼、靭帯損傷、脳震盪といった急性外傷が頻繁に発生します。
また、練習や試合の繰り返しによるオーバーユース(使いすぎ)による慢性的な痛みも多く見られます。
ここでは、ラグビーで発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。
※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。
ラグビーで発生しやすい怪我・痛み
頭部・頸部の怪我(最も重篤な可能性あり)
タックル、スクラム、モール、ラックといった直接的なコンタクトや、倒れた際の衝撃が原因となります。
- 脳震盪(のうしんとう)
- 症状: 頭痛、めまい、吐き気、平衡感覚の障害、意識混濁、記憶障害、集中力の低下、光や音に過敏になるなど。
- 原因: 頭部への直接的な衝撃(タックル、衝突、地面への打ち付け)。
- 対処: 直ちにプレーを中止し、速やかに医療機関を受診することが必須です。症状が軽いと思われても、必ず医師の診断を受け、復帰には段階的なプロトコルが必要です。繰り返すと「脳震盪後症候群」のリスクが高まります。
- 予防: 正しいタックル・コンタクト技術の習得、ヘッドギアの着用。
- 頸椎捻挫・椎間板損傷・脊髄損傷
- 症状: 首の痛み、首が動かせない、腕や手への放散痛やしびれ。ひどい場合は四肢の麻痺。
- 原因: スクラムでの不適切な姿勢や無理な力が加わること、タックルでの首への衝撃、倒れた際の頭部・頸部への直接的な衝撃。
- 対処: 直ちにプレーを中止し、首を固定した状態で速やかに医療機関(救急搬送)を受診することが必須です。特に神経症状を伴う場合は緊急性が極めて高いです。
- 予防: スクラムなどにおける正しい姿勢と技術の習得、適切な筋力強化。
肩の怪我(高頻度)
タックル、倒れた際の着地、組み合う際の力のぶつかり合いが肩に大きな負担をかけます。
- 肩関節脱臼・亜脱臼
- 症状: 肩の激しい痛み、腕が動かせない、肩の変形。
- 原因: タックル時の直接的な衝撃や不適切な接触、倒れた際に不自然な形で手や肩から着地する。
- 対処: 直ちにプレーを中断し、速やかに医療機関を受診し、整復する必要があります。
- 鎖骨骨折・肩鎖関節脱臼
- 症状: 鎖骨や肩の付け根の激しい痛み、腫れ、変形、腕を動かせない。
- 原因: タックル時の肩からの直接的な衝撃、倒れた際に肩から地面に強く打ち付ける。
- 対処: 直ちにプレーを中断し、速やかに医療機関を受診しましょう。
- 腱板損傷・腱板炎
- 症状: 腕を上げたり回したりする際に肩の深部に痛みが生じる。夜間痛を伴うこともある。
- 原因: タックルやリフトなど、肩関節への繰り返し負荷や瞬間的な過度な力。
- 対処: 安静、アイシング。痛みが続く場合は医療機関を受診。
膝の怪我(高頻度かつ重篤な可能性あり)
タックル、スクラム、方向転換、ジャンプ、着地など、膝には極めて大きな負担がかかります。
- 膝関節靭帯損傷(特に前十字靭帯、内側側副靭帯)・半月板損傷
- 症状: 膝の激しい痛み、腫れ、不安定感、ロッキング(膝が曲げ伸ばしできない状態)。
- 原因: タックルやコンタクト時の膝への直接的な衝撃、スクラムやモールでの膝のねじれ、急な方向転換。
- 対処: 直ちにプレーを中断し、RICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)を行い、速やかに整形外科を受診しましょう。重度の損傷の場合、手術が必要となることがほとんどです。
- 膝蓋腱炎(ジャンパー膝に類似)
- 症状: 膝のお皿のすぐ下(膝蓋腱部)に痛みが生じる。特にダッシュ、ジャンプ、スクワット時に痛みが強くなる。
- 原因: 走り、ジャンプ、スクラムなど、膝を屈伸させる動作の繰り返しによる膝蓋腱への過度な負荷(オーバーユース)。
- 対処: 安静、アイシング。痛みが続く場合は医療機関を受診。
足首・足部の怪我
ダッシュ、急停止、方向転換、タックル、そして倒れた際の着地などで足首に大きな負担がかかります。
- 足関節捻挫(最も高頻度)
- 症状: 足首の痛み、腫れ、内出血。ひどい場合は体重をかけられない。
- 原因: 走り、急な方向転換、タックル、あるいは倒れた際の不適切な着地。
- 対処: RICE処置が基本です。医療機関を受診し、靭帯の損傷度合いを確認することが重要です。適切なリハビリテーションを行わないと再発しやすい怪我です。
- アキレス腱断裂・アキレス腱炎
- 症状: (断裂)アキレス腱部の激しい痛み、アキレス腱部にへこみ、歩けない。足首を動かせない。(炎症)アキレス腱周辺の痛み、腫れ。
- 原因: ダッシュやジャンプなど、瞬間的な強い蹴り出し、あるいは繰り返し負荷によるオーバーユース。
- 対処: 断裂の場合は緊急手術がほとんどです。炎症の場合は安静とアイシング、ストレッチ。
腰・体幹の怪我
スクラム、モール、ラックといった激しいコンタクトや、体をひねる動作が腰や体幹に大きな負担をかけます。
- 腰痛(筋・筋膜性腰痛、腰椎捻挫、椎間板ヘルニアなど)
- 症状: 腰の重だるさ、張り、特定の動作での痛み。ひどい場合はお尻や足への放散痛やしびれ。
- 原因: スクラムでの不適切な姿勢や過度な負荷、モール・ラックでの押し合いやひねり動作、タックルでの衝撃、体幹の安定性不足、繰り返しのオーバーユース。
