投てき競技(ハンマー投げ・砲丸投げ・やり投げ)で発生しやすい怪我・痛み

スポーツによる怪我・痛み
投てき競技、特にハンマー投げと砲丸投げ・やり投げは、重い用具を扱うこと、そして全身の爆発的なパワーと回旋動作を伴うことから、非常に高い負荷が身体にかかります。

そのため、肩、肘、腰、背中といった投てき動作に直接関わる部位に、オーバーユース(使いすぎ)による慢性的な怪我や、瞬間的な高負荷による急性外傷が発生しやすいのが特徴です。

左右非対称の動作も怪我のリスクを高めます。

ここでは、ハンマー投げと砲丸投げ・やり投げで発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。

※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。

投てき競技(ハンマー投げ・砲丸投げ・やり投げ)に発生しやすい怪我・痛み

肩の怪我(特に投げる側の肩)

重い用具を振り回したり、押し出したりする動作で肩関節に大きな負担がかかります。

  • 腱板炎(けんばんえん)/ 腱板損傷
    • 症状: 腕を上げたり、特定の方向に動かしたりすると痛む。特に投てき動作の際に痛みが増し、夜間痛を伴うこともある。
    • 原因: ハンマー投げの旋回や砲丸投げ・やり投げの押し出しなど、肩関節への繰り返しによる過度な負荷(オーバーユース)。インナーマッスル(腱板)の疲労や微細損傷が蓄積することで炎症が起き、進行すると腱板の断裂に至ることもある。不適切なフォームや、投てき後の急激な減速も原因となります。
    • 対処: 安静が重要です。アイシング、炎症を抑える薬の使用、そして肩甲骨の安定化やインナーマッスルの強化、投てきフォームの改善を中心としたリハビリテーションが重要です。重度の損傷では手術が検討されることもあります。
  • 上腕二頭筋長頭腱炎(じょうわんにとうきんちょうとうけんえん)
    • 症状: 肩の前方、特に腕の付け根に近い部分の痛み。投てき動作や腕を上げる際に痛みが強くなる。
    • 原因: 投てき動作における上腕二頭筋腱への繰り返し負荷。
    • 対処: 安静、アイシング、ストレッチ、筋力強化。
  • 肩関節インピンジメント症候群
    • 症状: 肩を上げた際に、肩の前面や側面に痛みが生じる。特定の角度で腕を動かすと痛みが強くなることが多い。
    • 原因: 繰り返しの腕の上げ下ろし動作や、投てき動作で肩の腱や滑液包が骨に挟まり、炎症を起こす。肩甲骨の動きの悪さや、姿勢の悪さも影響します。
    • 対処: 安静、アイシング、姿勢改善、肩甲骨周りのストレッチや筋力強化。

 

肘の怪我(特に投げる側の肘)

重い用具の加速とリリース時に肘関節に大きなストレスがかかります。

  • 内側上顆炎(ないそくじょうかえん)/ 野球肘 / ゴルフ肘
    • 症状: 肘の内側に痛みが生じ、特に手首を手のひら側に曲げたり、強く握り込んだりする際に痛みが強くなる。
    • 原因: 砲丸投げ・やり投げの押し出しやハンマー投げのリリース時など、肘の内側への牽引力が繰り返しかかることによる腱の炎症(オーバーユース)。重い用具を強く握る動作も影響します。
    • 対処: 安静が基本です。アイシング、ストレッチ(前腕屈筋群)、肘バンドの使用、フォームの見直しなどが有効です。痛みが引かない場合は整形外科を受診し、薬や注射、理学療法などの治療を受けます。
  • 外側上顆炎(がいそくじょうかえん)/ テニス肘
    • 症状: 肘の外側に痛みが生じ、特に手首を手の甲側に反らせたり、物を掴んで持ち上げたりする際に痛みが強くなる。
    • 原因: 投てき動作の繰り返しで肘の外側への負担がかかることや、オーバーユースが原因となることがあります。
    • 対処: 内側上顆炎と同様に、安静、アイシング、ストレッチ、医療機関での治療が行われます。
  • 肘関節の剥離骨折 / 骨片遊離
    • 症状: 肘の激しい痛み、腫れ、可動域制限。
    • 原因: 投てき動作による急激な牽引力や圧縮力が骨にかかり、骨の一部が剥がれたり、軟骨や骨の欠片が関節内を移動したりする。特に成長期の選手に起こりやすい。
    • 対処: 直ちに医療機関を受診。手術が必要となることもあります。

 

