スキーは、スピードが出るスポーツであり、滑走中の転倒や衝突、不整地でのバランス喪失など、様々な要因で外傷や怪我が発生しやすい特性があります。
特に、下半身の怪我が圧倒的に多く、中でも膝の靭帯損傷は重症化しやすく、スキーヤーにとって最も注意すべき怪我の一つです。
また、近年ではスノーボードとの接触事故など、衝突による怪我も増えています。
ここでは、スキーで発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。
※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。
スキーで発生しやすい外傷・怪我
1. 膝の怪我(最も重要かつ高頻度)
スキーの怪我の中で最も多く、かつ重症化しやすい部位です。転倒時にスキー板が外れず膝にねじれが生じたり、高速での転倒や衝突で大きな力が加わったりすることで発生します。
- 前十字靭帯損傷(ぜんじゅうじじんたいそんしょう)
- 症状: 受傷時に「ブチッ」という断裂音や感覚がある、膝の激しい痛みと腫れ、膝が不安定でガクガクする(膝くずれ)。
- 原因: 転倒時にスキー板が外れずに膝が過度にねじれたり、曲がったりすることで発生します。特に、後方に転倒し、スキー板が前に残るような「雪面での転倒」や「後傾姿勢での転倒」で起こりやすいです。
- 対処: 手術が必要となる場合がほとんどです。受傷後はRICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)を行い、速やかに整形外科を受診しましょう。長期のリハビリテーションが必要です。
- 内側側副靭帯損傷(ないそくそくふくじんたいそんしょう)
- 症状: 膝の内側の痛みと腫れ、膝のぐらつき。前十字靭帯損傷よりは安定していることが多いです。
- 原因: 膝の外側からの強い衝撃(内股になるような転倒)、または膝が内側にねじられることで発生します。
- 対処: 軽度であれば保存療法(RICE処置、サポーターなどによる固定、リハビリテーション)で回復することが多いですが、痛みが続く場合は医療機関を受診しましょう。
- 半月板損傷(はんげつばんそんしょう)
- 症状: 膝の痛み、引っかかり感、ロッキング現象(膝が曲がったまま伸びない)、膝の腫れ。
- 原因: 転倒時や滑走中に膝がねじれたり、衝撃が加わったりすることで、膝のクッションである半月板が損傷します。
- 対処: 医療機関を受診し、損傷の程度を診断してもらいます。保存療法で改善しない場合は手術が検討されます。
2. 足首・下腿の怪我
スキーブーツで足首が固定されるため、直接的な足首の捻挫は少ないですが、その分、下腿(すね)の骨折や足首周辺のより重篤な怪我に繋がることがあります。
- 脛骨骨折(けいこつこっせつ)/腓骨骨折(ひこつこっせつ)
- 症状: 下腿の激しい痛み、腫れ、変形。体重をかけることができない。
- 原因: スキー板が外れずに下腿に強いねじれや圧迫の力が加わる、高速での転倒や衝突。
- 対処: 骨折の可能性が高いため、直ちに整形外科を受診しましょう。 固定や手術が必要となります。
- アキレス腱断裂
- 症状: 運動中に「後ろから蹴られたような」突然の強い衝撃と激痛、立つ・歩くことが困難。
- 原因: 急なターンや転倒時、またはブーツからの足の抜けが悪かった際にアキレス腱に強い負荷がかかる。
- 対処: 緊急性の高い怪我であり、速やかに整形外科を受診する必要があります。多くの場合、手術が必要です。
3. 頭部・顔面の怪我
転倒や衝突の際に最も重篤な結果を招く可能性がある部位です。
- 脳震盪(のうしんとう)
- 症状: 一時的な意識喪失、意識混濁、めまい、吐き気、頭痛、記憶障害(受傷時の記憶がない)、集中力の低下など。
- 原因: 転倒時に頭部を雪面に強く打ち付ける、他のスキーヤーや物体との衝突。
- 対処: 直ちに滑走を中止し、医療機関を受診することが必須です。症状が軽いと思われても、必ず医師の診断を受けましょう。繰り返しの脳震盪は、慢性的な脳障害につながる危険性があります。
- 顔面骨骨折(鼻骨骨折、頬骨骨折など)・裂傷
- 症状: 顔面の痛み、腫れ、変形、出血。
- 原因: 転倒や衝突時に顔面を打ち付ける。
- 対処: 医療機関を受診し、適切な治療を受けましょう。
4. 肩・腕・手首の怪我
転倒時に手をついたり、ストックでバランスを崩したりすることで発生します。
