剣道で発生しやすい怪我・痛み

スポーツによる怪我・痛み
剣道は竹刀や防具を用いる武道ですが、激しい動きや相手との接触、反復動作によって様々な外傷や怪我が発生します。特に足部、腰部、手首、肩、肘に多くの怪我が見られます。

また、頭部への打突による脳震盪などの重篤な怪我も起こりうるため、十分な注意が必要です。

ここでは、剣道で発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。

※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。

剣道で発生しやすい外傷・怪我

1. 足部・下腿の怪我(最も多い)

剣道特有の「踏み込み」や「すり足」といった足さばきが、足や下腿に大きな負担をかけます。特に右足(踏み込み足)への負担が大きいです。

  • 踵の痛み(踵骨挫傷、シーバー病など)
    • 症状: 右足のかかとや足の裏の痛み。特に踏み込み時に強い痛みが生じます。
    • 原因: 剣道の「踏み込み」動作は、体重の10倍もの衝撃が右足のかかとに加わると言われています。この繰り返しの衝撃によって、かかとの骨(踵骨)やその周辺組織が損傷したり、炎症を起こしたりします。発育期の子供には「シーバー病」(踵骨骨端症)が多く見られます。
    • 対処: 安静が基本です。アイシング、インソールやサポーターによる衝撃吸収、正しい踏み込みフォームの見直しが重要です。痛みが続く場合は整形外科を受診しましょう。
  • 足底筋膜炎(そくていきんまくえん)
    • 症状: 足の裏(特にかかとや土踏まず)の痛み。朝起きて最初の一歩や、運動開始時に痛みが強い。
    • 原因: 踏み込みや足さばきの繰り返しによる足裏の筋膜への過度な負担(オーバーユース)。
    • 対処: 安静、アイシング、ストレッチ(特にふくらはぎや足裏)、インソールの使用。痛みが続く場合は医療機関を受診。
  • 足の皮むけ・水ぶくれ・マメ・剣道だこ
    • 症状: 足の裏や指の皮がめくれる、水ぶくれができる、硬いタコができる。痛みや出血を伴う。
    • 原因: 剣道特有の足さばきによる摩擦や圧力。
    • 対処: 清潔に保ち、絆創膏などで保護。水ぶくれは潰さずに保護。練習を重ねるうちに皮が厚くなり、できにくくなることもあります。
    • 予防: 稽古後のお手入れ、清潔な靴下を着用、必要に応じてテーピングで保護。
  • アキレス腱炎 / アキレス腱断裂
    • 症状: アキレス腱周辺の痛み、腫れ、運動時の違和感。断裂の場合は「後ろから蹴られたような」突然の強い衝撃と激痛、立つ・歩くことが困難。
    • 原因: 左足の「蹴り足」や、急激な踏み込み、方向転換の繰り返しによるアキレス腱への過度な負担(オーバーユース)や、瞬間的な強い負荷。特に左足に生じることが多いです。
    • 対処: 炎症であれば安静とアイシング。断裂の場合は緊急性の高い怪我であり、速やかに整形外科を受診する必要があります。多くの場合、手術が必要です。
  • 肉離れ(特にふくらはぎ、ハムストリングス)
    • 症状: 運動中に「ブチッ」「ピキッ」という感覚と共に、太ももの裏やふくらはぎに突然の激痛。内出血や腫れを伴うこともあります。
    • 原因: ウォーミングアップ不足、筋肉の疲労、柔軟性の低下、急なダッシュやストップ動作、不適切な足さばき。
    • 対処: RICE処置を速やかに行い、医療機関を受診しましょう。適切なリハビリテーションを行い、再発予防に努めることが重要です。
  • 足関節捻挫
    • 症状: 足首の痛み、腫れ、内出血。ひどい場合は体重をかけられない。
    • 原因: 足さばき時の不意なひねり、不整地でのバランス喪失、相手との接触など。
    • 対処: RICE処置が基本です。医療機関を受診し、靭帯の損傷度合いを確認することが重要です。

 

