接骨院、あるいはそこで施術を行う柔道整復師の歴史は非常に長く、その起源は日本の古武術や武道における治療法にまで遡ります。
現代のような「接骨院」という形になるまでには、数世紀にわたる発展と法整備の歴史があります。
接骨院はいつからある職業?その歴史
1.柔道整復術の起源と発展
柔道整復術のルーツは、古くから日本の武術家たちが行ってきた「活法(かっぽう)」と呼ばれる応急手当や治療法にあります。
- 武術の中の治療法(活法): 戦国時代から江戸時代にかけて、武術家たちは戦場で負った骨折や脱臼、打撲、捻挫などの外傷を、自分たちで手当てする必要がありました。この過程で、骨や関節の仕組み、筋肉の働きに関する知識と、それらを元に戻す「整復(せいふく)」や「固定(こてい)」の技術が培われました。これが「活法」であり、柔術の流派ごとに秘伝として伝えられていました。
- 「ほねつぎ」の誕生: 江戸時代に入ると、これらの活法が武術家だけでなく、一般の人々の間で「ほねつぎ」や「接骨」として広まり始めました。専門の施術家が生まれ、人々の怪我の治療に貢献するようになります。この頃には、単なる応急処置だけでなく、解剖学的な知識に基づいた施術も行われるようになっていました。
- 明治維新以降の変遷: 明治維新後、西洋医学が導入される中で、日本の伝統医療は一時的に衰退の危機に瀕しました。しかし、柔道整復術は、その実用性から存続が認められ、徐々に法的な位置づけが議論されるようになります。
2.柔道整復師の国家資格化と現代へのつながり
現代の接骨院の基礎が築かれたのは、大正時代以降の法整備によるものです。
- 「柔道整復術」の法制化: 1920年(大正9年)に「柔道整復術」が法制化され、柔道整復師が公的に認められる職業となりました。これにより、施術者の教育基準が設けられ、資格を持つ者のみが施術を行うことができるようになりました。
- 「柔道整復師法」の制定: 戦後、1970年(昭和45年)には「柔道整復師法」が制定され、柔道整復師は厚生労働大臣免許の国家資格となり、医療従事者としての明確な位置づけが確立されました。
- 現代の接骨院・整骨院: この法律により、柔道整復師が施術を行う場所が「施術所」と定められ、現在「接骨院」や「整骨院」として広く知られるようになりました。
3.医師との違いと連携
柔道整復師は国家資格者ですが、医師とは異なる専門分野と法的権限を持っています。
- 医師との明確な違い:
- 医師は、大学の医学部で6年間、その後も数十年にもわたり専門知識と経験を積み重ねる、医学全般の専門家です。病気の診断(血液検査、画像診断などを含む)から治療、薬の処方、手術といったあらゆる医療行為を行う権限を持ちます。整形外科医は運動器の病気やケガ全般を専門とし、必要に応じて手術も行います。
- 柔道整復師は、主に骨折、脱臼、打撲、捻挫、挫傷といった急性外傷の応急処置や施術を行います。徒手による整復や固定、手技療法などが中心で、投薬や手術、レントゲン撮影や診断は行いません。
- 医療連携の重要性:
- 柔道整復師は、骨折や脱臼の場合、応急処置を除き、医師の同意がなければ施術ができません。 これは、より高度な診断や治療が必要な場合に、患者さんを適切に医師へつなぐための連携体制が重要であることを示しています。
- 現代の医療においては、それぞれの専門職が連携し、患者さんにとって最適な医療を提供することが重視されています。
このように、接骨院や柔道整復師の歴史は、日本の伝統的な治療技術に深く根ざし、現代の医療制度の中で特定の役割を担う専門職として発展してきました。その歴史は、数百年にも及ぶ「長きにわたるもの」と言えます。