アーチェリーは、一見静的なスポーツに見えますが、弓を引く動作を繰り返し行うことで、特定の部位に繰り返し負荷がかかる(オーバーユース)ため、様々な怪我や痛みを発生しやすい競技です。
特に、弓を引く側の肩、背中、そして弓を保持する側の腕や肩に負担が集中しやすく、慢性的な痛みに悩まされる選手が多く見られます。
また、競技の性質上、左右非対称の動作となることも怪我のリスクを高める要因となります。
ここでは、アーチェリーで発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。
※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。
アーチェリーで発生しやすい怪我・痛み
肩の怪我(特に弓を引く側)
弓を引く側の肩は、弓を引き絞り、安定させるために最も大きな負荷がかかる部位です。
- 腱板炎(けんばんえん)/ 腱板損傷
- 症状: 弓を引いたり、腕を上げたりする際に、肩の深部に痛みが生じる。特に、弓を引き戻す動作や、射撃後の腕を下ろす際に痛みが増すことがある。夜間痛を伴うこともある。
- 原因: 弓を引く動作における肩の腱板(ローテーターカフ)への繰り返しによる過度な負荷(オーバーユース)。特に、不適切なフォーム(肩をすくめる、過度に肩関節を内旋させるなど)、筋力不足、柔軟性不足が主な原因となります。
- 対処: 安静が重要です。アイシング、炎症を抑える薬の使用、そして肩甲骨の安定化、インナーマッスルの強化、そして正しい射撃フォームの修正を中心としたリハビリテーションが重要です。重度の損傷では手術が検討されることもあります。
- 肩峰下インピンジメント症候群
- 症状: 肩を上げた際に、肩の前面や側面に痛みが生じる。特定の角度で腕を動かすと痛みが強くなることが多い。
- 原因: 弓を引く動作で、肩の腱(腱板)や滑液包が肩峰(けんぽう)という骨に挟まり、炎症を起こす。肩甲骨の動きの悪さや、姿勢の悪さも影響します。
- 対処: 安静、アイシング、姿勢改善、肩甲骨周りのストレッチや筋力強化。
- 上腕二頭筋長頭腱炎(じょうわんにとうきんちょうとうけんえん)
- 症状: 肩の前方、特に腕の付け根に近い部分の痛み。弓を引く動作や腕を上げる際に痛みが強くなる。
- 原因: 弓を引く動作における上腕二頭筋腱への繰り返し負荷。
- 対処: 安静、アイシング、ストレッチ、筋力強化。
背中・腰の怪我
弓を引き絞り、安定した姿勢を保つために背中と腰に大きな負担がかかります。
- 腰痛(筋・筋膜性腰痛、腰椎捻挫など)
- 症状: 腰の重だるさ、張り、特定の動作での痛み。
- 原因: 弓を引く際の不適切な体幹の姿勢(反りすぎ、丸めすぎ)、体幹の筋力不足、繰り返し同じ動作を行うことによるオーバーユース。左右非対称の動作も腰への負担を増加させます。
- 対処: 急性期は安静とアイシング。痛みが落ち着いたら温熱ケア、ストレッチ、そして体幹の強化(腹筋、背筋、殿筋など)が特に重要です。痛みが続く場合は医療機関を受診しましょう。
- 脊柱起立筋の痛み・張り
- 症状: 背中の中央から腰にかけての痛みや強い張り。
- 原因: 弓を引き絞り、姿勢を維持するために脊柱起立筋に継続的に力がかかることによる疲労や過負荷。
- 対処: ストレッチ、温熱ケア、マッサージ。体幹の強化も重要です。
肘・腕の怪我
弓を引く側の肘は伸展位を保ち、弓を保持する側の腕は弓の重さを支えるため、それぞれに負担がかかります。
- 外側上顆炎(がいそくじょうかえん)/ テニス肘
- 症状: 弓を引く側の肘の外側に痛みが生じ、特に手首を手の甲側に反らせたり、物を掴んで持ち上げたりする際に痛みが強くなる。
- 原因: 弓を引く動作で、肘の外側への負荷が繰り返しかかることによる腱の炎症。引き手の指を伸ばしたまま弓を引く、手首を過度に伸展させるなどのフォームが影響します。
- 対処: 安静が基本です。アイシング、ストレッチ(前腕伸筋群)、肘バンドの使用、フォームの見直しなどが有効です。痛みが引かない場合は整形外科を受診しましょう。
- 内側上顆炎(ないそくじょうかえん)/ ゴルフ肘
- 症状: 弓を引く側の肘の内側に痛みが生じ、特に手首を手のひら側に曲げたり、強く握り込んだりする際に痛みが強くなる。