2. 腰の怪我

構えや打突動作、体当たり、切り返しなどで腰に負担がかかります。

  • 腰痛(筋・筋膜性腰痛、腰椎捻挫、椎間板ヘルニア、腰椎分離症・すべり症など)
    • 症状: 腰の重だるさ、張り、特定の動作での痛み。ひどい場合は、足への放散痛やしびれを伴うこともあります。
    • 原因: 剣道の構え(腰椎の前弯)や、打突時の無理な姿勢、体当たり時の衝撃、切り返し動作など、腰に繰り返し負担がかかること。体幹の筋力不足や柔軟性の低下も影響します。特に左右非対称の動作が腰に負担をかけやすいです。
    • 対処: 急性期は安静アイシング。痛みが落ち着いたら温熱ケアストレッチ、そして体幹の強化(腹筋、背筋、殿筋など)が特に重要です。痛みが続く場合や神経症状を伴う場合は整形外科を受診しましょう。

 

3. 手首・指の怪我

竹刀を握る、打突する、受け止める際に手首や指に負担がかかります。

  • 腱鞘炎(けんしょうえん)
    • 症状: 手首や指の付け根の痛み、腫れ、動かすと痛む。
    • 原因: 竹刀を強く握り込む、打突時の衝撃や、絞り込む動作の繰り返しによる過度な負担(オーバーユース)。特に左手首への負担が大きいです。
    • 対処: 安静アイシング、サポーターやテーピングでの固定。痛みが引かない場合は医療機関を受診。
  • 手首の捻挫/打撲/骨折
    • 症状: 手首の痛み、腫れ、内出血。動かすと痛む。
    • 原因: 打突時に相手の竹刀や防具に当たる、受け止める際の衝撃、転倒時に手をつくなど。
    • 対処: RICE処置が基本です。痛みが続く場合は医療機関を受診しましょう。
  • 指の骨折・突き指
    • 症状: 指の痛み、腫れ、変形。曲げ伸ばしが困難。
    • 原因: 竹刀の握り、相手の竹刀が指に当たる、面や小手を打たれた際の衝撃。
    • 対処: 軽度であればアイシングとテーピングでの固定。腫れが引かない、変形している、曲げ伸ばしができない場合は、骨折や脱臼の可能性が高いため、整形外科を受診しましょう。

 

4. 肩・肘の怪我

打突動作や構えの維持で肩や肘に負担がかかります。

  • 肩関節周囲炎 / 腱板炎
    • 症状: 腕を上げたり、特定の方向に動かしたりすると痛む。特に打突動作の際に痛みが増します。
    • 原因: 打突動作の繰り返しによる肩関節への過負荷や、不適切なフォーム。構えを維持する際の肩周りの筋肉への負担。
    • 対処: 安静アイシング、炎症を抑える薬の使用、そして肩甲骨の安定化やインナーマッスルの強化、フォームの改善を中心としたリハビリテーションが重要です。
  • 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
    • 症状: 肘の外側に痛みが生じ、特に手首を手の甲側に反らせたり、物を掴んで持ち上げたりする際に痛みが強くなります。
    • 原因: 竹刀を振る、絞り込む動作の繰り返しで肘の外側への負担がかかる。
    • 対処: 安静、アイシング、ストレッチ、医療機関での治療。

 

5. 膝の怪我

踏み込みや前後左右の足さばき、体当たりなどで膝に負担がかかります。

  • 膝蓋腱炎(ジャンパー膝)
    • 症状: 膝のお皿のすぐ下(膝蓋腱部)の痛み。特に踏み込みや、屈伸動作で痛みが強くなる。
    • 原因: 踏み込みや足さばきの繰り返しによる膝蓋腱への過度な負担(オーバーユース)。
    • 対処: 安静が基本です。アイシング、ストレッチ、大腿四頭筋の強化、膝バンドの使用などが有効です。痛みが引かない場合は医療機関を受診しましょう。
  • 半月板損傷 / 靭帯損傷
    • 症状: 膝の痛み、引っかかり感、ロッキング現象(膝が曲がったまま伸びない)。不安定感。
    • 原因: 体当たりや不意な体勢での膝のねじれ、急な方向転換。
    • 対処: 整形外科を受診し、損傷の程度を診断してもらいます。保存療法で改善しない場合は手術が検討されます。

 

