ラクロスは、クロス（スティック）を使ってボールを運び、ゴールにシュートするスポーツです。
フィールドラクロスとボックスラクロス（屋内）がありますが、いずれも高速での走行、急停止、方向転換、ジャンプ、そして相手選手との激しい接触（特に男子）が特徴で、全身に高い負荷がかかります。
そのため、膝、足首といった下肢の関節や、頭部、肩、鎖骨、顔面、そして腰に、捻挫、骨折、靭帯損傷、脳震盪などの急性外傷が非常に多く見られます。
また、繰り返し行われるスイング動作やランニングによるオーバーユース（使いすぎ）による慢性的な痛みも発生します。
特に男子ラクロスはコンタクトが許容されるため、外傷のリスクが高まります。
ここでは、ラクロスで発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。
※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。
ラクロスで発生しやすい怪我・痛み
下肢の怪我（最も高頻度）
高速での走行、急停止、方向転換、ジャンプ、そして相手選手との接触が下肢に大きな負担をかけます。
- 膝関節靭帯損傷（特に前十字靭帯、内側側副靭帯）・半月板損傷
- 症状: 膝の激しい痛み、腫れ、不安定感、ロッキング（膝が曲げ伸ばしできない状態）。
- 原因: 急停止、方向転換、ジャンプの着地といった膝への大きな負荷。相手選手との接触や衝突による膝のねじれや外力。女子選手に多く見られます。
- 対処: 直ちにプレーを中断し、RICE処置（安静、冷却、圧迫、挙上）を行い、速やかに整形外科を受診しましょう。重度の靭帯損傷や半月板損傷では手術が必要となることがほとんどです。
- 足関節捻挫（高頻度）
- 症状: 足首の痛み、腫れ、内出血。ひどい場合は体重をかけられない。
- 原因: 急停止や方向転換時の足首のひねり、相手選手との接触、あるいは不適切なシューズやグラウンド面での滑り。
- 対処: RICE処置が基本です。痛みが続く場合や腫れがひどい場合は医療機関を受診し、靭帯の損傷度合いを確認することが重要です。適切なリハビリを行わないと再発しやすいため注意が必要です。
- 肉離れ（特にハムストリングス、ふくらはぎ、大腿四頭筋）
- 症状: 運動中に突然の激痛、へこみや腫れ。
- 原因: 急なダッシュ、急停止、方向転換、あるいはシュートなどの瞬間的な強い筋力発揮。ウォーミングアップ不足、柔軟性不足、筋肉疲労が主な原因です。
- 対処: 直ちにプレーを中断し、RICE処置を速やかに行い、医療機関を受診しましょう。
- シンスプリント（脛骨過労性骨膜炎）
- 症状: すねの内側の下の方に痛みが生じる。運動時に痛みが強くなり、安静にすると軽減する。
- 原因: 硬いグラウンドや人工芝での繰り返し走る動作、足首の柔軟性不足、不適切なシューズなどが原因で、すねの筋肉や骨膜に炎症が起こる。
- 対処: 安静、アイシング、ストレッチ（ふくらはぎ）、インソールの使用。痛みが続く場合は医療機関を受診。
頭部・顔面の怪我（重篤な可能性あり）
ボールやクロス、あるいは相手選手との接触が頭部や顔面に直撃するリスクがあります。
- 脳震盪（のうしんとう）
- 症状: 頭痛、めまい、吐き気、平衡感覚の障害、意識混濁、記憶障害、集中力の低下など。
- 原因: クロスによる打撃、ボールの直撃、あるいは相手選手との衝突。転倒して頭部を地面に打ち付けること。
- 対処: 直ちにプレーを中止し、速やかに医療機関を受診することが必須です。症状が軽いと思われても、必ず医師の診断を受け、復帰には段階的なプロトコルが必要です。
- 顔面骨折（鼻骨、頬骨など）・歯の損傷・裂傷
- 症状: 顔面の痛み、腫れ、内出血、変形、出血。
- 原因: クロスによる打撃、ボールの直撃、あるいは相手選手との衝突。
- 対処: 出血がある場合は止血し、腫れや変形がある場合は速やかに医療機関（耳鼻咽喉科、歯科、口腔外科など）を受診しましょう。
- 予防: ヘルメット（男子）、フェイスガード（女子）、マウスガードの着用。
- 眼球打撲・眼瞼（がんけん）裂傷
- 症状: 目の痛み、充血、視力低下、まぶたの腫れや出血。
- 原因: ボールやクロスの先端が目に直撃すること。
- 対処: 直ちに眼科を受診しましょう。視力に影響が出る可能性があります。
- 予防: フェイスガードまたはゴーグルの着用。
上肢・体幹の怪我
クロスを使った操作や相手選手とのコンタクトが原因となります。
- 肩関節脱臼/亜脱臼・鎖骨骨折・肩鎖関節脱臼
- 症状: 肩や鎖骨の激しい痛み、腫れ、変形、腕を動かせない。
- 原因: 相手選手との激しい衝突、あるいは転倒時に肩から地面に打ち付けることによる直接的な衝撃。
- 対処: 直ちにプレーを中断し、速やかに医療機関を受診しましょう。脱臼の場合は整復が必要です。
- 手首の捻挫・骨折
- 症状: 手首の痛み、腫れ、変形。
- 原因: クロスを握った状態での転倒、あるいは相手選手との接触。
- 対処: 応急処置後、痛みが続く場合や変形がある場合は医療機関を受診。
