登山・ハイキングで発生しやすい怪我・痛み

スポーツによる怪我・痛み

登山は、美しい自然を満喫できる素晴らしいアクティビティですが、同時に身体に大きな負担がかかり、様々な怪我や痛みのリスクを伴います。

不整地での歩行、長時間にわたる運動、荷物の重さ、そして天候の変化などが複合的に影響し、特に膝、足首といった下肢の関節や、腰、肩に、オーバーユース(使いすぎ)による慢性的な痛みや、転倒による捻挫、骨折などが多く見られます。

また、標高が高い場所では、低酸素や低温による影響も考慮する必要があります。

ここでは、登山で発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。

※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。

登山で発生しやすい怪我・痛み

下肢の怪我(最も高頻度)

上り下りの繰り返し、不整地でのバランス維持、荷物の重さなどが下肢に大きな負担をかけます。

  • 膝関節痛(ランナー膝、ジャンパー膝、変形性膝関節症の悪化など)
    • 症状: 膝の外側、お皿のすぐ下、またはお皿の周囲の痛み。特に下り坂での痛みが強くなることが多い。
    • 原因: 長時間の上り下りや、荷物の重さによる膝への繰り返し負荷(オーバーユース)。特に下り坂では、ブレーキをかける動きで膝に大きな負担がかかります。大腿四頭筋やハムストリングスの筋力不足や柔軟性不足、不適切なシューズ、登山道のコンディションなども影響します。
    • 対処: 安静、アイシング、大腿四頭筋やハムストリングスの強化、ストレッチ。サポーターやストックの使用も有効です。痛みが続く場合は整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。
  • 足関節捻挫(最も高頻度)
    • 症状: 足首の痛み、腫れ、内出血。ひどい場合は体重をかけられない。
    • 原因: 不整地での着地ミス、石や木の根に足を取られる、バランスを崩して転倒。
    • 対処: RICE処置(安静、冷却、圧迫、挙上)が基本です。痛みが続く場合や腫れがひどい場合は医療機関を受診し、靭帯の損傷度合いを確認することが重要です。適切なリハビリを行わないと再発しやすいため注意が必要です。
  • 疲労骨折(特に脛骨、中足骨)
    • 症状: 特定の骨に限局した痛み。歩行時に痛みが強くなり、安静にすると軽減するが、再び歩くと痛む。
    • 原因: 骨への繰り返し負荷による微細な損傷の蓄積(オーバーユース)。急激な登山距離や標高差の増加、不適切なシューズなどがリスクを高めます。
    • 対処: 長期間の絶対安静が必須です。医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。
  • アキレス腱炎 / 足底筋膜炎
    • 症状: アキレス腱周辺や、かかとの足の裏側(特に土踏まずからかかとにかけて)の痛み。特に歩き始めや、上り下りで痛みが強くなる。
    • 原因: 長時間の歩行や、上り下りによる繰り返し負荷(オーバーユース)。ふくらはぎや足底筋膜の柔軟性不足、不適切なシューズも影響します。
    • 対処: 安静とアイシング。ストレッチ(ふくらはぎ、足底筋膜)、インソールの使用。痛みが引かない場合は医療機関を受診しましょう。
  • 肉離れ(特にふくらはぎ、ハムストリングス)
    • 症状: 歩行中や上り下り中に突然の激痛、へこみや腫れ。
    • 原因: 長時間の歩行による筋肉疲労、急な動き、ウォーミングアップ不足、柔軟性不足。
    • 対処: 直ちに歩行を中断し、RICE処置を速やかに行い、医療機関を受診しましょう。

 

腰・背中の怪我

重いザックの負荷、不整地でのバランス維持、前かがみの姿勢などが腰や背中に負担をかけます。

  • 腰痛(筋・筋膜性腰痛、腰椎捻挫、椎間板ヘルニアなど)
    • 症状: 腰の重だるさ、張り、特定の動作での痛み。ひどい場合はお尻や足への放散痛やしびれ。
    • 原因: 重いザックによる腰への持続的な負荷、不整地でのバランスを取るための繰り返し行われる体幹のひねりや屈曲・伸展動作、体幹の安定性不足、柔軟性不足、疲労。
    • 対処: 急性期は安静アイシング。痛みが落ち着いたら温熱ケアストレッチ、そして体幹の強化(腹筋、背筋、殿筋など)が特に重要です。痛みが続く場合や神経症状を伴う場合は整形外科を受診しましょう。

 

肩・首の怪我

重いザックの負荷、バランス維持のための腕の振りなどが原因となります。

  • 肩こり・肩関節痛
    • 症状: 肩や首の重だるさ、張り、特定の動きでの痛み。
    • 原因: 重いザックの不適切な背負い方による肩や首への持続的な負荷。長時間の前傾姿勢や、バランス維持のための腕の振りすぎ。
    • 対処: ストレッチ、温熱ケア、ザックのフィッティング見直し。痛みが続く場合は医療機関を受診。

 

その他(全身の怪我)

