足首の捻挫は、スポーツ活動中や日常生活で最も頻繁に発生する外傷の一つです。
足首を強くひねることで、関節を支える靭帯や関節包などの軟部組織が損傷する状態を指します。
軽視されがちですが、適切な処置と施術を行わないと、痛みが慢性化したり、足首が不安定になったり(習慣性捻挫)する可能性が高まります。
足首の捻挫について
どんな怪我なのか?
足首の捻挫は、足関節がその生理的な可動範囲を超えて不自然にひねられた際に、関節を構成する靭帯や関節包、ときに腱などが損傷する状態です。
- 足関節の構造: 足関節は主に脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)という下腿の2本の骨と、足首の主要な骨である距骨(きょこつ)で構成されています。これらの骨は強固な靭帯によって連結され、足首の安定性を保っています。
解剖学的に詳しい負傷箇所一覧
足首の捻挫は、そのひねり方によって損傷する靭帯が異なります。
- 内反捻挫(足首を内側にひねる): 足首の捻挫の約80〜90%を占める最も一般的なタイプです。足裏が内側を向き、足首の外側が強く引き伸ばされることで起こります。
- 外側靭帯群の損傷:
- 前距腓靭帯(ぜんきょひじんたい): 距骨と腓骨の前側をつなぐ靭帯で、最も損傷しやすい靭帯です。
- 踵腓靭帯(しょうひじんたい): 踵骨と腓骨をつなぐ靭帯。前距腓靭帯損傷に続いて損傷することがあります。
- 後距腓靭帯(こうきょひじんたい): 距骨と腓骨の後側をつなぐ靭帯。非常に強力で、重度の捻挫で損傷します。
- その他の損傷: 腓骨の先端(外果)の剥離骨折、軟骨損傷、腓骨筋腱(足首の外側を通る腱)の損傷なども併発することがあります。
- 外側靭帯群の損傷:
- 外反捻挫(足首を外側にひねる): 足裏が外側を向き、足首の内側が強く引き伸ばされることで起こります。内反捻挫に比べて発生頻度は低いですが、損傷すると重症化しやすい傾向があります。
- 内側靭帯(三角靭帯:さんかくじんたい)の損傷: 足首の内側にある強固な靭帯で、内反捻挫よりも少ない力で損傷することがあります。
- その他の損傷: 脛骨の先端(内果)の剥離骨折、軟骨損傷、腓骨の骨折(特に高位腓骨骨折)、脛骨と腓骨をつなぐ靭帯(脛腓結合)の損傷なども併発することがあります。
- 高位足関節捻挫(高位捻挫): 通常の足首の捻挫よりも上部、脛骨と腓骨が連結している部分(脛腓結合)の靭帯が損傷する捻挫です。スポーツ活動中など、強い回旋力を伴う外力で発生します。通常の捻挫よりも痛みが強く、治癒に時間がかかる傾向があります。
どんな症状なのか?
足首の捻挫の症状は、損傷の程度(靭帯の伸び、部分断裂、完全断裂など)によって異なります。
- 痛み:
- 怪我をした直後から、損傷部位に強い痛みが生じます。
- 体重をかけたり、足首を動かしたりすると痛みが強まります。
- 腫れ(はれ):
- 損傷部位の周囲が腫れて膨らみ、熱を帯びることがあります。特に外反捻挫では、内くるぶしの下が大きく腫れることがあります。
- 内出血:
- 血管が損傷すると、皮下に出血して青紫色に変色します。腫れが引いた後に、広範囲に変色が見られることもあります。
- 可動域制限:
- 痛みや腫れのため、足首の関節を十分に動かせなくなります。特に、損傷した靭帯が伸ばされる方向への動きが制限されます。
- 歩行困難:
- 痛みが強いため、体重をかけることができず、歩行が困難になったり、足を引きずるような歩き方になったりすることがあります。
- 重度の捻挫では、全く体重をかけられないこともあります。
- 不安定感:
- 靭帯が大きく損傷(断裂)した場合、足首の関節がグラグラするような不安定感を感じることがあります。これは、関節の安定性が失われたサインです。
内くるぶし側に痛みがある捻挫のほうが要注意
内くるぶし側に痛みが発生する「外反捻挫」のほうがが重症化しやすいと言われています。
理由は、足首の構造と、損傷する靭帯の特性にあります。
- 内くるぶし側の靭帯(三角靭帯)が非常に強固だから: 足首の内くるぶし側には「三角靭帯」と呼ばれる、扇状に広がる非常に強固な靭帯群があります。この靭帯は、内くるぶし(脛骨の内果)から足根骨(距骨、舟状骨、踵骨)にかけてしっかりと付着しており、足首の内側への過度な動き(外反)を強力に制限しています。
