形成外科は、体の表面に現れる様々な「形」や「機能」の異常を、外科的な手術によって修正・再建し、より自然な状態に戻すことを目指す診療科です。
生まれつきの異常(先天性疾患)、ケガや病気による変形、腫瘍の切除後など、体の表面に生じた問題を扱います。
単に見た目を改善するだけでなく、その部位の機能回復も重視されるのが大きな特徴です。
形成外科医は、大学の医学部を卒業後、医師免許を取得し、その後も長年にわたり、体の表面の複雑な解剖学や、微細な手術手技、そして美しい形態を再建するための美的センスを磨き続ける、高度な専門性を持つ医師たちです。
彼らは、患者さんの身体的な問題だけでなく、見た目に関する悩みにも寄り添い、生活の質(QOL)向上に貢献します。
形成外科とは何か?
形成外科が扱う主な疾患と症状
形成外科の守備範囲は非常に広く、以下のような症状や疾患に対応します。
- 先天異常(生まれつきの異常):
- 口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ): いわゆる「みつぐち」で、唇や上あごに隙間がある状態。
- 多指症・合指症(たししょう・ごうししょう):指の数が多かったり、指がくっついていたりする状態。
- 耳の形の異常(埋没耳、小耳症など)。
- 血管腫・リンパ管腫などのあざ。
- 外傷(ケガ):
- 顔面外傷: 顔の骨折(鼻骨骨折、頬骨骨折など)、まぶたの損傷、顔の深い傷跡。
- 瘢痕(はんこん、傷跡)の修正: 手術後の目立つ傷跡、やけどによるひきつれ(瘢痕拘縮)。
- 組織欠損の再建: ケガで失われた皮膚や筋肉などを、体の別の場所から移植して補う。
- 腫瘍(できもの):
- 皮膚腫瘍: ほくろ、粉瘤(アテローマ)、脂肪腫、皮膚がんなど、皮膚にできる良性・悪性のできものの切除と、その後の傷跡のケア。
- 乳房再建: 乳がんなどで切除された乳房を、人工物や自家組織(自分の体の一部)を使って再建。
- 炎症性疾患・潰瘍:
- 床ずれ(褥瘡、じょくそう):長期間の圧迫により皮膚が壊死する状態。
- 難治性潰瘍: なかなか治らない皮膚のただれ。
- ケロイド・肥厚性瘢痕:傷跡が盛り上がって赤くなる状態。
- 美容医療:
- 二重まぶたの手術、鼻の形成、たるみ取り、しわ取りなど、機能改善が伴わない純粋な美容目的の治療も行います。 ただし、これらは健康保険の適用外となるのが一般的です。
形成外科で行われる診断と治療
形成外科では、患者さんの状態を詳細に診察し、個々の症例に合わせた最適な治療法を選択します。
- 詳細な診断:
- 視診、触診: 患部の状態や周辺組織の状況を細かく観察・触診します。
- 画像診断: 必要に応じてレントゲン、CT、MRIなどを用いて、骨格や深部の状態を確認します。
- 組織検査(生検):皮膚腫瘍などの場合は、一部を採取して病理検査を行い、確定診断をつけます。
- 多様な治療アプローチ:
- 外科手術: 形成外科の治療の中心は手術です。傷跡を目立たなくする縫合法、皮膚移植、皮弁(ひべん)移植(皮膚と血管、脂肪などをまとめて移植する方法)、組織拡張器を用いた再建術など、様々な手技を駆使します。
- レーザー治療:あざやシミ、一部の傷跡の治療に用いられます。
- 保存的治療:装具の使用、圧迫療法など、手術以外の方法も選択されることがあります。
整形外科や他の診療科との違い
形成外科は、しばしば整形外科や美容外科と混同されがちですが、それぞれに専門とする領域が異なります。
- 整形外科との違い:
- 整形外科は、骨、関節、筋肉などの運動器全般の「機能回復」を主に目指します。骨折の治療や関節の病気が得意分野です。
- 形成外科は、体表の「形」の異常や欠損を、見た目の改善と機能回復の両面から治療します。例えば、指の骨折は整形外科が担当しますが、指の先天的な奇形や、ケガによる皮膚欠損の再建は形成外科の領域です。
- 美容外科との違い:
- 美容外科は、病気やケガがない状態の人が、自身の外見をさらに美しくすることを目的とします。機能的な改善は必ずしも目的ではありません。
- 形成外科は、病気やケガによる「失われた形と機能の再建」が本来の目的です。ただし、形成外科医の中には、美容医療も専門とする医師も多くいます。
形成外科は、単に見た目を良くするだけでなく、患者さんの生活の質向上に大きく貢献する重要な診療科です。体の表面に気になる「形」や「機能」の異常がある場合は、形成外科への受診を検討してみましょう。