- 原因: リリース時に指で弦を保持する筋肉への負荷や、弓を保持する側の腕への負担も原因となることがあります。
- 対処: 外側上顆炎と同様に、安静、アイシング、ストレッチ、医療機関での治療が行われます。
- 腕の筋肉の張り・疲労
- 症状: 前腕や上腕の筋肉の張りやだるさ。
- 原因: 弓の保持や引き伸ばしによる筋肉の継続的な使用。
- 対処: ストレッチ、マッサージ、クールダウン。
首の怪我
弓を引く際に頭の位置を固定したり、特定の姿勢を維持したりすることで首に負担がかかります。
- 頸部痛(頸椎捻挫、筋・筋膜性頸部痛など)
- 症状: 首の痛み、首が動かしにくい、肩や腕への放散痛、しびれ。
- 原因: 弓を引く際の不適切な頭部の位置(顎を突き出しすぎる、頭を傾けすぎるなど)、首の筋肉の過度な緊張、反復動作によるオーバーユース。
- 対処: 安静、アイシング(急性期)、温熱ケア(慢性期)、ストレッチ。痛みが続く場合や、しびれを伴う場合は整形外科を受診しましょう。
その他の怪我
- 指の痛み・関節炎(特に弦を引く指)
- 症状: 弦を引く指の関節の痛み、腫れ。
- 原因: 弦を直接引くことによる指の関節や腱への繰り返し負荷。
- 対処: 安静、アイシング、フィンガータブやグローブの見直し。痛みが続く場合は医療機関を受診。
- 擦り傷・打撲(ストリングスラップなど)
- 症状: 腕の内側や胸部の擦り傷、内出血。
- 原因: 弓を放った際に弦が腕や胸に当たってしまう(ストリングスラップ)。
- 対処: 清潔にし、絆創膏などで保護。
- 予防: アームガード(腕当て)やチェストガード(胸当て)の着用、正しい射撃フォームの習得。
怪我の予防のために
アーチェリーにおける怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。
- 正しいフォームの習得と維持(最も重要):
- 専門の指導者から、効率的で体への負担が少ない正しい射撃フォームを学ぶことが最も重要です。特に、体幹の安定、肩甲骨の適切な使用、肘や手首の無理のない位置を意識しましょう。
- 動画撮影などを活用して、定期的にフォームをチェックし、修正することも有効です。
- 十分なウォーミングアップとクールダウン:
- 練習前には全身をしっかり温め、特に肩、背中、首、肘、手首といったアーチェリーの動作に関わる全ての関節と筋肉を動かす動的ストレッチを重点的に行いましょう。
- 練習後には使った筋肉の静的ストレッチを行い、クールダウンすることで疲労回復を促し、柔軟性を維持できます。
- 筋力トレーニングと柔軟性の向上:
- アーチェリーに必要な体幹(コア)の安定性と、肩甲骨周囲筋、背筋、腹筋、腕の筋肉などをバランスよく鍛えましょう。特に、弓を引く側の肩のインナーマッスル強化は重要です。
- 全身の柔軟性を高めることで、無理のない可動域で動作を行え、怪我のリスクを減らせます。特に肩、胸、背中、首のストレッチを念入りに行いましょう。
- 適切な弓の選択と設定:
- 自身の体力や筋力レベルに合った適切なポンド数(弓の強さ)の弓を選びましょう。無理に重い弓を使うと怪我のリスクが高まります。
- 弓のセッティング(ドローレングス、ピープサイトの位置など)も、自身の身体に合うように調整してもらいましょう。
- 段階的な練習量・強度の増加と休息:
- 急激な練習量や矢数の増加は避け、段階的に負荷を上げていきましょう。オーバーユースが怪我の主な原因となるため、適切な休息日を設けることが重要です。
- 疲労が蓄積している場合は、無理せず練習内容を調整するか、休養を取りましょう。
- 適切な防具の着用:
- アームガード(腕当て)やチェストガード(胸当て)を必ず着用し、弦が体に当たることを防ぎましょう。
- 弦を引く指には、フィンガータブやグローブを正しく着用し、指への負担を軽減しましょう。
- 栄養と休息:
- バランスの取れた食事で、筋肉や関節の回復に必要な栄養をしっかり摂りましょう。
- 十分な睡眠を確保し、疲労回復と体の修復を促しましょう。
- 症状の早期発見と対処:
- 痛みや違和感がある場合は無理せず練習を中断し、必要であれば整形外科などの医療機関を速やかに受診しましょう。「少しの痛みだから」と我慢して続けることは、軽度な症状を重症化させる最大の要因です。