子どもの骨や関節は、大人と比較して構造的、生理学的に大きな違いがあり、それが怪我に対する脆弱性につながっています。
「子どもは骨が柔らかいから折れにくい」と誤解されがちですが、実際にはその柔らかさゆえに、大人とは異なる種類の怪我をしやすく、時に深刻な影響を残すことがあります。
子どもの骨・関節は大人より柔らかく痛めやすい
1.子どもの骨の特徴:成長途上ゆえの脆弱性
子どもの骨は、まだ成長段階にあるため、大人の骨とは組成や構造が大きく異なります。
- 成長軟骨(骨端線)の存在:
- 子どもの骨には、骨が縦方向に伸びるための「骨端線(成長軟骨板)」という軟骨部分があります。これは大人の骨には存在せず、骨が成長するにつれて徐々に硬い骨に置き換わっていく部分です。
- この骨端線は、周囲の骨に比べて強度が弱く、外力に対して脆弱です。そのため、大人であれば骨折しない程度の衝撃でも、子どもでは骨端線損傷(骨端線骨折)を起こしやすいのです。
- 骨端線損傷は、放置すると骨の成長を阻害し、腕や脚の長さの違い、関節の変形といった後遺症につながる可能性があり、特に注意が必要です。
- 骨膜が厚く、強度が高い:
- 子どもの骨は、骨の表面を覆う骨膜が大人よりも厚く、丈夫です。これにより、骨折しても骨膜が完全に破れず、骨が一部つながったままになる「若木骨折(不全骨折)」が起こりやすい傾向があります。これは一見すると重症ではないように見えますが、適切な処置が必要です。
- 骨の柔軟性(弾力性):
- 子どもの骨は、大人に比べてコラーゲンが多く、弾力性(柔軟性)が高いため、しなりやすい特徴があります。完全に折れずに曲がることもありますが、これはやはり損傷であり、正しい治療を要します。
2.子どもの関節・靭帯の特徴:不安定さと未発達
関節を安定させる靭帯や、関節の柔軟性も、子どもと大人では異なります。
- 靭帯の相対的強度:
- 子どもの骨端線や骨自体の強度に比べ、靭帯は比較的丈夫です。そのため、大人であれば靭帯損傷(捻挫)で済むような外力でも、子どもでは靭帯よりも強度の弱い骨端線や骨に負荷がかかり、骨折(骨端線損傷を含む)が起こりやすい傾向があります。
- 例えば、肘の脱臼である「肘内障(ちゅうないしょう)」は、靭帯が未発達で外れやすい子どもの特徴的な怪我です。
- 関節の過剰な可動域:
- 一部の子どもは、生まれつき関節の可動域が広い「関節弛緩性(かんせつしかんせい)」を持つ場合があります。これは柔軟性に優れているとも言えますが、同時に関節が不安定になりやすく、捻挫や脱臼のリスクが高まる要因にもなります。
- 成長に伴う変化:
- 関節や靭帯、筋肉なども、骨と同様に成長とともに発達していきます。成長期の体の変化に対応できず、特定の部位に過剰な負担がかかることで、痛みや怪我につながることがあります。
3.子どもの怪我に潜む危険性
これらの特徴から、子どもの怪我には以下のような注意点があります。
- 症状が分かりにくい:
- 子どもは痛みを正確に伝えられないことが多く、「痛い」と言葉にできても、その痛みの強さや種類を表現するのが苦手です。また、遊びに夢中になって痛みを忘れてしまうこともあります。
- 骨折していても、不完全な骨折であれば「少し痛いだけ」と訴え、親も「ただの打ち身だろう」と見過ごしてしまうケースがあります。
- 後遺症のリスク:
- 特に骨端線損傷は、適切に治療しないと骨の成長に影響を及ぼし、腕や脚の長さが左右で異なったり、関節が曲がって成長したりするなど、深刻な後遺症につながる可能性があります。
- 大人の怪我との違い:
- 同じ衝撃を受けても、大人と子どもでは損傷する部位や程度が異なります。大人の診断基準や経験則だけで子どもの怪我を判断することは危険です。
4.保護者がすべきこと
子どもの怪我の際には、以下の点を心がけましょう。
- 注意深い観察:
- 子どもが痛みを訴えたら、決して軽視せず、真剣に受け止める。
- 痛がる部位だけでなく、普段の遊び方や動作、食欲、睡眠、機嫌などに変化がないか、全身を注意深く観察する。
- 腫れ、アザ、熱感、変形がないか、患部を視診・触診するが、無理に動かしたりしない。
- 早期の医療機関受診:
- 少しでも不安な点がある場合、痛みが続く、腫れがひどい、動かせない、頭を打ったなど重篤な症状の場合は、迷わず整形外科(小児整形外科)を受診しましょう。
- 「普段我慢強い子である」「痛みを訴えるのは珍しい」など、子どもの普段の様子を具体的に医師に伝えることが、より正確な診断につながります。
- 自己判断を避ける:
- 「いつものことだろう」「少し休めば治るだろう」という安易な自己判断は避け、専門医の診断を仰ぐことが、子どもの健康と将来を守る上で非常に重要です。
子どもの骨や関節の特性を理解し、怪我のサインを見逃さないことが重要です。