- この強固な靭帯が損傷するほどの力が加わった場合は、かなりの衝撃があったことを意味します。つまり、靭帯が単に伸びるだけでなく、部分断裂や完全断裂に至る可能性が高いため、重症化しやすいのです。
- 骨折を併発しやすい: 三角靭帯が非常に強固であるため、強い外反力が加わった際に、靭帯自体が切れるよりも先に、靭帯の付着部である内くるぶし(脛骨の内果)の骨が剥がれてしまう「剥離骨折」を伴うことがあります。 また、足首の関節を構成する脛骨と腓骨の間にある「脛腓結合(けいひけつごう)」と呼ばれる靭帯も損傷しやすく、これらをまとめて「足関節外果骨折」や「脛骨内果骨折」といった骨折を伴うことがあります。これらは通常の捻挫よりも治療が複雑で、治癒に時間がかかります。
- 荷重関節への影響が大きい: 足首は体重を支える重要な関節です。外反捻挫で内側の安定性が損なわれると、歩行や体重をかける動作に大きな支障をきたしやすくなります。
- 足首の可動域の特性: 足首は、構造上、外側(内反方向)よりも内側(外反方向)への動きが制限されています。そのため、外反方向へ無理な力が加わると、靭帯や骨に大きな負担がかかりやすいのです。
どんな点に気をつけるべきなのか?
足首の捻挫は軽視されがちですが、適切に対処しないと様々な問題を引き起こす可能性があります。
- 骨折の可能性を疑う:
- 足首の捻挫だと思っていても、実は骨折(特に剥離骨折)を併発していることが珍しくありません。足の甲の骨(中足骨)や、足首のくるぶし部分(腓骨や脛骨の先端)の骨折は、捻挫と症状が似ているため、自己判断は危険です。
- 子供の場合、骨の成長部分である骨端線が損傷(骨折)している可能性も高く、見逃すと成長に影響が出るため、特に注意が必要です。
- 痛みの慢性化と習慣性捻挫:
- 靭帯の修復が不十分なまま運動を再開したり、適切な施術を行わなかったりすると、足首の不安定性が残り、何度も捻挫を繰り返す「習慣性捻挫」になるリスクが高まります。
- 痛みが長期化し、慢性的な足首の痛みやだるさに悩まされることもあります。
- 軟骨損傷の併発:
- 足首の捻挫の際に、関節内の軟骨が損傷することもあります。これは画像診断(MRIなど)でしか確認できないことが多く、放置すると変形性足関節症につながる可能性があります。
- 自己判断での処置の限界:
- 「捻挫くらいで病院に行くのは…」と自己判断し、適切な医療機関を受診しないと、上記の重症な損傷を見逃す可能性があります。特に、「歩けない」「異常な腫れ」「強い痛み」「変形」がある場合は、必ず受診が必要です。
応急処置:RICE処置を正しく行う
足首を捻挫した際の基本的な応急処置は、スポーツ外傷の基本である「RICE(ライス)処置」です。怪我をした直後から可能な限り早く行うことで、炎症や腫れを最小限に抑え、回復を早めることができます。
- Rest(安静):
- 患部を動かさず、安静を保ちます。足首に体重をかけないようにすることが最も重要です。可能な限り、患部に負担がかかる動きを避け、松葉杖などの使用も検討しましょう。
- Icing(冷却):
- ビニール袋に氷と少量の水を入れ、それをタオルなどでくるんで患部に当てて冷やします。直接氷を当てると凍傷になる可能性があるため注意が必要です。
- 15~20分程度冷やし、一度外して休憩し、腫れや痛みが続く場合は繰り返します。炎症と腫れを抑え、痛みを軽減する効果があります。
- Compression(圧迫):
- 弾性包帯やテーピングを用いて、患部を軽く圧迫します。これは、内出血や腫れが広がるのを防ぐ目的で行います。
- きつく締めすぎると血流障害を起こす可能性があるため、しびれや冷感がないか注意し、適度な強さで圧迫してください。足首全体を包み込むように巻くのが効果的です。
- Elevation(挙上):
- 患部を心臓より高い位置に上げます。座っているときや寝ているときに、足の下にクッションや枕などを置いて高くします。
- 重力によって血液が患部に集まるのを防ぎ、腫れを軽減する効果があります。
RICE処置はあくまで応急的な処置です。症状が出ている場合は、ご相談ください。