- 肩関節脱臼(けんかんせつだっきゅう)
- 症状: 肩の激しい痛み、腕が動かせない、肩の変形。
- 原因: 転倒時に肩から地面に強く打ち付けたり、腕が不自然な方向に引っ張られたりする。
- 対処: 速やかに医療機関を受診し、整復する必要があります。一度脱臼すると再発しやすいため、適切なリハビリテーションや、場合によっては手術が検討されます。
- 鎖骨骨折(さこつこっせつ)
- 症状: 鎖骨部分の激しい痛み、腫れ、変形、腕を動かせない。
- 原因: 肩や腕から強く転倒した際に、その衝撃が鎖骨に集中する。
- 対処: 骨折の可能性が高いため、直ちに整形外科を受診する。固定や手術が必要となることがあります。
- 手首の捻挫/骨折(舟状骨骨折など)
- 症状: 手首の痛み、腫れ、動かすと痛む。
- 原因: 転倒時に手をつく、ストックを握ったまま転倒するなど。
- 対処: RICE処置が基本です。痛みが引かない場合は医療機関を受診しましょう。舟状骨骨折は発見が遅れると治りにくいため注意が必要です。
- 親指の靭帯損傷(スキーヤー母指)
- 症状: 親指の付け根(MP関節)の痛み、腫れ、指を動かすと不安定感がある。
- 原因: ストックを握ったまま転倒し、親指が外側に強く反らされることで、親指の靭帯が損傷する。
- 対処: 軽度であればテーピングや装具による固定。重度の場合は手術が必要となることもあります。
5. 腰の怪我
転倒時の衝撃や、滑走中の不自然な姿勢などで腰に負担がかかります。
- 腰痛(筋・筋膜性腰痛、腰椎捻挫、椎間板ヘルニアなど)
- 症状: 腰の重だるさ、張り、特定の動作での痛み。
- 原因: 転倒時の衝撃、滑走中の前傾姿勢や腰のひねり、不整地での衝撃吸収。
- 対処: 急性期は安静とアイシング。痛みが落ち着いたら温熱ケア、ストレッチ、体幹強化。痛みが続く場合は医療機関を受診しましょう。
怪我の予防のために
スキーにおける怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。
- 十分なウォーミングアップとクールダウン:
- 滑走前には全身をしっかり温め、特に膝、足首、股関節、肩などの関節と筋肉を動かす動的ストレッチを重点的に行いましょう。
- 滑走後にはクールダウンで筋肉をケアし、疲労回復を促しましょう。
- レベルに合ったコース選択と無理のない滑走:
- 自身の技術レベルや体力、経験に合ったコースを選びましょう。難しいコースや悪雪での無理な滑走は怪我のリスクを高めます。
- スピードの出しすぎに注意し、常に周囲の状況を確認しながら滑りましょう。
- 正しい滑走技術とフォームの習得:
- インストラクターから指導を受け、安全で効率的な滑走技術を身につけることが重要です。特に、バランスの取り方、転倒時の対処法(安全な転び方)、状況に応じたターンの使い分けを習得しましょう。
- 筋力トレーニングと柔軟性の向上:
- 特に下半身(大腿四頭筋、ハムストリングス、殿筋)の筋力を鍛えることで、衝撃吸収能力が高まり、膝への負担を軽減できます。
- 体幹強化は全身の安定性を高め、滑走中のバランス維持に役立ちます。
- 股関節、膝関節、足首の柔軟性を高めるストレッチを継続的に行いましょう。
- 適切な用具の選択と調整:
- スキー板とビンディング: 体重、身長、技術レベルに合った板の長さやフレックス、ビンディングの解放値(ISO値)を設定しましょう。ビンディングが適切に設定されていないと、転倒時に板が外れず、膝への負担が大きくなります。専門店で専門家による調整を受けましょう。
- スキーブーツ: 足にフィットし、足首がしっかりと固定されるブーツを選びましょう。
- ヘルメット: 頭部保護のために必ず着用しましょう。多くのスキー場で着用が推奨されています。
- プロテクター: 背中、肘、膝、手首など、必要に応じてプロテクターを装着しましょう。
- 休息と栄養:
- 長時間の滑走や連日のスキーは疲労を蓄積させ、判断力や反応速度を低下させ、怪我のリスクを高めます。適度な休息を設け、体の回復を促しましょう。
- バランスの取れた食事と十分な水分補給も大切です。
- 症状の早期発見と対処:
- 痛みや違和感がある場合は無理せず滑走を中断し、必要であれば整形外科などの医療機関を速やかに受診しましょう。「少しの痛みだから」と我慢して続けることは、重症化を招く最大の要因です。