痛風は、「風が当たるだけでも痛い」と表現されるほどの激しい痛みを伴う関節炎です。主に体内の尿酸値が高くなる「高尿酸血症」が原因で発症します。
患者さんでも「何もぶつけた訳では無いのに、足の親指が痛い」と症状を訴え、間違えて来院されるケースがあります。男性の方に多いですね。
一般的な足の指の怪我の患者さんと比較すると、赤くパンパンになっているのが特徴的です。ズキズキ痛むことが多いですかね。接骨院では治療不可能ですので、病院への通院を勧める形になります。
そんな痛風について、簡単にまとめてみました。
足の親指の怪我と間違われやすい「痛風」
1. 痛風の病態と原因
- 尿酸とは: 尿酸は、体内でプリン体という物質が分解される際に作られる老廃物です。プリン体は、細胞の核に含まれるDNAやRNAの成分であり、新陳代謝によって体内で生成されるほか、食品からも摂取されます。
- 高尿酸血症: 通常、体内で作られる尿酸と排出される尿酸はバランスが保たれており、血液中の尿酸量は一定に保たれています(尿酸プール)。しかし、尿酸が過剰に作られすぎたり、うまく排泄されなくなったりすると、血液中の尿酸の量が増え、高尿酸血症の状態になります(血清尿酸値が を超える場合)。
- 痛風発作のメカニズム: 高尿酸血症が続くと、血液中に溶けきれなくなった尿酸が結晶化し、関節の滑膜などに沈着します。何らかの拍子(例:激しい運動、飲酒、脱水など)でこの結晶が剥がれ落ちると、白血球がそれを異物とみなして攻撃し、激しい炎症反応が起こります。これが痛風発作です。
- なりやすい人の特徴:
- 飲酒量が多い(特にビール)
- 肉や魚介類(特に内臓系、干物など)を多く食べる
- 果物や甘い飲料(果糖を多く含むもの)をよく摂取する
- 肥満気味である、または急激な体重増加があった
- 激しい運動をする習慣がある
- ストレスが多い
2. 痛風の主な症状
痛風の症状は突然現れるのが特徴で、特に夜間や明け方に発作が起こりやすいです。
- 激しい関節の痛み: 最も一般的な症状で、「風が当たっただけでも痛い」と表現されるほどの激痛です。足の親指の付け根に起こることが最も多く、全体の約7割を占めると言われています。その他、足首、くるぶし、ひざ、手の指、手首、肘などの関節にも起こることがあります。
- 腫れ、赤み、熱感: 痛みのある関節が赤く腫れ上がり、熱を持つことがあります。
- 関節の硬直: 痛みのために関節が動きにくくなることがあります。
痛風発作は、通常 時間で痛みがピークに達し、その後 週間程度で徐々に改善していくことが多いです。しかし、高尿酸血症が改善されないと、発作を繰り返すことになります。
3. 痛風の診断
- 問診・視診: 症状の現れ方や部位、生活習慣などを詳しく聞き取ります。
- 血液検査: 血清尿酸値を測定し、高尿酸血症の有無を確認します。発作中でも尿酸値が高くないことがあるため、数値だけで痛風と判断するわけではありません。
- 尿検査: 尿酸の排出量や腎機能の確認を行います。
- 関節液検査: 痛風発作を起こしている関節から関節液を採取し、顕微鏡で尿酸結晶の有無を確認することで、確定診断ができます。ただし、患者への負担が大きいため、通常は他の検査と組み合わせて行われます。
- 超音波検査、レントゲン検査: 関節内の炎症の程度や尿酸の沈着、尿路結石などの合併症を確認するために行われることがあります。
4. 痛風の治療
痛風の治療は、痛風発作が起きている「急性期」と、発作を予防し尿酸値をコントロールする「慢性期」で異なります。
- 急性期(痛風発作時)の治療:
- 抗炎症薬: 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、コルヒチン、ステロイドなどが用いられます。これらの薬で痛みや腫れを抑えます。
- 安静: 患部を安静にし、アイシングなどで炎症を抑えることも有効です。
- 注意点: 発作中に尿酸値を下げる薬を服用すると、かえって痛風発作が悪化する可能性があるため、発作が治まるまでは尿酸降下薬は使用しません。
- 慢性期(高尿酸血症の治療)の治療:
- 尿酸降下薬:
- 尿酸生成抑制薬: 体内で尿酸が作られるのを抑える薬(例:アロプリノール、フェブキソスタットなど)。
- 尿酸排泄促進薬: 腎臓からの尿酸の排出を促す薬(例:ベンズブロマロン、ユリスなど)。これらの薬は、発作が治まった後に少量から開始し、徐々に尿酸値を目標値まで下げていきます。
- 生活習慣の改善: 薬物療法と並行して、生活習慣の改善が非常に重要です。
- 尿酸降下薬:
5. 痛風の予防と生活習慣の改善
痛風の予防と治療には、生活習慣の見直しが不可欠です。
- 食事療法:
- プリン体の摂取制限: レバー、あん肝、白子、干物など、プリン体を多く含む食品の過剰摂取を控えましょう。ただし、極端な制限は必要なく、適量を守ることが大切です。
- アルコール制限: 特にビールはプリン体が多く、アルコール自体も尿酸値を上昇させるため、控えめにしましょう。禁酒が理想ですが、難しい場合は量を減らす、休肝日を設けるなど工夫します。
- 果糖(砂糖)の摂取制限: 果糖を多く含む甘い清涼飲料水や果物ジュースは尿酸値を上げるため、控えるべきです。
- 水分補給: 1日 の水やお茶を意識的に摂り、尿量を増やして尿酸の排出を促しましょう。甘い飲み物は避けます。
- 尿をアルカリ化する食品の摂取: 野菜、海藻、きのこ類、いも類、乳製品などは尿をアルカリ性にし、尿酸が溶けやすく排泄されやすくなるため、積極的に摂りましょう。
- バランスの取れた食事: 肥満解消のため、適正エネルギーの摂取を心がけ、腹八分目を意識します。
- 運動:
- 適度な有酸素運動: ウォーキングや水泳など、軽い有酸素運動は肥満解消や尿酸値の改善に効果的です。
- 注意点: 激しい運動は、かえって尿酸値を上げる可能性があるため避けるべきです。また、運動中の脱水予防のために、適切な水分補給を心がけましょう。
- その他:
- ストレス管理: ストレスも尿酸値を上げる要因となるため、適度な休息やリラックスを心がけましょう。
- 定期的な健康診断: 高尿酸血症は無症状の期間が長いため、定期的に尿酸値をチェックし、早期発見・早期治療に繋げることが重要です。
6. 痛風の合併症
痛風や高尿酸血症は、他の生活習慣病と密接に関連しており、様々な合併症を引き起こす可能性があります。
- 痛風結節: 尿酸結晶が関節や耳介などに沈着し、コブ状に腫れることがあります。
- 尿路結石: 尿酸が尿路で結晶化し、結石を形成することで激しい痛みや血尿を引き起こします。
- 腎臓病(痛風腎): 尿酸結晶が腎臓に沈着し、腎機能が低下することがあります。
- メタボリックシンドローム: 痛風患者の多くは、肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を合併していることが多く、これらは動脈硬化を進行させ、心血管疾患(心筋梗塞など)や脳血管疾患(脳卒中など)のリスクを高めます。
痛風発作は高尿酸血症の「警鐘」です。痛みが治まったからといって放置せず、高尿酸血症の根本的な治療と生活習慣の改善を継続し、合併症の発症を防ぐことが大切です。