ドッジボールは、ボールを投げたり避けたりする動作が中心となる、瞬発力と反射神経を要するスポーツです。コート内を走り回り、急な方向転換、ジャンプ、そしてボールの捕球や投球を繰り返すため、全身に負担がかかります。
そのため、指、手首といった上肢の関節や、膝、足首といった下肢の関節に、捻挫、打撲などの急性外傷が多く見られます。
また、ボールが顔面や頭部に直撃することによる外傷のリスクも伴います。
ここでは、ドッジボールで発生しやすい外傷や怪我を、主な部位ごとにまとめて解説します。
※接骨院では施術困難な外傷・怪我も情報として、まとめさせていただきます。
ドッジボールで発生しやすい怪我・痛み
上肢の怪我（高頻度）
ボールを投げたり、受け止めたりする動作が、肩、肘、手首、指に負担をかけます。
- 突き指・指の骨折・指の靭帯損傷
- 症状: 指の痛み、腫れ、変形。ひどい場合は指が曲がらない、あるいは動かせない。
- 原因: 飛んできたボールを不適切に捕球しようとした際に、指の関節に強い衝撃やひねりが加わること。
- 対処: RICE処置（安静、冷却、圧迫、挙上）が基本です。痛みが続く場合や腫れがひどい、変形している場合は、骨折や重度の靭帯損傷の可能性が高いため、速やかに医療機関を受診しましょう。
- 手首の捻挫・腱鞘炎
- 症状: 手首の痛み、腫れ。腱鞘炎の場合は特定の動作で痛みが強くなる。
- 原因: ボールを投げる際の手首の返し動作の繰り返し、あるいはボールを捕球しようとした際に手首に不自然な力が加わること。
- 対処: 安静、アイシング、テーピングやサポーターで保護。痛みが続く場合は医療機関を受診。
- 肩関節痛（腱板炎など）
- 症状: ボールを投げる際に肩の深部に痛みが生じる。
- 原因: ボールを投げる動作の繰り返しによる肩関節への過度な負荷（オーバーユース）。特に、肩のインナーマッスルの疲労や筋力不足、不適切な投球フォームが主な原因となります。
- 対処: 安静（投球動作の中止または軽減）が重要です。アイシング、炎症を抑える薬の使用、そして肩甲骨の安定化、インナーマッスルの強化、正しい投球フォームの修正を中心としたリハビリテーションが重要です。
- 肘関節痛（野球肘に類似）
- 症状: 肘の内側や外側に痛みが生じ、特にボールを投げる際に痛みが強くなる。
- 原因: ボールを投げる動作における肘への繰り返しによる過度な負荷（オーバーユース）。成長期の選手に多く見られます。
- 対処: 安静（投球動作の中止または軽減）が基本です。アイシング、ストレッチ、フォームの見直しなどが有効です。痛みが引かない場合は整形外科を受診しましょう。
下肢の怪我
コート内を走り回るフットワーク、急停止、方向転換、ジャンプが下肢に負担をかけます。
- 足関節捻挫（高頻度）
- 症状: 足首の痛み、腫れ、内出血。ひどい場合は体重をかけられない。
- 原因: フットワーク中の不意な着地ミス、急停止や方向転換での足首のひねり、あるいはコート面での滑りやバランスの崩れ。
- 対処: RICE処置が基本です。痛みが続く場合や腫れがひどい場合は医療機関を受診し、靭帯の損傷度合いを確認することが重要です。
- 膝関節痛（膝蓋大腿関節痛症候群など）
- 症状: 膝のお皿の裏側や周囲の痛み。特にダッシュ、急停止、方向転換、ジャンプの着地で痛みが強くなる。
- 原因: コート内での高速なフットワーク（急停止、急加速、切り返し、ジャンプ、着地）の繰り返しによる膝への過度な負荷（オーバーユース）。大腿四頭筋やハムストリングスの筋力不足や柔軟性不足、不適切なシューズなども影響します。
- 対処: 安静、アイシング、大腿四頭筋やハムストリングスの強化、ストレッチ。サポーターの使用も有効です。痛みが続く場合は整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。
- 肉離れ（特にふくらはぎ、ハムストリングス）
- 症状: 運動中に突然の激痛、へこみや腫れ。
- 原因: 急なダッシュ、急停止、方向転換、あるいはジャンプなどの瞬間的な強い筋力発揮、柔軟性不足、ウォーミングアップ不足。
- 対処: 直ちにプレーを中断し、RICE処置を速やかに行い、医療機関を受診しましょう。
頭部・顔面の怪我（重篤な可能性あり）
投げられたボールが頭部や顔面に直撃するリスクがあります。
- 脳震盪（のうしんとう）
- 症状: 頭痛、めまい、吐き気、平衡感覚の障害、意識混濁、記憶障害など。