  • 打撲・擦り傷・裂傷
    • 症状: 皮膚の損傷、出血、痛み、腫れ。
    • 原因: 転倒、落石、木の枝や岩との接触。
    • 対処: アイシング、清潔な処置。深い傷や出血が多い場合は医療機関を受診。
  • マメ・靴擦れ
    • 症状: 皮膚の水ぶくれ、痛み。
    • 原因: 不適切な登山靴や靴下、長時間の歩行による摩擦。
    • 対処: 清潔な処置。潰さずに保護。
    • 予防: 足に合った登山靴の選択と調整、適切な厚さの登山用靴下の着用。
  • 熱中症・脱水症状
    • 症状: 頭痛、めまい、吐き気、倦怠感、発汗異常、意識障害など。
    • 原因: 夏季の登山、水分補給の不足。
    • 対処: 涼しい場所への移動、水分・塩分補給。症状が改善しない場合や意識障害がある場合は速やかに医療機関を受診しましょう。
    • 予防: 十分な水分補給、休憩、暑い時間帯を避けた行動、帽子などの着用
  • 低体温症・凍傷
    • 症状: (低体温症)震え、倦怠感、意識レベルの低下、口調が不明瞭になるなど。(凍傷)皮膚の痛み、かゆみ、赤み、水ぶくれ、感覚の麻痺。
    • 原因: 悪天候下(低温、強風、雨)での活動、十分な防寒対策の不足。
    • 対処: 体を温める(温かい飲み物、毛布など)。重症の場合は医療機関を受診。
    • 予防: 適切な防寒着の着用(重ね着)、十分な休憩、悪天候時の無理な行動回避
  • 高山病
    • 症状: 頭痛、吐き気、めまい、食欲不振、倦怠感、睡眠障害など。重症化すると肺水腫や脳浮腫。
    • 原因: 高い標高での低酸素環境への順応不足。
    • 対処: 安静、水分補給、薬の服用、症状が悪化すれば速やかな下山
    • 予防: ゆっくりとしたペースでの登高、こまめな休憩、十分な水分補給、事前の高所順応

 

怪我の予防のために

登山における怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。

  • 十分なウォーミングアップとクールダウン(最も重要):
    • 登山開始前には全身をしっかり温め、特に足首、膝、股関節、腰など、登山の多様な動きに関わる全ての関節と筋肉を動かす動的ストレッチを重点的に行いましょう。
    • 下山後には使った筋肉の静的ストレッチを丁寧に行い、クールダウンすることで疲労回復を促し、柔軟性を維持できます。特に、下肢、体幹のストレッチは入念に行いましょう。
  • 正しい歩行技術とペース配分:
    • 無理のない一定のペースで歩くことを心がけ、急な登りや下りでも体力を温存しましょう。
    • ストック(トレッキングポール)の活用は、膝や足首への負担を軽減し、バランスを保つのに非常に有効です。特に下り坂では積極的に使用しましょう。
    • 足元をよく見て、不安定な場所や滑りやすい場所を避けて歩く意識を持つことが重要ですし、急がず慎重に一歩一歩踏み出すことが転倒防止に繋がります。
  • 筋力トレーニングと柔軟性の向上:
    • 登山に必要な全身の筋力、特に下半身(大腿四頭筋、ハムストリングス、殿筋、ふくらはぎ)の筋力と持久力、そして体幹(コア)の安定性をバランスよく鍛えることが、パフォーマンス向上と怪我の予防に繋がります。
    • 全身の柔軟性、特に股関節、膝、足首、脊柱の柔軟性を高めることで、無理のない可動域で動作を行え、オーバーユース障害のリスクを減らせます。
  • 段階的な計画と適切な装備:
    • 自分の体力と経験レベルに合った登山計画を立てましょう。いきなり難易度の高い山に挑戦するのではなく、徐々に距離や標高を上げていくことが重要です。
    • 足に合った登山靴の選択と調整は最も重要です。足首をしっかりサポートし、防水性、グリップ力に優れたものを選びましょう。
    • 適切な重さとフィッティングのザックを選び、荷物を効率的にパッキングすることで、腰や肩への負担を軽減できます。
    • 季節や天候に応じた適切なウェア(重ね着)、防寒着、雨具を準備し、体温調節を適切に行いましょう。
  • 体調管理と栄養・休息:
    • 登山前には十分な睡眠をとり、体調を整えましょう。
    • バランスの取れた食事で、行動中に必要なエネルギーと、筋肉や関節の回復に必要な栄養をしっかり摂りましょう。
    • こまめな水分補給と行動食の摂取は、脱水症状やシャリバテ(ハンガーノック)を防ぐために不可欠です。
  • 気象情報の確認と早めの判断:
    • 出発前に必ず最新の気象情報を確認し、悪天候が予想される場合は無理せず計画を変更するか中止しましょう。
    • 登山中も天候の変化に注意し、悪化の兆候が見られた場合は早めに引き返す勇気が必要です。
  • 症状の早期発見と対処:
    • 痛みや違和感がある場合は無理せず歩行を中断し、必要であれば休憩や応急処置を行いましょう。症状が改善しない場合や悪化する場合は、無理せず引き返す、あるいは助けを呼ぶといった適切な判断が必要です。