スノーボードは、片足がボードに固定されている特性や、習得初期に転倒しやすいことから、スキーとは異なる、あるいはより頻繁に発生する怪我の傾向があります。
特に手首の骨折、肩の脱臼、そして頭部の打撲がスノーボーダーに多い怪我として知られています。
※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。
スノーボードで発生しやすい外傷・怪我
1. 手首の怪我(最も多い)
スノーボードで最も多く見られる怪我です。転倒時に手をつくことで発生します。
- 手首の骨折(特に橈骨遠位端骨折)
- 症状: 手首の激しい痛み、腫れ、変形、動かせない。
- 原因: 転倒時にバランスを崩して、とっさに手をついた際に、手首に全体重の衝撃が集中するため。特に手のひらを雪面につく形で転倒することが多いです。
- 対処: 骨折の可能性が高いため、直ちに整形外科を受診しましょう。 ギプス固定や手術が必要となります。
- 予防: リストガード(プロテクター)の装着が最も有効です。また、安全な転び方を習得し、手をつくのではなく、背中や膝から着地する意識を持つことも大切です。
- 手首の捻挫
- 症状: 手首の痛み、腫れ、動かすと痛む。骨折ほどではないが、日常生活にも支障が出ることがあります。
- 原因: 骨折と同様に、転倒時に手をついた際に手首が不自然にひねられる。
- 対処: RICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)が基本です。痛みが続く場合は医療機関を受診しましょう。
2. 肩の怪我
転倒時に肩から打ち付けたり、手をついた際の衝撃が肩に伝わったりすることで発生します。
- 肩関節脱臼(けんかんせつだっきゅう)
- 症状: 肩の激しい痛み、腕が動かせない、肩の変形(腕がだらりと下がり、肩にへこみが確認できる)。
- 原因: 転倒時に肩から地面に強く打ち付ける、または手をついた際に腕が不自然な方向に引っ張られる。特に前方への転倒で多いです。
- 対処: 速やかに医療機関を受診し、整復する必要があります。一度脱臼すると再発しやすいため、適切なリハビリテーションや、場合によっては手術が検討されます。
- 予防: ショルダープロテクターの装着や、安全な転び方の習得(手をつかない、肩から打ち付けない意識)が有効です。
- 鎖骨骨折(さこつこっせつ)
- 症状: 鎖骨部分の激しい痛み、腫れ、変形、腕を動かせない。
- 原因: 肩から強く転倒した際に、その衝撃が鎖骨に集中する。
- 対処: 骨折の可能性が高いため、直ちに整形外科を受診する。固定や手術が必要となることがあります。
3. 頭部・顔面の怪我
転倒や衝突の際に最も重篤な結果を招く可能性があります。スノーボードは後方への転倒が多いため、後頭部を打ちやすい傾向にあります。
- 脳震盪(のうしんとう)
- 症状: 一時的な意識喪失、意識混濁、めまい、吐き気、頭痛、記憶障害(受傷時の記憶がない)、集中力の低下など。
- 原因: 転倒時に頭部を雪面に強く打ち付ける、他のスノーボーダーやスキーヤー、物体との衝突。
- 対処: 直ちに滑走を中止し、医療機関を受診することが必須です。症状が軽いと思われても、必ず医師の診断を受けましょう。繰り返しの脳震盪は、慢性的な脳障害につながる危険性があります。
- 予防: ヘルメットの着用が最も重要です。転倒時に顎を引き、後頭部を打ち付けないような安全な転び方を身につけることも大切です。
- 顔面骨骨折(鼻骨骨折、頬骨骨折など)・裂傷
- 症状: 顔面の痛み、腫れ、変形、出血。
- 原因: 転倒や衝突時に顔面を打ち付ける。
- 対処: 医療機関を受診し、適切な治療を受けましょう。
4. 腰・お尻の怪我
転倒時に尾てい骨や腰部を強く打ち付けることが多く、特に初心者に多い怪我です。
- 尾骨骨折(びこつこっせつ)/打撲
- 症状: 尾てい骨周辺の激しい痛み、座ると痛む、排便時に痛む。
- 原因: 後方へ転倒し、お尻から雪面に強く打ち付ける。
- 対処: 安静、ドーナツクッションなどの使用で患部を圧迫しないようにする。痛みが続く場合は整形外科を受診しましょう。