6. 頭部・顔面・首の怪我

面への打突や体当たり、転倒などで発生します。

  • 脳震盪(のうしんとう)
    • 症状: 一時的な意識喪失、意識混濁、めまい、吐き気、頭痛、記憶障害(受傷時の記憶がない)、集中力の低下など。
    • 原因: 面への強い打突、体当たりによる衝撃、転倒時に頭部を打ち付ける。特に後方への転倒による後頭部打撲は要注意です。
    • 対処: 直ちに稽古・試合を中止し、医療機関を受診することが必須です。症状が軽いと思われても、必ず医師の診断を受けましょう。繰り返しの脳震盪は、慢性的な脳障害につながる危険性があります。
  • 顔面打撲・裂傷、鼻骨骨折、外傷性鼓膜穿孔、眼球損傷
    • 症状: 顔面の痛み、腫れ、出血、変形。耳の痛み、難聴、耳鳴り。目の痛み、視力低下など。
    • 原因: 面への打突、竹刀の破片が当たる、相手の竹刀の鍔が当たる、突きによる衝撃など。
    • 対処: 直ちに医療機関(耳鼻咽喉科、眼科、整形外科など)を受診し、適切な治療を受けましょう。
  • 頸部痛(頸椎捻挫、頸髄損傷など)
    • 症状: 首の痛み、首が動かしにくい、肩や腕への放散痛、しびれ。
    • 原因: 面への打突による首への衝撃、突きによる喉への衝撃、体当たり、不適切な姿勢の維持、後方転倒など。
    • 対処: 安静、アイシング(急性期)、温熱ケア(慢性期)、ストレッチ。痛みが続く場合や、しびれを伴う場合は整形外科を受診し、フォームの見直しも行いましょう。

 

怪我の予防のために

剣道における怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。

  • 十分なウォーミングアップとクールダウン:
    • 稽古前には全身をしっかり温め、特に足首、膝、股関節、腰、肩、肘、手首などの関節と筋肉を動かす動的ストレッチを重点的に行いましょう。
    • 稽古後には使った筋肉の静的ストレッチを行い、クールダウンすることで疲労回復を促し、柔軟性を維持できます。
  • 正しい足さばきと打突フォームの習得:
    • 正しい踏み込み(かかとからつかない、足全体で着地する意識)やすり足のフォームを身につけることが、足部への負担を軽減します。
    • 竹刀を振る際の体幹を使った全身運動を意識し、手先だけで打たないようにすることで、肩、肘、手首、腰への負担を減らせます。指導者から適切な指導を受けましょう。
  • 筋力トレーニングと柔軟性の向上:
    • 特に体幹(腹筋、背筋)、下半身(大腿四頭筋、ハムストリングス、ふくらはぎ、殿筋)、そして肩周り、前腕の筋力をバランスよく鍛えることで、体の安定性が向上し、衝撃を吸収しやすくなります。
    • 股関節、膝関節、足首、手首、肩、腰の柔軟性を高めるストレッチを継続的に行いましょう。
  • 適切な用具の選択とメンテナンス:
    • 防具: 面、小手、胴、垂れは、自身の体格に合ったサイズのものを着用し、正しく装着しましょう。面紐の緩みがないかなども確認しましょう。
    • 竹刀: 自身の体格や流派に合った長さと重さの竹刀を選び、ささくれや破損がないか使用前に必ず確認しましょう。ささくれは怪我の原因となります。
    • 稽古着・袴: 動きやすいものを着用し、足さばきを妨げないようにしましょう。
    • 剣道着の下に着用するサポーター: 必要に応じて、足首、膝、肘、手首、腰などにサポーターやインナープロテクターを着用することも有効です。特に足裏の保護には厚手の靴下やインソールを検討しましょう。
  • 休息と栄養:
    • 過度な稽古は疲労を蓄積させ、怪我のリスクを高めます。適度な休息日を設け、体の回復を促しましょう。
    • バランスの取れた食事と十分な水分補給も大切です。
  • 症状の早期発見と対処:
    • 痛みや違和感がある場合は無理せず稽古を中断し、必要であれば整形外科などの医療機関を速やかに受診しましょう。「少しの痛みだから」と我慢して続けることは、重症化を招く最大の要因です。
  • 安全意識の徹底:
    • 稽古相手への配慮や、指導者の指示に従うなど、安全意識を持って稽古に臨みましょう。