交通事故による「腰の怪我・痛み、腰痛」

交通事故について
交通事故では、腰部は非常に大きな衝撃を受けやすく、多岐にわたる怪我や痛みを負う可能性があります。
特に、追突事故では、体が前方に投げ出され、シートベルトで上半身が固定された状態で、腰部から頭部にかけて「むち打ち」のような強い衝撃を受けることが多く、腰椎(腰の骨)やその周囲の軟部組織に大きな負担がかかります。
また、側面衝突や前方衝突でも、直接的な衝撃やねじれの力が加わり、深刻な怪我につながることがあります。
腰の怪我は、歩行、立つ、座る、寝返りを打つといった日常生活の基本的な動作に深刻な影響を及ぼし、長期的な痛みに繋がることも多いため、早期の正確な診断と適切な治療が不可欠です。

交通事故による「腰の怪我・痛み」

交通事故における腰の怪我の種類

腰は、腰椎(5つの大きな骨)、椎間板(骨と骨の間でクッションの役割を果たす)、靭帯、筋肉、そして神経が複雑に絡み合った非常にデリケートな構造をしています。交通事故の衝撃は、これらのいずれにも損傷を与える可能性があります。

 

1. むち打ち症(頸部捻挫・腰部捻挫)

交通事故による腰の痛みで最も多いのが、いわゆる「むち打ち症」の一部として発生する腰部捻挫です。特に追突事故で、体が「くの字」にしなるような形で強いG(重力加速度)がかかり、腰部の関節や筋肉、靭帯が過度に引き伸ばされたり、損傷したりすることで発生します。

  • 症状:
    • 腰部全体の痛み、こわばり: 特に事故直後から数日後に現れることが多いです。
    • 腰を反らす、ひねるなどの動作で痛みが悪化
    • 座っている時間の延長で痛みが増す
    • 臀部(お尻)や下肢への放散痛(関連痛)を感じることもあります。
  • 特徴: レントゲンでは骨に異常が見られないことが多く、軟部組織(筋肉や靭帯など)の損傷が原因です。事故直後には症状が出にくく、数日後に痛みやこわばりとして現れることが多いため、「大丈夫」と自己判断せずに早めに医療機関を受診することが重要です。

 

2. 椎間板ヘルニアの誘発・悪化

椎間板は、腰椎の骨と骨の間にあるクッションの役割を果たす軟骨組織です。交通事故の強い衝撃により、椎間板に異常な圧力がかかり、内部の髄核が飛び出して神経を圧迫する椎間板ヘルニアを発症したり、元々あったヘルニアが悪化したりすることがあります。

  • 症状:
    • 激しい腰痛: 特定の動作で痛みが強まります。
    • 坐骨神経痛: ヘルニアが神経を圧迫することで、お尻から太ももの裏、ふくらはぎ、足にかけてのしびれ、痛み、感覚の麻痺(電気が走るような痛み、ジンジン感)が現れます。
    • 筋力低下: 重症の場合、足に力が入らなくなったり、足首や足指が動かしにくくなったりすることがあります。
    • 排泄障害: 最も重篤な場合、排泄機能に異常をきたすことがあります(馬尾症候群)。
  • 特徴: 事故との因果関係を明確にするために、事故前の椎間板の状態も重要になることがあります。MRI検査で椎間板の状態や神経の圧迫の有無を確認します。

 

3. 脊椎(椎体・椎弓)骨折

腰椎の骨(椎体や椎弓)が、交通事故による直接的な強い衝撃や、脊椎に強い圧迫力、屈曲力が加わることで骨折することがあります。特に、シートベルトを着用した状態での前方衝突や、体が投げ出されるような衝撃で発生することがあります。

  • 症状:
    • 激しい腰痛: 骨折部に耐え難いほどの痛みが持続し、少しでも動かすと激痛が走ります。
    • 体幹の変形: 重度の骨折では、背中が丸まるなどの変形が見られることがあります。
    • 神経症状: 骨折した骨が脊髄や神経を圧迫すると、下肢のしびれ、麻痺、感覚障害、排泄障害などが現れることがあります。
  • 特徴: 神経損傷を伴う場合は、緊急手術が必要となることもあります。治癒後も、脊椎の変形や慢性的な痛みが残る可能性があります。

 

4. 仙腸関節(せんちょうかんせつ)捻挫・損傷

仙腸関節は、骨盤を構成する仙骨と腸骨をつなぐ関節で、腰の安定性に重要な役割を果たしています。交通事故で、骨盤に強い衝撃が加わったり、体が不自然にねじれたりすることで、この関節が捻挫したり、靭帯が損傷したりすることがあります。

  • 症状:
    • お尻や腰の下の方の痛み: 特に片側のお尻や腰の下部に痛みを感じることが多いです。
    • 座っている、立ち上がる、寝返りを打つなどの動作で痛みが悪化
    • 股関節や太ももへの放散痛
  • 特徴: 診断が難しく、他の腰痛と区別されにくいことがあります。レントゲンでは異常が見られないことが多く、仙腸関節ブロック注射などが診断に用いられることもあります。

 

5. 筋肉の挫傷・血腫

腰部の筋肉(脊柱起立筋など)に、直接的な打撲や急激な負荷が加わることで起こる怪我です。

  • 症状: 患部の痛み、腫れ、内出血(あざ)が見られます。押すと強い痛みがあります。
  • 特徴: 骨折がない場合でも、内出血や腫れがひどいと体を動かすのが困難になることがあります。

 

交通事故による腰の痛みの特徴と注意点

交通事故による腰の怪我や痛みは、その特性上、特に注意すべき点がいくつかあります。

  • 初期症状の見落とし: 事故直後は興奮状態にあるため、痛みに気づきにくいことがあります。しかし、翌日以降に腰痛やしびれが悪化するケースが非常に多いため、「何でもない」と自己判断せずに、必ず医療機関を受診することが重要です。
  • 慢性化のリスク: 腰部の怪我は、適切に診断・治療されないと、慢性的な腰痛、可動域制限、神経症状(しびれ、麻痺)などの後遺症が残りやすい部位です。特に、椎間板ヘルニアや脊椎の不安定性が生じた場合、日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。
  • 多様な痛みの原因: 腰痛は、骨、椎間板、靭帯、筋肉、神経など、様々な組織の損傷が原因となるため、正確な診断のためには、身体診察に加え、レントゲン、MRI、CTなどの画像検査が必要不可欠です。神経症状がある場合は、神経伝導速度検査などを行うこともあります。
  • 法的・補償問題: 交通事故による腰の怪我は、治療費、休業補償、後遺障害の認定など、保険会社とのやり取りが必要になります。事故との因果関係を明確にし、今後の補償問題に適切に対応するためにも、早期の受診と詳細な診断書の作成が極めて重要です。特に、MRI画像は椎間板や神経の状態を客観的に示す重要な証拠となるため、積極的に検査を受けることを検討しましょう。

交通事故に遭われた場合、たとえ軽微な痛みや違和感であっても、腰に何か異常を感じる場合は決して軽視せず、必ず医療機関を受診してください。特に、時間経過とともに痛みが強くなる、しびれや麻痺がある、排泄障害があるといった場合は、緊急性の高い状態である可能性もありますので、すぐに受診し、専門医の診断と治療を受けるようにしましょう。早期の専門的な対応が、適切な回復と将来的な健康維持のために最も重要です。