- 対処: 急性期は安静とアイシング。痛みが続く場合や神経症状を伴う場合は整形外科を受診しましょう。
その他(全身の怪我)
- 肉離れ(特にハムストリングス、ふくらはぎ、大腿四頭筋)
- 症状: 運動中に突然の激痛、へこみや腫れ。
- 原因: 急なダッシュ、ストップ、方向転換、あるいはタックルやスクラムなどの瞬間的な強い筋力発揮、ウォーミングアップ不足、柔軟性不足。
- 対処: 直ちにプレーを中断し、RICE処置を速やかに行い、医療機関を受診しましょう。
- 打撲・擦り傷・裂傷
- 症状: 皮膚の損傷、出血、痛み、腫れ。
- 原因: 相手との直接的なコンタクト、地面への打ち付け、スパイクによる接触。
- 対処: アイシング、清潔な処置。深い傷や出血が多い場合は医療機関を受診。
- 鼻骨骨折・耳介血腫(カリフラワー耳)
- 症状: 鼻の痛み、腫れ、出血、変形。耳の腫れ、変形、痛み。
- 原因: 顔面への直接的な打撃(タックル、衝突)。耳介血腫は、繰り返し耳に衝撃が加わることで軟骨と皮膚の間に血液が溜まり、放置すると変形する。
- 対処: 鼻骨骨折は医療機関受診。耳介血腫は早期の処置が重要です。
- 予防: ヘッドギア、マウスガードの着用。
- 歯の損傷・顎関節症
- 症状: 歯の欠損、破折、グラつき。顎の痛み、口が開けにくい、カクカク音がする。
- 原因: タックルや衝突時の顔面への衝撃。
- 対処: 歯科医を受診。
- 予防: マウスガードの着用(必須)。
怪我の予防のために
ラグビーにおける怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。特に、その激しいコンタクトの性質上、適切な指導と安全意識が不可欠です。
- 十分なウォーミングアップとクールダウン(最も重要):
- 練習や試合前には全身をしっかり温め、特に頭部・頸部、肩、膝、足首、股関節、腰など、ラグビーの全ての動作に関わる関節と筋肉を動かす動的ストレッチを重点的に行いましょう。全身の関節の可動域を広げ、筋肉の温度を高めることで、急な動きや大きな負荷での怪我を防ぎます。
- 練習後には使った筋肉の静的ストレッチを丁寧に行い、クールダウンすることで疲労回復を促し、柔軟性を維持できます。
- 正しいプレー技術とコンタクト技術の習得(最も重要):
- 経験豊富な指導者から、効率的で体に負担の少ないタックル、スクラム、ラック、モール、ボールキャリアー(ボールを持って走る選手)としてのコンタクト時の姿勢と倒れ方など、正しいテクニックを学ぶことが何よりも重要です。不適切な技術や無理な体勢は、重篤な怪我の原因となります。
- 特に、頭を下げないタックルや、スクラムにおける正しい姿勢と組むタイミングは、頸部・脊髄損傷の予防に直結するため、徹底して指導・習得されるべきです。
- 全身の筋力トレーニングと柔軟性の向上:
- ラグビーに必要な全身の筋力、特に体幹(コア)の安定性、首、肩、胸、背中といった上半身の筋力、そして下半身(大腿四頭筋、ハムストリングス、殿筋、ふくらはぎ)の筋力と瞬発力をバランスよく鍛えることが、パフォーマンス向上と怪我の予防に繋がります。
- 全身の柔軟性、特に股関節、膝、足首、脊柱、肩、頸部の柔軟性を高めることで、無理のない可動域で動作を行え、怪我のリスクを減らせます。
- 段階的な練習量・強度の増加と休息:
- 急激な練習量やコンタクト練習の増加は避け、無理のない範囲で徐々に運動量を増やしていきましょう。オーバーユースが怪我の主な原因となるため、適切な休息日を設け、疲労が蓄積している場合は無理せず休養を取りましょう。
- 適切な保護具の着用(必須):
- マウスガード(マウスピース)は、歯や顎の損傷、脳震盪のリスク軽減に非常に有効であり、多くのラグビー協会で着用が推奨または義務付けられています。
- ヘッドギアは、耳の保護(耳介血腫予防)や頭部の擦り傷、軽い打撲の軽減に役立ちます。脳震盪の予防効果については議論がありますが、着用を推奨されることが多いです。
- ショルダーパッド(肩パッド)は、肩の打撲や擦り傷、鎖骨骨折などのリスクを軽減する可能性があります。
- 適切なスパイクシューズを選び、グラウンドの状況に合わせてスタッド(ポイント)を調整することで、足首や膝への負担を軽減し、滑りによる怪我を防ぎます。
- 体調管理と栄養・休息:
- バランスの取れた食事で、筋肉や関節の回復に必要な栄養をしっかり摂りましょう。
- 十分な睡眠を確保し、疲労回復と体の修復を促しましょう。
- こまめな水分補給も激しい運動では必須です。
- レフリーや指導者による安全管理の徹底:
- レフリーは、危険なプレーを厳しく取り締まり、選手の安全を守る役割を担います。
- 指導者は、選手の安全を最優先に考え、無理な練習をさせない、怪我の状態を適切に把握するといった管理を徹底すべきです。
- 症状の早期発見と対処:
- 痛みや違和感がある場合は無理せず練習や試合を中断し、必要であれば整形外科などの医療機関を速やかに受診しましょう。「少しの痛みだから」と我慢して続けることは、軽度な症状を重症化させる最大の要因ですし、長期的なパフォーマンス低下や競技を続けること自体が困難になる可能性もあります。特に、脳震盪の疑いがある場合は、即座にプレーを中断し、専門医の診断を受けることが最も重要です。