腰・背中の怪我

全身の回旋や屈伸を伴うため、腰や背中に大きな負担がかかります。

  • 腰痛(筋・筋膜性腰痛、腰椎捻挫、椎間板ヘルニア、腰椎分離症・すべり症など)
    • 症状: 腰の重だるさ、張り、特定の動作での痛み。ひどい場合は、足への放散痛やしびれを伴うこともある。
    • 原因: ハンマー投げの高速での旋回動作や砲丸投げ・やり投げの強いひねりや突き上げ動作が、腰椎に繰り返し過度な負担をかけるため(オーバーユース)。体幹の筋力不足、柔軟性の低下、不適切な投てきフォームも影響します。
    • 対処: 急性期は安静アイシング。痛みが落ち着いたら温熱ケアストレッチ、そして体幹の強化(腹筋、背筋、殿筋など)が特に重要です。痛みが続く場合や神経症状を伴う場合は整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。
  • 胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)
    • 症状: 首から肩、腕にかけての痛み、しびれ、だるさ。腕を上げると症状が悪化する。
    • 原因: 投てき動作における首・肩周りの筋肉の緊張や姿勢不良により、神経や血管が圧迫される。
    • 対処: ストレッチ、姿勢改善、筋力強化。医療機関での治療。

 

下半身の怪我(特に支持脚)

投てき動作の安定性とパワー伝達のために、下半身にも大きな負荷がかかります。

  • 膝関節の怪我(靭帯損傷、半月板損傷、膝蓋腱炎など)
    • 症状: 膝の痛み、腫れ、不安定感、引っかかり感。
    • 原因: 投てき動作中の膝の屈伸、回旋、着地時の衝撃など。特にハンマー投げの旋回中の膝のねじれや、砲丸投げ・やり投げの突き出し時の踏み込みなどが負担をかけます。
    • 対処: 整形外科を受診し、損傷の程度を診断してもらいましょう。重度の場合は手術が検討されます。膝蓋腱炎は安静とリハビリが中心です。
  • 足関節捻挫(そくかんせつねんざ)
    • 症状: 足首の痛み、腫れ、内出血。
    • 原因: 旋回中の足首のひねり、着地時の不意なひねり。特に足首の動きを制限するシューズを履いている場合は、捻挫の程度が大きくなることもある。
    • 対処: RICE処置が基本です。医療機関を受診し、靭帯の損傷度合いを確認することが重要です。
  • アキレス腱炎
    • 症状: アキレス腱周辺の痛み、腫れ、運動時の違和感。
    • 原因: 投てき動作の蹴り出しや、踏み込みによるアキレス腱への繰り返し負荷。
    • 対処: 安静とアイシング。痛みが引かない場合は医療機関を受診。

 

その他

  • 突き指・指の骨折
    • 症状: 指の痛み、腫れ、変形。
    • 原因: 砲丸を保持する際や、リリース時に指に強い衝撃やひねりが加わる。
    • 対処: 軽度であればアイシングとテーピング。腫れが引かない、変形している場合は整形外科を受診
  • 顔面・頭部の打撲/裂傷
    • 症状: 顔面や頭部の痛み、腫れ、出血。
    • 原因: 不慮の事故で用具が体に当たる、転倒時に頭部を打ち付けるなど。
    • 対処: 応急処置後、医療機関を受診。

 

怪我の予防のために

投てき競技における怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。

  • 十分なウォーミングアップとクールダウン:
    • 練習前には全身をしっかり温め、特に肩、肘、手首、腰、股関節、膝、足首など、投てき動作に関わる全ての関節と筋肉を動かす動的ストレッチを重点的に行いましょう。
    • 練習後には使った筋肉の静的ストレッチを行い、クールダウンすることで疲労回復を促し、柔軟性を維持できます。
  • 正しい投てきフォームの習得(最も重要):
    • 専門の指導者から、効率的で体への負担が少ない投てきフォームを学ぶことが最も重要です。特に、体幹を使った全身運動を意識し、特定の部位に負担が集中しないようにすることが怪我の予防に繋がります。
    • 左右のバランスを意識したフォーム作りも大切です。
  • 筋力トレーニングと柔軟性の向上:
    • 投てきに必要な全身の筋力(特に体幹、肩、背中、下半身)をバランスよく鍛えましょう。重い用具を扱うため、基礎的な筋力は必須です。
    • 競技特性上、回旋筋群の強化と柔軟性が特に重要です。
    • 定期的なストレッチやモビリティエクササイズで関節の可動域を確保し、筋肉の柔軟性を高めましょう。特に肩、股関節、胸椎の可動域は重要です。
  • 適切なトレーニング計画と練習量:
    • 急激な練習量や負荷の増加は避け、段階的に負荷を上げていきましょう。オーバーユースが怪我の主な原因となるため、適切な休息日を設けることが重要です。
    • 疲労が蓄積している場合は、無理せず練習内容を調整するか、休養を取りましょう。
  • 適切な用具の選択と管理:
    • 自身の体格や筋力レベルに合った重さの用具(ハンマー、砲丸)を使用しましょう。
    • シューズは、投てきサークル内での滑りやすさやグリップが適切なものを選びましょう。
  • 栄養と休息:
    • バランスの取れた食事で、筋肉や骨の回復に必要な栄養をしっかり摂りましょう。特にタンパク質、炭水化物、ビタミン、ミネラルは重要です。
    • 十分な睡眠を確保し、疲労回復と体の修復を促しましょう。
  • 症状の早期発見と対処:
    • 痛みや違和感がある場合は無理せず練習を中断し、必要であれば整形外科などの医療機関を速やかに受診しましょう。「少しの痛みだから」と我慢して続けることは、軽度な症状を重症化させる最大の要因です。