- 予防: ヒッププロテクター(お尻パッド)の装着が非常に有効です。
- 腰椎捻挫/腰痛
- 症状: 腰の重だるさ、張り、特定の動作での痛み。
- 原因: 転倒時の衝撃、滑走中の不自然な姿勢(前傾・後傾の維持)、体幹の筋力不足。
- 対処: 急性期は安静とアイシング。痛みが落ち着いたら温熱ケア、ストレッチ、体幹強化。痛みが続く場合は医療機関を受診しましょう。
5. 膝の怪我
スノーボードは板に両足が固定されているため、スキーと比べて膝の捻挫は少ない傾向にありますが、全く発生しないわけではありません。
- 前十字靭帯損傷(ぜんじゅうじじんたいそんしょう)/半月板損傷
- 症状: 受傷時に「ブチッ」という断裂音や感覚がある、膝の激しい痛みと腫れ、膝が不安定でガクガクする(膝くずれ)。引っかかり感やロッキング。
- 原因: 板が引っかかって転倒した際に膝がねじれる、ジャンプの着地失敗、不適切なフォームでの滑走。
- 対処: RICE処置を行い、速やかに整形外科を受診しましょう。重度の場合は手術や長期のリハビリテーションが必要です。
6. 足首・下腿の怪我
ブーツで固定されているため捻挫は少ないですが、稀に重篤な骨折が発生することがあります。
- 足関節骨折(足首や下腿の骨折)
- 症状: 足首や下腿の激しい痛み、腫れ、変形。体重をかけることができない。
- 原因: 高速での転倒、板が引っかかった際に足首に強いねじれや圧迫の力が加わる。
- 対処: 骨折の可能性が高いため、直ちに整形外科を受診しましょう。 固定や手術が必要となります。
怪我の予防のために
スノーボードにおける怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。
- 十分なウォーミングアップとクールダウン:
- 滑走前には全身をしっかり温め、特に手首、肩、股関節、膝、足首などの関節を動かす動的ストレッチを重点的に行いましょう。
- 滑走後には使った筋肉の静的ストレッチを行い、クールダウンすることで疲労回復を促し、柔軟性を維持できます。
- プロテクターの着用:
- ヘルメット:頭部保護のため必ず着用しましょう。
- リストガード(手首用プロテクター):手首の骨折予防に最も有効です。
- ヒッププロテクター(お尻パッド):尾骨や腰部の打撲・骨折予防に有効です。
- 必要に応じて、膝パッドや脊椎パッドなども検討しましょう。
- 正しい滑走技術とフォームの習得:
- インストラクターから指導を受け、安全で効率的な滑走技術を身につけることが重要です。特に、安全な転び方(手をつかない、背中やお尻で受け身を取る)を習得しましょう。
- エッジングやターンの基礎をしっかり学び、無理な姿勢での滑走を避けましょう。
- レベルに合ったコース選択と無理のない滑走:
- 自身の技術レベルや体力、経験に合ったコースを選びましょう。難しいコースや悪雪での無理な滑走は怪我のリスクを高めます。
- スピードの出しすぎに注意し、常に周囲の状況を確認しながら滑りましょう。特に、スキーヤーや他のスノーボーダーとの衝突には十分な注意が必要です。
- 筋力トレーニングと柔軟性の向上:
- スノーボードに必要な体幹(腹筋、背筋)、下半身(大腿四頭筋、ハムストリングス、殿筋)、そして手首や肩周りの筋力をバランスよく鍛えることで、体の安定性が向上し、衝撃を吸収しやすくなります。
- 股関節、膝関節、足首、手首、肩の柔軟性を高めるストレッチを継続的に行いましょう。
- 適切な用具の選択と調整:
- ボード、ビンディング、ブーツ: 自身の体格や技術レベルに合ったものを選び、専門店で専門家による調整を受けましょう。
- ブーツとビンディングのセッティング(アングルやスタンス幅)も重要です。
- 休息と栄養:
- 長時間の滑走や連日のスノーボードは疲労を蓄積させ、判断力や反応速度を低下させ、怪我のリスクを高めます。適度な休憩を設け、体の回復を促しましょう。
- バランスの取れた食事と十分な水分補給も大切です。
- 症状の早期発見と対処:
- 痛みや違和感がある場合は無理せず滑走を中断し、必要であれば整形外科などの医療機関を速やかに受診しましょう。「少しの痛みだから」と我慢して続けることは、重症化を招く最大の要因です。