- 原因: 投げられたボールが頭部に直撃すること。
- 対処: 直ちにプレーを中止し、速やかに医療機関を受診することが必須です。症状が軽いと思われても、必ず医師の診断を受けましょう。
- 顔面打撲・鼻骨骨折・歯の損傷
- 症状: 顔面の痛み、腫れ、内出血、変形、出血。
- 原因: 投げられたボールが顔面に直撃すること。
- 対処: 出血がある場合は止血し、腫れや変形がある場合は速やかに医療機関（耳鼻咽喉科、歯科、口腔外科など）を受診しましょう。
- 眼球打撲・眼瞼（がんけん）裂傷
- 症状: 目の痛み、充血、視力低下、まぶたの腫れや出血。
- 原因: 投げられたボールが目に直撃すること。
- 対処: 直ちに眼科を受診しましょう。視力に影響が出る可能性があります。
- 予防: ゴーグルやアイガードの着用。
その他（全身の怪我）
- 打撲・擦り傷
- 症状: 皮膚の損傷、出血、痛み、腫れ。
- 原因: ボールが体に当たる、転倒、他の選手との衝突。
- 対処: アイシング、清潔な処置。深い傷や出血が多い場合は医療機関を受診。
- 熱中症
- 症状: 頭痛、めまい、吐き気、倦怠感、発汗異常、意識障害など。
- 原因: 屋外や体育館での長時間の活動、不十分な水分補給。
- 対処: 涼しい場所への移動、水分・塩分補給。症状が改善しない場合や意識障害がある場合は速やかに医療機関を受診しましょう。
- 予防: 十分な水分補給、適切な休憩、暑い時間帯を避けた活動。
怪我の予防のために
ドッジボールにおける怪我のリスクを減らすためには、以下の点に注意することが非常に重要です。
- 十分なウォーミングアップとクールダウン（最も重要）:
- 運動前には全身をしっかり温め、特に足首、膝、股関節、肩、肘、手首、指など、ドッジボールの多様な動きに関わる全ての関節と筋肉を動かす動的ストレッチを重点的に行いましょう。
- 運動後には使った筋肉の静的ストレッチを丁寧に行い、クールダウンすることで疲労回復を促し、柔軟性を維持できます。
- 正しい投球フォームと捕球技術の習得:
- 指導者から、肩や肘に負担の少ない正しい投球フォームを学びましょう。無理なフォームはオーバーユース障害の原因となります。
- ボールを安全に捕球する技術（特に指や手首を保護する）を身につけることが、突き指や骨折の予防に繋がります。
- 筋力トレーニングと柔軟性の向上:
- ドッジボールに必要な全身の筋力、特に下半身（素早い動きに対応する）、体幹（安定性）、そして肩や腕（投球力）の筋力をバランスよく鍛えることが、パフォーマンス向上と怪我の予防に繋がります。
- 全身の柔軟性を高めることで、無理のない可動域で動作を行え、肉離れなどのリスクを減らせます。
- 適切なシューズの選択:
- グリップ力があり、コート内での急停止や方向転換に適した運動靴を選びましょう。足にフィットしないシューズは、足首の捻挫やマメの原因となります。
- 安全なプレー環境の整備:
- プレーする場所の床に滑りやすいものがないか、障害物がないかを確認しましょう。
- 使用するボールの柔らかさや重さも、怪我のリスクに影響します。特に子どもがプレーする場合は、適切なボールを選びましょう。
- ルールの遵守と安全意識:
- 頭部や顔面を狙ってボールを投げない、不用意に相手にぶつからないなど、安全に関するルールを徹底し、選手全員が安全意識を持ってプレーすることが重要ですし、指導者もルールの徹底を促すべきです。
- 必要に応じて、ゴーグルやアイガードの着用も検討しましょう。
- 段階的な練習量・強度の増加と休息:
- 急激な運動量や強度の増加は避け、無理のない範囲で徐々に体を慣らしていきましょう。オーバーユースが怪我の主な原因となるため、適切な休息日を設け、疲労が蓄積している場合は無理せず休養を取りましょう。
- 体調管理と栄養・休息:
- バランスの取れた食事で、筋肉や関節の回復に必要な栄養をしっかり摂りましょう。
- 十分な睡眠を確保し、疲労回復と体の修復を促しましょう。
- こまめな水分補給も忘れずに行いましょう。
- 症状の早期発見と対処:
- 痛みや違和感がある場合は無理せず練習を中断し、必要であれば医療機関を速やかに受診しましょう。「少しの痛みだから」と我慢して続けることは、軽度な症状を重症化させる最大の要因ですし、長期的なパフォーマンス低下や競技を続けること自体が困難になる可能性もあります。