- 腰痛（筋・筋膜性腰痛、腰椎捻挫など）
- 症状: 腰の重だるさ、張り、特定の動作での痛み。
- 原因: シュートやパス時の体幹のひねり動作、急停止、低い姿勢からの切り返し、体幹の安定性不足、柔軟性不足。
- 対処: 急性期は安静とアイシング。痛みが落ち着いたら温熱ケア、ストレッチ、そして体幹の強化が重要です。痛みが続く場合は医療機関を受診。
- 打撲・擦り傷・裂傷
- 症状: 皮膚の損傷、出血、痛み、腫れ。
- 原因: 相手選手との衝突、クロスによる打撃、ボールが体に当たる、転倒。
- 対処: アイシング、清潔な処置。深い傷や出血が多い場合は医療機関を受診。
- 予防: 適切な保護具（肩パッド、肘パッド、グローブ、チェストプロテクターなど）の着用。
その他（全身の怪我）
- 熱中症
- 症状: 頭痛、めまい、吐き気、倦怠感、発汗異常、意識障害など。
- 原因: 夏季の屋外での長時間のプレー、不十分な水分補給。
- 対処: 涼しい場所への移動、水分・塩分補給。症状が改善しない場合や意識障害がある場合は速やかに医療機関を受診しましょう。
- 予防: 十分な水分補給、適切な休憩、暑い時間帯を避けた活動。
怪我の予防のために
ラクロスにおける怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。特に、そのコンタクトの性質上、適切な保護具の着用と安全意識が不可欠です。
- 適切な保護具の着用（必須）:
- ヘルメットとフェイスガード（男子）: 頭部や顔面外傷の予防に最も重要であり、着用が必須です。
- ゴーグルまたはフェイスガード（女子）: 目や顔面へのボールやクロスの直撃を防ぐため、必須とされています。
- マウスガード（マウスピース）: 歯や顎の損傷、脳震盪のリスク軽減に非常に有効であり、着用が強く推奨されます。
- 肩パッド、肘パッド、グローブ: 男子ラクロスではこれらの保護具が義務付けられています。コンタクト時の衝撃から保護します。
- チェストプロテクター（ゴールキーパー）: 胸部へのボールの直撃を防ぎます。
- 十分なウォーミングアップとクールダウン（最も重要）:
- 練習や試合前には全身をしっかり温め、特に足首、膝、股関節、腰、肩、肘、手首など、ラクロスの多様な動きに関わる全ての関節と筋肉を動かす動的ストレッチを重点的に行いましょう。全身の関節の可動域を広げ、筋肉の温度を高めることで、急な動きや大きな可動域での怪我を防ぎます。
- 練習後には使った筋肉の静的ストレッチを丁寧に行い、クールダウンすることで疲労回復を促し、柔軟性を維持できます。特に、下肢、体幹、肩、股関節周囲のストレッチは入念に行いましょう。
- 正しいフットワークとフォームの習得:
- 経験豊富な指導者から、効率的で体に負担の少ないダッシュ、急停止、方向転換のフットワークや、シュート・パスのスイングフォームを学ぶことが何よりも重要です。不適切なフォームや無理な動きは、特定の部位への過度な負担となり、怪我の原因となります。
- 特に、膝や足首への衝撃を和らげる着地方法や、体幹を使った安定したプレーを習得することが不可欠です。
- 筋力トレーニングと柔軟性の向上:
- ラクロスに必要な全身の筋力、特に下半身（素早い動き、ダッシュ、ジャンプに対応する）、体幹（安定性）、そして肩や腕（シュート・パスのパワー）の筋力と持久力をバランスよく鍛えることが、パフォーマンス向上と怪我の予防に繋がります。
- 全身の柔軟性、特に股関節、膝、足首、ハムストリングス、肩、脊柱の柔軟性を高めることで、無理のない可動域で動作を行え、オーバーユース障害や肉離れのリスクを減らせます。
- 段階的な練習量・強度の増加と休息:
- 急激な運動量や強度の増加は避け、無理のない範囲で徐々に体を慣らしていきましょう。オーバーユースが怪我の主な原因となるため、適切な休息日を設け、疲労が蓄積している場合は無理せず休養を取りましょう。
- 適切なシューズと用具の選択:
- プレーするグラウンドの種類に合わせた適切なスパイクまたはシューズを選びましょう。足にフィットしないシューズは、足首の捻挫やマメの原因となります。
- 自分に合った長さや重さのクロスを選ぶことも、負担軽減に繋がります。
- 体調管理と栄養・休息:
- バランスの取れた食事で、筋肉や関節の回復に必要な栄養をしっかり摂りましょう。
- 十分な睡眠を確保し、疲労回復と体の修復を促しましょう。
- こまめな水分補給も忘れずに行いましょう。
- ルールの遵守と安全意識:
- ラクロスはコンタクトが許容されるスポーツですが、危険なプレー（不必要なクロスチェックや体当たりなど）は避け、相手選手への配慮を忘れずにプレーすることが重要です。
- 審判の指示に従い、フェアプレーを心がけましょう。
- 症状の早期発見と対処:
- 痛みや違和感がある場合は無理せずプレーを中断し、必要であれば医療機関を速やかに受診しましょう。「少しの痛みだから」と我慢して続けることは、軽度な症状を重症化させる最大の要因ですし、長期的なパフォーマンス低下や競技を続けること自体が困難になる可能性もあります。
